意外な一面1
魔界ノ扉。
そこから繋がるのは――
魔の者たちが暮らす場所。
光を嫌い、血に唄う。
闇の血を持つ者が息づく世界。
夜に集いし者たちは、今宵また月の下で笑う。
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燃えるような赤に染まった世界へ辿り着く、その少し前。
レッドはまた、あの夢を見ていた。
色のない景色。
灰色に沈んだ神殿のような場所に、ルナが一人で立っている。
その両手には、涙の形をした青い宝石があった。
『……女神ノ涙……見つけた。
これで、二つ目ね』
ルナは宝石を大切そうに胸へ抱く。
『行きましょう。
早く女神様の封印を解かなくちゃ……』
そこで景色は途切れた。
(また……夢……
女神ノ涙……
見つかったんだ……)
次にレッドが目を開けた時、目の前に広がっていたのは夢とはまるで違う世界だった。
空も大地も赤く染まり、地面の割れ目からは橙色の光が脈打つように漏れている。
葉を失った黒い木々は、炎の中でもがく腕のようにねじれていた。
熱を含んだ風が吹くたび、赤い火の粉が二人の周囲を舞う。
『今度は……ここね。
前の所とはずいぶん感じが違うわ』
ルナは警戒しながら周囲を見回し、手にした女神ノ涙へ意識を集中させた。
淡い青の光は、この灼けた世界ではひどく異質に見える。
『女神ノ涙は……』
宝石から伝わってくる気配を辿るように、ルナは目を閉じた。
『……何か……
鋭いものの側にあるみたいね』
手がかりはそれだけだった。
鋭いもの。
刃なのか、牙なのか。
あるいは、尖った山や建物のことなのか。
『また大変そうだけど……
ヴァイオレットも来てるかもしれないし、早く探さなくちゃ』
古代ノ扉で女神ノ涙を奪おうとした少女。
彼女が再び現れる可能性を考えれば、のんびりしてはいられない。
だが、歩き始めたルナの隣で、レッドだけが立ち止まっていた。
『……? レッド?
どうかしたの?』
『ご、ごめん……
さっき見た夢の事を思い出そうと』
『夢……?
また何か見たの?』
『うん……
ルナが女神ノ涙を見つけてたんだ』
ルナの瞳が大きくなる。
『でも……思い出せるのは
神殿みたいな景色だけで……
ここは少し違うみたいだ』
『……神殿?
女神ノ涙は鋭いものを示してたけど関係があるのかしら』
『僕にもわからないけど……
もしかしたら手がかりになるんじゃないかな』
『……そうね。
覚えておくわ』
ルナは赤い世界の奥へ目を向けた。
女神ノ涙が示す「鋭いもの」。
そしてレッドが夢で見た、神殿のような場所。
二つの手がかりを胸に、二人は魔界ノ扉の世界を歩き始めた。
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『きむーん!
きむーん!』
しばらく進んだところで、聞き慣れない声が響いた。
『?』
声の方へ目を向けると、赤い大地の上を小さな生き物が歩いている。
桃色の毛に覆われた丸い身体。
長い耳と尻尾。
片手には、自分の背丈ほどもある髑髏の付いた杖を抱えていた。
どこかで見た存在に似ている。
『タヌキムのおうち……
どこだもんね?』
どうやら、自分の家を探しているらしい。
『あの子なら話せそうだね。
なんだか鏡の精霊に似てるなぁ……』
レッドがそう言うと、ルナはじっと小さな生き物を見つめた。
『へ?
ルナ?』
『な、何でもないわ。
話を聞いてみましょう!』
ルナは早足で近づいていく。
『困ってるなら、抱いてっても……』
その言葉を聞き終えるより先に、小さな生き物――タヌキムの耳がぴんと立った。
『きみゃっ!?』
次の瞬間、タヌキムは脱兎のごとく駆け出した。
『あ、あれ!?
なんで逃げるの!?』
『待ちなさい!
どうして逃げるのよ!』
追いかける二人に、タヌキムは振り返りもせず叫ぶ。
『ぼくちゃん、
しらないひとにちかづくのはあぶないってしってるもんね!』
さらに速度を上げる。
『ケロちゃんもいってたもん!
まいごになったらまっすぐおうちにいくんだもんね』
『……帰れるならいいんだけど、君は迷子なんでしょ?』
レッドのもっともな指摘にも、タヌキムは耳を貸さない。
『やだもんね!
こわいもん!』
『何も怖い事なんてしないよ』
レッドは困ったようにルナを見る。
『ねえ、ルナ?』
『当たり前でしょ?
宝石について聞いて……』
ルナはそこで少しだけ視線を泳がせた。
『後、ちょっと、その……
触れればいいなと思うけど……』
『え?』
レッドが聞き返した瞬間。
『やっぱりこわいもん!
こーないでー!!』
タヌキムは悲鳴を上げ、さらに遠くへ逃げていった。
『ちょ、ちょっと待ちなさい!』
ルナもすぐに後を追う。
レッドはその背中を見ながら、ようやく理解した。
女神ノ涙の情報だけではない。
どうやらルナは――あの桃色の生き物を触ってみたいらしい。




