エピローグ
戦場を包んでいた魔力が消え、再び遺跡へ風が戻ってくる。
ヴァイオレットは荒い息を整えながら、ゆっくりと立ち上がった。
『っ……!』
悔しそうに唇を噛む。
『……どうしても……
渡さないというの』
女神ノ涙を渡すつもりなど、ルナには初めからなかった。
ヴァイオレットは胸元へ手を添える。
その表情に浮かんだのは、宝石を奪えなかった悔しさだけではないように見えた。
『だけど……私は……!』
その先の言葉をヴァイオレットは続けられなかった。
『黙りなさい!』
ルナは杖をヴァイオレットへ向ける。
『あなたの好きになんて
させないわ!』
カースも、ヴァイオレットも、女神ノ涙を狙っている。
二人の目的が同じなのか。
それとも、それぞれ別の理由を抱えているのか。
今はまだ、何も分からない。
だが、どのような事情があろうとも、世界を守るために必要な女神ノ涙を渡すことはできなかった。
『…………』
ヴァイオレットはルナを見つめ返した。
やがて、戦いを続けることを諦めたように目を伏せる。
『わかったわ。
今回は諦めるしかないわね』
彼女の周囲へ再び紫色の光が集まり始めた。
先ほどまでの攻撃的な魔力ではない。
この場から立ち去るための力だった。
『だけど……』
ヴァイオレットは消えかけた身体をわずかに振り返らせる。
『……いずれ、必ず……』
『……っ!』
ルナが杖を握る手に力を込める。
だが、ヴァイオレットの姿は紫色の光へ包まれ、次の瞬間には跡形もなく消えていた。
あとに残されたのは、風に舞う葉と、戦いによって刻まれた地面の傷だけだった。
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召喚された英雄たちも光の粒へ変わり、それぞれの世界へ帰っていく。
静けさの中で、レッドがヴァイオレットの消えた場所を見つめた。
『ヴァイオレット……
あの子は、誰なんだ……?』
『わからないわ』
ルナは女神ノ涙が無事であることを確かめる。
『でも……
女神ノ涙を狙う敵はカースの他にもいたのね……』
黒ノ扉から現れたカース。
そして今、目の前に現れたヴァイオレット。
どちらも女神ノ涙を狙っている。
『あの子も、カースと同じように
女神様を……この世界を滅ぼそうとしているの?』
ヴァイオレットは女神ノ涙を集めさせるわけにはいかないと言った。
しかし、なぜ集めてはならないのか。
女神クロノアをどうしようとしているのか。
その理由は最後まで明かされなかった。
『そんな事……
絶対に許さない……!』
『ルナ……』
レッドは強く言い切るルナを心配そうに見つめる。
ルナは女神ノ涙を両手で包み、自分へ言い聞かせるように続けた。
『あの二人のどちらだろうと女神ノ涙を渡すわけにはいかない』
一つ目を手に入れたばかりだというのに、新たな敵が姿を現した。
残された女神ノ涙は十一。
これから先、カースやヴァイオレットが再び立ちはだかる可能性は高い。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
『行きましょう、レッド。
少しでも早く……
女神ノ涙を集めなくちゃ!』
『うん!』
ルナとレッドは鏡ノ扉へ向かって歩き始めた。
次なる世界で待つ、新たな女神ノ涙を探すために。
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現れた謎の少女。
女神ノ涙を狙う、第二の敵。
それを退けた二人は刻ノ大地へと帰還する。
残された女神ノ涙は十一。
花弁は未だ揃わず。
女神の眠りは、なお深いまま――。
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