第二の敵2
第二の敵2
風が止まる。
次の瞬間、左右の魔物が地面を滑るように前進した。
一体は黄金の英雄へ。
もう一体は黒帽子の魔術師へ。
正面のヴァイオレットは動かず胸元へ紫色の魔力を集め続けている。
黄金の英雄が翼を広げ迫る魔物へ光を纏った一撃を放った。
魔物の身体が大きく潰れ、柔らかな表面が波打つ。
だが、倒れない。
衝撃を吸収するように形を変えたあと、再び元の姿へ戻る。
反対側では黒帽子の魔術師が杖を振り、紫色の光弾を連続して放っていた。
一発目が魔物を押し返す。
二発目が表面を抉る。
しかし、魔物は地面を跳ねるとその勢いのまま魔術師へ体当たりを仕掛けた。
魔術師は杖を盾にして受け止める。
鈍い衝撃に身体が押し戻され、靴の跡が地面へ長く刻まれた。
二体の魔物が英雄たちを引きつけている間にヴァイオレットの魔法が完成する。
彼女の足元から、黒紫色の光が一気に広がった。
波のような魔力が地面を走り、三人の英雄の足元へ複雑な紋様を描き出す。
次の瞬間、魔法陣から紫色の炎が噴き上がった。
英雄たちの身体が同時に呑み込まれる。
黄金の英雄は翼で炎を払い、黒帽子の魔術師は杖の先へ障壁を展開する。
黒い翼を持つ少女も自らの周囲へ暗色の光を集め、迫る魔力を押し返した。
それでも完全には防ぎ切れない。
炎が消えた時、三人の足元には焼けた魔法陣の跡が残っていた。
ヴァイオレットは間を置かない。
片手を払うように動かすと二体の魔物が再び前へ飛び出す。
一体が黄金の英雄の翼へ噛みつくように身体を伸ばし、もう一体は黒い翼の少女の進路へ回り込む。
英雄たちの動きを封じ、ヴァイオレット自身の魔法で一気に決着をつけるつもりなのだろう。
黄金の英雄は、絡みつく魔物を翼ごと大きく振り回した。
遠心力によって魔物の身体が浮き、遺跡の石壁へ叩きつけられる。
その隙に黒帽子の魔術師が杖を掲げた。
渦を巻く紫色の光が二体の魔物の足元へ同時に集まっていく。
魔物たちが逃れようと身を跳ねさせる。
だが、黒い翼を持つ少女が上空から急降下し、逃げ道を塞ぐように光の刃を振り下ろした。
魔物の一体が地面へ押しつけられる。
そこへ魔術師の魔法が炸裂した。
紫色の閃光。
二体の魔物は大きく弾き飛ばされ、その身体を維持できずに光の粒へ変わっていった。
守りを失ったヴァイオレットへ三人の英雄が一斉に向き直る。
しかし、ヴァイオレットの表情に焦りはない。
彼女は両手へ魔力を集め、自らを中心に巨大な黒紫色の円を描いた。
遺跡の空が暗く染まる。
光を吸い込むような魔力が渦を巻き、三人の英雄の身体を中心へ引き寄せ始めた。
黄金の英雄は翼を強く羽ばたかせ吸引へ逆らおうとする。
黒帽子の魔術師も杖を地面へ突き立て、引きずられる身体を必死に支えた。
黒い翼の少女は渦の中でも構わずヴァイオレットへ向かって進む。
一歩。
また一歩。
足元の石が剥がれ、黒紫色の渦へ吸い込まれていく。
それでも少女は止まらない。
ヴァイオレットの魔法が最大まで膨れ上がった瞬間、ルナの杖が青白く輝いた。
刻ノ力が戦場を包み込む。
激しく回転していた魔力の渦が、ほんの一瞬だけ動きを鈍らせた。
完全に止めることはできない。
それでも、三人の英雄が反撃へ移るには充分だった。
黄金の英雄が高く舞い上がる。
黒帽子の魔術師がヴァイオレットの足元へ紫色の光を放つ。
足場が爆ぜ、ヴァイオレットの身体がわずかに揺れた。
そこへ黒い翼の少女が懐へ飛び込む。
暗色の光を纏った一撃がヴァイオレットの展開していた魔法陣を真正面から切り裂いた。
黒紫色の渦が崩れる。
ヴァイオレットは後方へ跳び、直撃を避けようとした。
だが、上空にはすでに黄金の英雄が回り込んでいた。
翼から放たれた光が降り注ぐ。
ヴァイオレットは両腕を交差し、紫色の障壁で受け止めた。
光と障壁がぶつかり合う。
眩い閃光が遺跡を覆った。
障壁に細い亀裂が走る。
黒帽子の魔術師がその一点へ狙いを定める。
杖の先から放たれた光弾が亀裂へ正確に突き刺さった。
乾いた音とともにヴァイオレットの障壁が砕け散る。
衝撃に押されヴァイオレットの身体が地面を滑った。
それでも彼女は倒れない。
片膝をつきながらも顔を上げ、ルナが女神ノ涙を隠した胸元を睨みつけている。
三人の英雄は追撃できる位置にいた。
だが、ルナは杖を振るわなかった。
ヴァイオレットの目的を退けることができればいい。
命まで奪う必要はなかった。




