第二の敵1
最初の女神ノ涙を手に入れたルナとレッドは、イスカンダルたちと別れ、静けさを取り戻した古代遺跡を歩いていた。
侵略軍との激しい戦いが終わり、遺跡に残されているのは風に揺れる木々の音だけだった。
ルナは両手の中に収めた、涙型の宝石を見つめる。
青く澄んだ宝石は、彼女がもともと持っていた女神ノ涙へ呼応するように淡い光を放っていた。
十二に分かたれた女神ノ涙。
長い探索と幾つもの出会いを経て、ようやく、その一つを取り戻すことができたのだ。
『…………』
安堵からかルナの表情がわずかに緩む。
だが、その足が不意に止まった。
前方の遺跡に一人の少女が立っている。
短く波打つ紫色の髪。
青紫の薔薇を思わせる髪飾り。
身体へ沿う紫の衣と同じ色の長い靴。
それは、二人がこの地を去ろうとした時、遠くからその様子を見つめていた少女だった。
少女はルナの手元へ視線を落とす。
『そう……
この世界の女神ノ涙……
見つけたのね』
その言葉を聞いた瞬間、ルナとレッドの表情が変わった。
女神ノ涙の存在を知っている。
しかも、ルナたちが何を探していたのかまで理解しているようだった。
少女はゆっくりと二人を見比べる。
『刻ノ少女と……その英雄……。
あなたたちに会うのは……
初めて、ね』
『女神ノ涙の事を……
僕らの事を、知ってる……!?』
レッドは少女から目を離さず、剣へ手を掛けた。
見覚えはない。
声を聞いた記憶もない。
それにもかかわらず、少女は二人の立場を知っている。
ルナもまた、警戒するように杖を握り締めた。
『あなた……
この世界の人じゃないわね?
一体誰なの!?』
この世界で出会った者たちとは、明らかに雰囲気が違っていた。
少女の周囲には鏡ノ扉や女神ノ涙へ通じるものと似た、不思議な力の気配が漂っている。
少女は一度目を伏せたあと、静かに名乗った。
『……私は』
『……私は、ヴァイオレット』
ヴァイオレット。
その名前にも、ルナは心当たりがなかった。
だが、次に告げられた言葉が、彼女が味方ではないことを明確にした。
『あなたたちに、
女神ノ涙を集めさせるわけにはいかない……』
ヴァイオレットは胸元で手を重ねる。
その指先に紫色の光が集まり始めた。
『……その女神ノ涙……
渡して、もらうわ』
『何ですって……!?』
ルナは宝石を守るように胸へ抱き寄せる。
ようやく手に入れた女神ノ涙。
女神クロノアの封印を解き、自分にかけられた呪いを解くために、絶対に必要なものだった。
そして何より、女神ノ涙をすべて集めなければ、鏡ノ扉で繋がる世界を守ることはできない。
『そんな事……
私がさせないわ!』
ルナは杖を構え、ヴァイオレットを真っ直ぐに見据えた。
ヴァイオレットは表情をほとんど変えない。
ただ、聞き分けのない相手を見るように、わずかに瞳を細めた。
『……わからず屋ね。
だったら……』
紫色の光が大きく膨らむ。
ヴァイオレットの足元へ魔法陣が浮かび、その左右から二体の魔物が姿を現した。
淡い紫色の身体。
渦を巻くような紋様。
柔らかそうな外見とは裏腹に、周囲へ濃い魔力を放っている。
ヴァイオレットは光を宿した手を前へ差し出す。
『私を、止めてみるといいわ』
その言葉と同時に、二体の魔物が左右へ分かれた。
ヴァイオレットを中心とした三者が、
ルナたちを包囲するように陣形を取る。
ルナは女神ノ涙を衣の内へ収め、杖を高く掲げた。
青白い魔法陣が遺跡の地面へ広がる。
鏡ノ扉の向こうから呼び出された三人の英雄が光の中から姿を現した。
黄金色の翼を持つ英雄。
広いつばの黒い帽子を被った魔術師。
そして、淡い金髪と黒い翼を備えた少女。
三人はルナの前へ並びヴァイオレットたちへ武器を向けた。




