果てしない夢5
黄金色の重装鎧を纏い、大盾と剣を持つ指揮官。
その左右には緑色の髪と淡い翼を持つ術士が立っている。
左右の術士が同時に杖を掲げた。
地面へ二つの魔法陣が浮かび、風の刃が渦を巻く。
中央の敵将はその風を背に受けながら正面から突進してきた。
『来るよ!』
レッドは剣を両手で構えた。
敵将の盾と剣がほぼ同時に迫る。
盾の一撃を横へ受け流した直後、上段から剣が振り下ろされた。
ガキィンッ――!
二人の剣が激しくぶつかる。
重さでは敵将が上だった。
レッドの両腕が震え、足が地面へ沈む。
その側面から翼を持つ術士の魔法が迫った。
一人の術士が前へ飛び出し、紫色の障壁で受け止める。
だが、反対側からも風の刃が飛んでくる。
もう一人の術士が杖を振り、光弾で軌道を逸らした。
敵将はレッドを押し込みながら、盾を大きく振るう。
レッドの身体が弾き飛ばされた。
『レッド!』
地面を転がりながらも、レッドは剣を手放さない。
敵将がレッド止めを刺そうと踏み込んだとき、頭上から黄金の英雄が急降下した。
巨大な翼が光を纏い、敵将の盾へ真正面から衝突する。
轟音。
盾へ亀裂が走った。
敵将はなおも踏み止まる。
左右の術士が黄金の英雄を撃ち落とそうと杖を向けた。
『させないわ!』
ルナの刻ノ力が二人の魔法を一瞬だけ止める。
召喚された術士たちは、その隙に敵の懐へ入り込んだ。
紫色の光が炸裂する。
翼を持つ二人の術士が、左右へ大きく吹き飛ばされた。
守りを失った敵将へレッドが再び駆ける。
ひび割れた盾が前へ突き出される。
レッドは足を止めない。
剣を盾へ叩きつけ、一撃。
二撃。
三撃。
亀裂が広がる。
最後に全身の力を込めて振り抜くと、黄金の盾は真っ二つに砕けた。
敵将の目が見開かれる。
レッドは剣先をその胸元で止めた。
周囲ではイスカンダルの軍も敵本隊を押し返している。
指揮官を失い左右の精鋭も戦闘を続けられない。
四度にわたる敵の攻勢はついに途絶えた。
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捕らえられた敵将がイスカンダルの前へ連れてこられる。
それでも敵将は膝を屈することを拒み、こちらを睨みつけていた。
『周囲の地が脅かされれば、
出てくるのは当然だろう』
イスカンダルが静かに告げる。
『人々は数を増やし、
もはや自然に従うのではなく、
自然を従えるようになった』
敵将は自分たちの行いを誇るように語る。
『数々の伝説は解き明かされ、
古の神、ドラゴンでさえ追い払う。
我らを止める事は出来ん。
そうだとも。
我らはこの大地すべてを
手に入れるのだ!』
森を切り拓き、人々の国を滅ぼし、すべてを自分たちの支配へ置く。
敵将にとってそれは滅びではないらしい。
『滅ぶのではなく我らが新たに支配するのだ』
『……君』
イスカンダルの声が低くなる。
同じオケアノスを目指している者。
伝説の地を求めて進む者。
だが、そのために選んだ道はあまりにも違っていた。
『共に目指すのは無理そうだね。
……悪いけど、
その夢……
叶えさせはしないよ。
最果ての海オケアノス……』
敵将の言葉へイスカンダルは一歩も退かず答える。
『……やってみせるよ。
オケアノスこそ……
僕の夢なのだから』
二人の会話が途切れたところでルナは敵将へ近づいた。
『……なんだ?』
『涙の形をした宝石を知らない?』
『どうしてそんな事をお前たちに教えねばならん』
敵将は顔を背ける。
だが、レッドとイスカンダルの兵たちが囲んでいる以上、このまま黙り続けても解放されることはない。
やがて、敵将は悔しげに舌打ちした。
『……ちっ……
仕方あるまい』
懐から取り出されたのは、青く澄んだ涙型の宝石だった。
淡い光を宿しルナが持つ女神ノ涙へ呼応するように輝いている。
敵将は女神ノ涙を手渡した。
『!』
『女神ノ涙……!
やっと、見つけた!』
長い旅の末に手に入れた最初の一つ。
森を歩き、人々と出会い、幾つもの異変へ立ち向かった。
そのすべてがこの小さな宝石へ繋がっていた。
『……それが、探していた宝石か』
『はい!
イスカンダルさん、これ……』
レッドは宝石をイスカンダルへ差し出そうとした。
敵軍から得たものである以上、本来ならこの地を守ったイスカンダルたちのものと考えたのだろう。
だが、イスカンダルは受け取らなかった。
『……持って行くといい
ここまで手伝ってくれたお礼だ』
『……ありがとう!』
ルナは女神ノ涙を大切そうに胸元へ抱いた。
『……いや』
イスカンダルは兵士へ向き直る。
『彼を連れて行け』
『はっ!』
敵将は兵士たちに連れられその場を去っていった。
静けさを取り戻した戦場でイスカンダルが二人へ声をかける。
『……君たちの探し物は見つかったみたいだね』
『ええ……。
あなたや……
ここにいる人たちのおかげよ』
『僕らは僕らのやるべき事をしていただけだ。
気にしなくていい』
レッドはオケアノスの方角を見ていたイスカンダルへ尋ねる。
『イスカンダルさんは……
これから、オケアノスを目指すんですか?』
『……うん
夢のため……
それに、侵攻が続くなら止めないと』
イスカンダルの旅はここでは終わらない。
敵軍が来た道を辿り、伝説の地オケアノスを目指す。
それは、自分の夢を叶えるためであり、この大地を脅かす侵略を止めるためでもあった。
『じゃあ、ここでお別れだ』
『ありがとうございました』
レッドが頭を下げる。
『行けるといいわね。
オケアノス』
ルナの言葉にイスカンダルは小さく頷いた。
『うん……
ありがとう。
……それじゃ』
イスカンダルは兵士たちのもとへ戻り、次の進軍の準備を始める。
ルナとレッドもその背中をしばらく見送っていた。




