果てしない夢1
剣士の育成所をあとにしたルナとレッドは、エレンたちから託された伝言を携え、周辺一帯の軍を率いる大王――イスカンダルのもとを訪れていた。
古代の遺跡を利用して築かれた陣地には、幾人もの兵士が集まり、武器を手に訓練を続けている。
鋼のぶつかる音。
地面を踏み鳴らす足音。
隊列を整える号令。
穏やかな人里から少し離れただけだというのに、そこには戦場を目前に控えた張り詰めた空気が漂っていた。
陣地の中央では、朱と深緑の華美な鎧を纏った人物が、兵士たちの動きを静かに見つめている。
長く伸びた装飾。
鋭く反り上がった兜。
小柄な姿ながら、その者を中心として周囲の兵が動いていることは、一目で理解できた。
『大王様。
面会者が来ています。
何やら重大な連絡があるという事です』
兵士の報告を受け、
その人物は訓練中の者たちへ顔を向けた。
『……一度休憩だ』
『はっ!』
号令とともに兵士たちは一斉に武器を下ろした。
少し離れた場所で待っていたルナは、緊張したように両手を胸の前で組む。
『……会ってもらえるかしら』
『うーん……
待ってるように言われたし、大丈夫だと思うけど……』
レッドも陣地の奥を窺う。
エレンの先輩が伝言役という名目を用意してくれたとはいえ、相手は一帯を治める大王である。
本当に自分たちの話を聞いてもらえるのか。
二人が落ち着かないまま待っていると、先ほどの兵士が足早に戻ってきた。
『お二方!
大王がお呼びです!
お入りください!』
『会えるみたいね。
行きましょう!』
ルナとレッドは頷き合い、陣地の中央へ足を進めた。
------------------------------------------------------------
『……そう。
君たちか』
朱と深緑の鎧を纏った人物が、二人を正面から見据える。
『僕がイスカンダル』
その声は驚くほど静かだった。
兵士たちから大王と呼ばれているにもかかわらず、
威圧するような口調ではない。
だが、その立ち姿には、多くの者を率いてきた者だけが持つ揺るぎのなさがあった。
『僕に伝えたい事があるって聞いた』
ルナは一歩前へ出る。
『……ここから少し離れた場所で、ドラゴンが現れたの』
ゲオルギオスとともに探した、伝説のドラゴン。
すでにその場から飛び去っており、行方は分からなくなっている。
『……ドラゴン?
伝説は知っている』
イスカンダルは僅かに目を細めた。
『探しに行ったら、もう飛び去った後で……
だから、気をつけてほしいと』
レッドが説明を引き継ぐ。
イスカンダルは何も言わず、しばらく二人の話を聞いていた。
『…………』
そして、深く息を吐く。
『……はぁ。
次から次へと出てくるな。
侵略と思えばドラゴンか』
人々の国を呑み込む侵略軍。
突然姿を現した古のドラゴン。
大王のもとには、ルナたちが知る以上に多くの報告が集まっているのだろう。
『わかった。
僕も気に掛けておくよ。
伝えてくれてありがとう』
『あと……
私たちも聞きたい事があるんだけど……』
ルナが本来の目的を切り出そうとした、その時だった。
『大王!
敵襲です!
ご命令を!』
兵士の切迫した声が陣地の空気を一変させた。
休憩していた兵士たちが一斉に立ち上がり、再び武器を手に取る。
イスカンダルも即座に敵が現れた方角へ身体を向けた。
『悪いけど、話は終わりだ』
『待って!』
立ち去ろうとするイスカンダルを、
ルナが呼び止めた。
『大変なら手伝うわ。
その後でいいから、話を聞かせてくれない?』
イスカンダルは足を止め、ルナとレッドを交互に見る。
見知らぬ二人を戦場へ連れて行く危険。
戦力として信用できるかという疑問。
それらを短い沈黙の中で測っていたようだった。
『別に……構わないよ。
なら、ついてきて』
イスカンダルの号令とともに、兵士たちが敵襲のあった方角へ走り出す。
ルナとレッドもその後を追った。




