今、出来る事5
『私に勝つだなんて……
大した後輩ね』
先輩騎士はエレンへ視線を向けた。
『だけど……
あなたの言ってる事は、やはり許す事は出来ないわ』
先ほどの戦いで実力は示した。
それでも、イスカンダルへの面会を認めるつもりはないらしい。
『見も知らぬ人間をイスカンダル様に紹介なんて、出来るわけないでしょう?
イスカンダル様だって、お会いになるはずがないわ』
『……かもしれません。
ですが、お願いします!
おふたりの力になりたいんです!』
『あなたね……』
先輩騎士は呆れたように息を吐いた。
『エレン……
どうして、私たちのためにそこまでしてくれるの』
ルナは問いかけずにはいられなかった。
出会ったばかりの自分たちのために、先輩から叱られ、戦いにまで巻き込まれている。
それでもエレンは、諦めようとしない。
『自分が強くなるのは、困っている人を助けるためです。
そのために、剣士を目指しました』
エレンは胸へ手を当てた。
『目の前で誰かが困っているなら、その人を助けたい。
自分にやれる事があるなら、 諦めたくないんです!』
『……エレン……』
ルナは彼女の言葉を胸の中で繰り返した。
今の自分にできること。
クロノアの記憶が言っていたように、すべての答えを最初から知っている者はいない。
それでも、目の前にあることへ手を伸ばすことはできる。
『……そのやれる事が、先輩である私に訴えるだけなんて情けないと思わないの?』
先輩騎士の声が、再び厳しくなる。
『うっ……
そ、それはそうですが!
でも、自分だっていつかは、先輩のように……!』
『だったら脇目を振ってないで、ちゃんと訓練しなさい!!』
先輩騎士は大きく声を張った。
『あなたはいつもそうでしょう!
困っている人がいると、すぐにそっちに行くんだから!』
『は、はいっ!!
すみません!!!』
エレンは反射的に背筋を伸ばし、勢いよく頭を下げた。
『……まったくもう……』
先輩騎士は深いため息をつく。
それから、ルナとレッドへ向き直った。
『あなたたちが、この子にドラゴンの事を伝えたって人ね?
大切なものを探しているとか……』
『は、はい……。
ゲオルギオスさんに頼まれて、ここを教えてもらったんです』
『ごめんなさい、エレンの事、そんなに叱らないであげて』
ルナが頭を下げる。
先輩騎士はエレンを横目で見て、僅かに表情を緩めた。
『この子はいつもこうなの。
もう諦めてるわ。
……悪い事ばかりではないしね』
困っている者を放っておけない。
それは剣士として危ういところでもあり、エレンの長所でもあるのだろう。
『イスカンダル様に会いたいという事だけど……
私にも約束は出来ないわ。
でも……
伝言役という名目なら、少しはチャンスがあると思う』
先輩騎士は腕を組んだ。
『それでもいいかしら?』
『!!』
『先輩!?
いいんですか!?』
エレンが驚きに目を見開く。
『相手は偉大なる大王です。
重大な事を直接伝えるためよ
……今回だけですからね』
完全な面会の約束ではない。
それでも、イスカンダルへ近づくための道が開かれた。
『あなたはまだまだ見習いなの。
自分が無力と思うならしっかり訓練しなさい』
『は、はいっ!
精一杯、頑張ります!』
先輩騎士の言葉は厳しかった。
だが、そこにはエレンを見放すような冷たさはない。
『エレン……ありがとう。
あなたに会えて、本当によかったわ』
ルナが微笑む。
『ルナさん……!
こちらこそありがとうございます!』
エレンも明るく笑った。
『宝石探し、頑張ってください!
どうぞお気をつけて!』
『ええ』
ルナとレッドは育成所の者たちへ礼を告げた。
女神ノ涙について、直接の手がかりは得られなかった。
だが、エレンの行動によって、イスカンダルという新たな人物へ話を届けられる可能性が生まれた。
自分がまだ弱いから。
立場がないから。
何も知らないから。
そうした理由で諦めていれば、道は開かなかっただろう。
見習いのエレンが、今の自分にできることを選んだように。
ルナとレッドもまた、目の前にある一歩を進むしかない。
オケアノスによる侵略。
伝説のドラゴン。
そして、周囲一帯を率いる大王イスカンダル。
この世界で起きている異変は、徐々に一つの場所へ集まり始めていた。
二人は次の手がかりを胸に、剣士の育成所をあとにする。
今、出来る事を積み重ねた先に、
女神ノ涙へ続く道があると信じて。




