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今、出来る事4

二人が声のした場所へ急ぐと、エレンの前に一人の騎士が立っていた。


黒と紫を基調とした鎧。

兜の奥から覗く鋭い眼差し。

手には刃の反った大剣を携えている。


周囲には育成所の剣士たちが集まり、緊張した様子で二人のやり取りを見守っていた。

ルナとレッドが姿を現しても、先輩騎士の表情は変わらない。

話を聞くつもりはないと示すように、大剣の切っ先が地面へ向けられた。


エレンは怯まず、その前へ立つ。

だが、見習いの言葉だけで考えを変えるつもりはないらしい。


先輩騎士が剣を構える。

周囲の訓練生たちも、それに続いて武器を取った。

どうやら、口先だけの願いを認めるつもりはないようだった。


『エレン、下がって!』


レッドが剣を抜く。


ルナも杖を掲げ、鏡ノ扉の英雄たちへ呼びかけた。

青白い光の柱が、訓練場へ降り注ぐ。

その中から、黄金の翼を持つ英雄と、黒い帽子を被った二人の術士が姿を現した。


対する育成所側の先頭へ出たのは、緑色の身体を持つ小柄な魔物たちだった。

訓練用に使役されているのか、剣士たちの合図に合わせ、一斉に飛びかかってくる。


『来るよ!』


レッドが一歩前へ出た。


最初の一体が振り下ろした棍棒を、剣の腹で受け止める。

衝撃を横へ逃がし、そのまま相手の懐へ踏み込んだ。

剣の柄を叩き込み、魔物を地面へ転がす。


だが、左右から二体が迫っていた。


黒帽子の術士が杖を振るう。

紫色の斬撃が地面を走り、右側の魔物を弾き飛ばした。


もう一体はレッドの背後へ回り込もうとする。

そこへ黄金の英雄が翼を広げ、上空から急降下した。

光を纏った一撃が魔物の進路を塞ぎ、その身体を大きく後退させる。


育成所の剣士たちは、倒された魔物の代わりに次の一団を送り出した。


小さな妖精。

氷のような身体を持つ獣。

剣と盾を構えた兵。

敵の種類が変わるたび、攻撃の間合いも速度も変わっていく。


これは単に相手を倒すための戦いではない。


状況に応じて判断し、仲間と連携できるか。

育成所の者たちは、ルナたちの力と覚悟を確かめようとしているようだった。


妖精たちが空中から光の弾を放つ。

ルナの杖が青白く輝き、着弾する直前の光を遅らせた。


完全に止められたのは一瞬だけ。


しかし、その間に術士たちが左右へ散り、反撃の魔法を放つ。

紫の刃が弧を描き、妖精たちの周囲を切り裂いた。


氷獣が地面を蹴る。

鋭い角がレッドへ迫った。

レッドは正面から受け止めず、紙一重で身体を開く。

勢いのまま通り過ぎた獣の側面へ剣を振り下ろす。

硬い氷の表面に亀裂が走り、獣は光の粒となって消えた。


一波を退けると、すぐに次の者たちが前へ出る。


今度は盾を持つ兵が中央を固め、その背後から妖精が魔法を放つ陣形だった。


『正面は僕が引きつける!』


レッドが盾兵へ斬り込む。

剣と盾がぶつかり、甲高い音が響いた。

力任せに押しても、相手は崩れない。


その間にも、後方から光弾が降り注ぐ。


黄金の英雄が翼を盾のように広げ、ルナの前へ立った。

光弾が翼へぶつかるたび、金色の羽根が散る。


黒帽子の術士たちは左右へ大きく回り込み、盾兵の死角から魔法を放った。

衝撃に盾が傾く。

レッドはその隙を逃さず、剣を下から跳ね上げた。

盾が宙へ弾かれる。

続く一撃が兵の胸元へ触れ、相手は敗北を認めるように後退した。


三度目の一団には魔力を帯びた獣と、死霊を思わせる兵が混じっていた。


これまでの相手より動きが鋭い。


死霊の剣が黒い軌跡を描き術士の一人へ迫る。

術士は杖で受け止めるが重い一撃に足元が滑った。

その側面から獣が飛びかかる。


レッドが間へ入り、剣で牙を受ける。


『くっ……!』


押し込まれながらも踏み止まる。


ルナが杖を掲げると、レッドの周囲へ青い光が集まった。


刻ノ力が彼の動きを後押しする。

レッドは獣の頭を押し返し、その勢いを利用して身体を回転させた。

横薙ぎの一撃が獣を弾き飛ばす。


同時に、体勢を立て直した術士が死霊へ魔法を叩き込んだ。


紫色の光が爆ぜ、黒い影が霧となって消えていく。


------------------------------------------------------------


戦いが進むほど、育成所の者たちの表情から侮りが消えていった。


そして最後に、黒紫の鎧を纏った先輩騎士本人が前へ出る。


その左右には、盾を持つ重装兵と、桃色の妖精が従っていた。

先輩騎士は大剣を肩へ担ぎ、レッドたちへ向き直る。

構えただけで、これまでの相手とは違う圧力が広がった。


『……来る』


レッドが剣を握り直す。


先に動いたのは重装兵だった。


盾を構え、地面を踏み鳴らしながら前進する。

その背後では妖精が杖を掲げ、桃色の光を集め始めた。


レッドは盾兵の注意を引きつけるように正面へ踏み込む。

剣を振り下ろすが、厚い盾に受け止められた。

鈍い衝撃が腕へ返ってくる。


その瞬間、先輩騎士が盾兵の背後から飛び出した。

黒い大剣が斜めに振り下ろされる。

レッドは咄嗟に剣を合わせた。


ガキィンッ――!


激しい火花が散る。

先輩騎士の一撃は重く、レッドの膝が僅かに沈んだ。

押し返そうとした直後、妖精の魔法が頭上から降り注ぐ。


『レッド!』


ルナが刻ノ力を放つ。


光弾の速度が僅かに緩む。

黄金の英雄がその間へ飛び込み、翼で魔法を弾き返した。

弾かれた光が重装兵の足元で炸裂し、陣形が崩れる。


黒帽子の術士二人が同時に杖を掲げた。

左右から放たれた紫色の斬撃が盾兵を挟み込む。

盾が魔法を防いだものの、両側からの衝撃に重装兵の身体が揺れた。


レッドは先輩騎士の大剣を受け流し、盾兵の脇をすり抜ける。


狙いは後方の妖精だった。


妖精が新たな魔法を完成させる前に、剣の峰で杖を弾き上げる。


魔力の光が霧散した。


しかし、先輩騎士はすぐに追いついてくる。


大剣が横薙ぎに振るわれた。

レッドは身を屈めてかわす。

頭上を通り過ぎた刃が、背後の石柱を深く削った。

反撃の剣を突き出すが、先輩騎士は大剣の腹で受け止める。

互いの刃が噛み合った。


『……っ!』


先輩騎士の力が、レッドを少しずつ押し戻す。


その横から重装兵が盾を構え、突進してきた。


挟み撃ちにされれば耐えられない。


レッドは剣を押し返すことを諦め、自ら後ろへ跳んだ。


先輩騎士の大剣と重装兵の盾が、僅かな差で空を切る。


『今よ!』


ルナの声に合わせ、術士たちが魔法を放った。

紫の光が重装兵の盾を打ち、黄金の英雄が上空から追撃する。

何度も衝撃を受けた盾に亀裂が走った。

重装兵は耐え切れず、片膝をつく。


守りを失った先輩騎士へ、レッドが駆ける。

だが、相手も同時に大剣を振り上げた。


二人の間合いが一瞬で消える。


レッドの剣と、先輩騎士の大剣が交差した。


鋭い金属音。


レッドの頬を、刃がかすめる。

先輩騎士の兜には、レッドの剣先が触れていた。


互いに動きを止める。


先に武器を下ろしたのは、先輩騎士だった。


戦いは終わった。

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