今、出来る事3
------------------------------------------------------------
――この辺りはまだ穏やかだけど……
人同士の争いで小国が滅ぼされたそうなの。
『滅ぼす……!?』
――そうよ。
容赦なく、すべてを侵略して、
何も残っていないらしいわ。
------------------------------------------------------------
『……そうだったわね。
大丈夫なの?』
ルナの問いに、エレンは申し訳なさそうに首を横へ振った。
『自分は……
まだまだ腕が足りなくて、
状況には詳しくありません』
戦いの全容を知ることが許されている立場ではないのだろう。
『イスカンダル様……
周囲一帯をまとめておられる方は、状況を重く見ておられます』
『なので、御自身ら軍を率いていらしたんです』
『イスカンダル?』
ルナは聞き慣れない名を繰り返した。
『はい。
とても立派な方ですよ』
エレンは憧れを隠しきれない様子で顔を上げた。
『自分ももっともっと強くなって、お役に立てればいいのですが……』
剣士を目指し、日々訓練を続ける理由。
そこには、イスカンダルと呼ばれる人物への尊敬もあるようだった。
『そういえば……
おふたりは、どうしてこちらに?』
一通り報告すべき話を聞いたあと、エレンが尋ねる。
『ドラゴンの事を伝えるため、わざわざ来てくださったんですか?』
『私たちは宝石を探してるの。
そのために色々な人へ話を聞いてるんだけど……』
ルナは胸元から、淡く光る女神ノ涙を取り出した。
『そうしたら、ドラゴンの事を聞いたから一緒に伝えようと思ったのよ』
『そうだったんですか……。
ありがとうございます』
『エレンは、涙の形をした宝石について何か知らないかしら?
すごく、大切なものなの』
エレンは宝石を覗き込み、しばらく考え込んだ。
『うーん……
宝石、ですか。
この辺りでは見ないですね。
あるという話も聞きません』
『なら、“果てしないもの”に心当たりはありませんか?
関係があるみたいなんです』
レッドも尋ねる。
女神ノ涙が二人へ示した、唯一の手がかり。
だが、それだけでは意味が広すぎた。
『果てしないもの……
うーん……』
エレンは懸命に記憶を探ったが、やがて申し訳なさそうに肩を落とした。
『ごめんなさい……
それについても、自分には心当たりがありません』
『そうですか……』
手がかりは、また途切れてしまった。
『…………。
でも……そうだ!』
俯いていたエレンが、突然顔を上げる。
『この辺りにはなくてもイスカンダル様ならご存じかもしれません。』
どうにか話が出来ないか先輩に聞いてきましょう!』
『え、でも……いいんですか?
そんな人に話しに行くなんて難しいんじゃ……』
イスカンダルは周囲一帯をまとめる軍の指導者だという。
見知らぬ旅人が簡単に面会できる相手ではないだろう。
『……確かに、本来なら自分がそんな事を言える立場ではないですけど……』
エレンはそれでも二人を見つめ返した。
『おふたりは自分たちのために、知らせに来てくださったんです。
少しくらいは、お返ししたい。
自分はまだ見習いですけど、やれる事はあるはずですから!』
『……ありがとう、エレン』
ルナの表情が僅かに和らぐ。
『はい!
ちょっと待っててくださいね!』
エレンは元気よく答えると、育成所の奥へ駆けていった。
その背中を見送り、レッドが小さく笑う。
『エレンさん……
すごく、いい人だね』
『……ええ』
だが、しばらくして聞こえてきたのは、エレンの明るい声ではなかった。
『何馬鹿な事言ってるの!
そんな事、許せるはずがないでしょう!』
鋭い叱責が、育成所中に響き渡る。
『待ってください、先輩!
少しでいいんです!
自分の話を聞いてください!』
『!!』
ルナとレッドは顔を見合わせた。
『あれって……』
『……私たちのせいで、エレンが叱られてるみたいね』
二人のために頼みごとをしたせいで、エレンが責められている。
『直接話した方がよさそうだわ。
行きましょう、レッド!』
『うん!』




