今、出来る事2
『やーっ!』
勢いのまま声を上げたあと、少女の動きが止まる。
『!』
目の前に人がいることを認識した瞬間、彼女は慌てて剣を引いた。
『すみませんでした!
いらしているのに気づかず……!
お怪我はありませんか?』
剣を下ろし、何度も頭を下げる。
『大丈夫よ。
ちょっとびっくりしただけ』
ルナが答えると、少女は安堵したように胸を撫で下ろした。
『あの、ここって……
剣士の育成所……ですか?』
レッドが周囲へ目を向ける。
崩れた遺跡の広場には、訓練用と思われる木の人形や盾が並んでいる。
離れた場所では、同じような鎧を着た者たちが剣を振っていた。
『はい、そうですよ!
皆さんのお力になれるよう、自分たちは日々訓練しています!』
少女は背筋を伸ばし、誇らしげに胸を張った。
『何かご依頼ですか?
自分はエレンと言います。
よければお手伝いしますよ!』
『えっと……
私たちは依頼に来たわけじゃないの』
ルナが説明を始める。
『古のドラゴンが現れて……
行方がわからないから、知らせてと頼まれたの』
『ドラゴン……!?
まさか、そんなものが現れたなんて……』
エレンの表情から、先ほどまでの明るさが消えた。
『エレンの所にはまだ来ていないのね』
『はい……
見ていないです。
先輩も仲間たちも、何も言ってなかったですし』
ドラゴンの姿はまだ育成所の近くでは確認されていないらしい。
『知らせて頂いてありがとうございます!
報告しておきますね』
『お願いするわ。
ゲオルギオスが心配してたの』
ゲオルギオスは、自分一人でドラゴンを探しに出ようとしていた。
育成所の者たちが警戒を強めれば、集落の守りにも繋がるはずだ。
『あちこちに行くから、みんなに知らせてくれるって聞いたんですけど……』
レッドが尋ねると、エレンは力強く頷いた。
『はい。
自分たちは依頼を受けて、様々な場所に派遣されるんです』
魔物の討伐。
集落の護衛。
旅人の救助。
ここで鍛えられた剣士たちは、助けを必要としている場所へ送り出されるのだという。
『自分はまだ見習いですから、ここを離れられませんが……
先輩たちが知らせてくれますよ』
見習いであるエレンは、まだ育成所の外で任務に就くことを許されていない。
それでも、自分にできる範囲で情報を伝えようとしてくれている。
『そうだ。
確か、一帯を守る軍隊も側に来ているはずですから、
そちらにも進言しておきますね』
『軍隊……?
そんなものまで来てるんですか?』
レッドが驚いた声を上げる。
ドラゴン一体を探すためだけに、大勢の兵が集められたとは考えにくい。
エレンは僅かに目を伏せた。
『……はい。
最近、どうしてか争いが増えたんです』
『オケアノスという彼方の方角から、侵略してきている国があって……』
『侵略、ですか……。
そういえば、ゲオルギオスさんが……』
レッドの脳裏にゲオルギオスから聞いた話が蘇る。




