表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/48

人里の異変4

三人はそれからもドラゴンが目撃されたという山の周辺を探し続けた。


大きな岩陰。

木々の途切れた崖の上。

獣道の残る谷間。

空を見上げれば、雲の間を鳥が横切っていく。


だが――。


どれだけ歩いても、巨大な翼を持つ竜の姿はなかった。


『……いないわね』


ゲオルギウスが立ち止まり、悔しそうに周囲を見渡した。


『これだけ探して何もないとなると……

 もう、この辺りにはいないのかもしれないわ』


『どこかに飛んでいっちゃったのかな』


ラッドも空を見上げる。


ドラゴンがいたという証言そのものが間違いだったとは思えない。


村を襲われた者がいる。

その姿を見た者もいる。


それでも今、この場所には痕跡らしい痕跡さえ残されていなかった。


『見つけられなかったのは気になるけど……

 ずっとここを探しているわけにもいかないわね』


ルナは胸元の時計へ手を添えた。


自分たちにも果たさなければならない目的がある。


女神ノ涙。

女神クロノアの封印。

そして、自分に残された時間。


『ええ』


ゲオルギウスも頷いた。


『私も一度、村へ戻るわ。

 目撃した人たちから、もう一度詳しく話を聞いてみる。

 ドラゴンが別の場所に移動したなら、また誰かが見かけるかもしれないもの』


『……ごめんなさい。

 結局、見つけられなくて』


ルナが申し訳なさそうに言うと、ゲオルギウスは片手を腰へ当てた。


『何を言ってるの。

 あなたたちが謝る事じゃないでしょう?

 一緒に探してくれただけでも助かったわ』


それからゲオルギウスは、ルナをじっと見つめる。


『それより……

 あなたたちは女神ノ涙を探すんでしょう?』


『ええ』


ルナは頷いた。


『まだ何もわかってないけど……

 探し続けるわ。

 女神様もこの世界の人たちに力を借りればいつか辿り着けるって言ってたもの』


『そう』


ゲオルギウスは少し考え込んだあと、何かを思い出したように顔を上げた。


『だったら、剣士の育成所へ行ってみたらどう?』


『剣士の……育成所?』


ルナが首を傾げる。


『この先にあるのよ。

 剣士を目指してる子たちが集まって、毎日訓練してる場所。

 あの子たちは依頼を受けて、色んな場所へ行く事もあるわ』


ゲオルギウスは山とは別の方角を指差した。


『旅人や兵士と話す機会も多いし……

 私よりよその土地の話に詳しい人がいるかもしれない』


『女神ノ涙についても、何か知ってる人がいるかもしれないって事ですね』


ラッドの言葉に、ゲオルギウスは頷く。


『ええ。

 少なくとも、ここで当てもなく探し回るよりはいいでしょう』


ようやく次へ進むための手がかりが見えた。


女神ノ涙そのものの情報ではない。


それでも、エスからゲオルギウスへ辿り着いたように。


また次の誰かへ会うことで、道が繋がるかもしれない。


『わかったわ。

 行ってみる』


ルナが答えると、ゲオルギウスは満足そうに頷いた。


『それと、ひとつ頼まれてくれる?』


『?』


『剣士の育成所へ行ったら、ドラゴンの事も伝えておいてほしいの』


ゲオルギウスの表情が真剣なものへ変わる。


『今日探したけど、結局見つからなかった。

 どこへ行ったのかもわからない』


『もし別の場所へ移動したなら、今度は違う村が襲われるかもしれないわ。

 育成所の人たちは色んな場所へ行くんでしょう?』


『ええ。

 だから、知っておいてもらった方がいい』


ゲオルギウスは小さく息を吐いた。


『目撃したら無茶に追わない事。

 それから、周りにも気をつけるよう伝えてって』


『わかったわ。

 ちゃんと伝える』


『僕からも話します』


ラッドも頷いた。


『お願いね』


しばらく三人は、その場に立っていた。


短い間ではあったが、森を出てからずっと行動を共にしてきた。


だが、ここから先はそれぞれの道へ戻ることになる。


ゲオルギウスは村とドラゴンを守るために。


ルナとラッドは、女神ノ涙を探すために。


『それじゃあ、ここでお別れね』


『ええ。

 色々教えてくれてありがとう、ゲオルギウス』


『こちらこそ。

 ドラゴン探しまで手伝ってもらったんだもの』


ゲオルギウスは二人へ背を向けかけ――ふと足を止めた。


『女神ノ涙、見つかるといいわね』


ルナは一瞬目を見開き、それから小さく笑った。


『……ええ。

 絶対に見つけるわ』


『じゃあね。

 気をつけて行きなさい』


『ゲオルギウスも』


三人はそこで別れた。


ゲオルギウスは集落へ。

ルナとラッドは、教えられた剣士の育成所へ。

二人の背後で、山々は変わらず静かにそびえている。


結局、ドラゴンの姿を見つけることはできなかった。


なぜ突然現れたのか。

今はどこにいるのか。

森の異変や各地で始まった争いと、何か関係があるのか。

答えは何ひとつわからないままだった。


それでも――。


『行きましょう、ラッド』


『うん』


立ち止まっている時間はない。


女神ノ涙を探すために。


そして、行方の知れないドラゴンのことを伝えるために。


ルナとラッドは再び歩き始める。


古代遺跡の続く道の先。


剣士たちが集う場所――。


次なる出会いが待つ、


「剣士の育成所」へ向かって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ