プロローグ2
『ん……
ううん……』
重たい瞼を開く。
ルナの視界へ最初に映ったのは、こちらを心配そうに覗き込む少年の顔だった。
『……目が覚めた?
大丈夫?』
先ほどまで戦場だった場所とは違う。
白い石造りの床と、青い装飾に彩られた明るい部屋。
少年はルナの目覚めを待ちながら、ずっと傍にいたようだった。
『……君は……』
ルナはゆっくりと身体を起こした。
『私が召喚した、英雄?』
少年は何も答えない。
『でも、英雄たちはみんな、
自分の世界に帰ったはずなのに……』
少年は目を伏せた。
『……帰るところが、
わからないんだ……』
『え……?』
『僕は、どこから来たのか……
思い出せない』
ルナは戸惑いながら少年を見つめる。
『記憶を失くした英雄……?
私が呪いをかけられたから……?』
自分にかけられた呪いが、召喚へ影響したのだろうか。
だが、確かめる方法はない。
『…………』
不思議だった。
初めて会ったはずの少年。
名前も、生まれた場所も知らない。
それなのに、ずっと前から知っているような感覚がある。
『……どうしてかしら』
ルナは胸元へ手を添えた。
『君のこと……
知らないはずなのに、
よく知っている気がする……』
少年は困ったように首を傾げる。
『君の名前は?』
『……ごめん……
覚えてないんだ……』
『…………』
ルナは目を閉じた。
記憶ではない何かを探すように、少年の存在へ意識を向ける。
やがて、一つの名前が自然と口から零れた。
『……レッド』
『レッド……?』
『なんとなく、そんな気がする。
そう呼んでもいいかしら?』
少年は一度その名前を胸の中で繰り返し、静かに頷いた。
『うん』
そして、真っ直ぐにルナを見る。
『僕は、君の願いを叶えるため、
ここにいる……』
『!』
『ルナ。
君にも、やらなきゃいけないことがあるんだろう?』
ルナは胸元の時計を見下ろした。
針は、先ほどよりも確かに0へ近づいている。
『……ええ』
ルナは立ち上がった。
『刻ノ少女の私が死んだら、
この刻ノ大地も、
ここから繋がる鏡ノ扉の世界も消えてしまう……』
ルナは涙型の宝石を取り出す。
青い宝石は、彼女の手の中で淡く輝いていた。
『今、女神ノ涙は、
私の持っている一つしかないけど……』
宝石を見つめながら、ルナは続ける。
『十二の女神ノ涙をすべて集めれば女神様の封印は解ける。
女神様なら私にかけられた呪いも解けるはずよ』
それは、確証のない希望だった。
だが、立ち止まっていれば時計の針はⅫへ到達する。
ルナは不安を隠しきれないまま、レッドへ手を差し出した。
『……力を貸してくれる?
レッド』
レッドは迷わなかった。
『もちろんだよ』
少年は笑い、ルナの手を取る。
『僕は君の願いに呼ばれた英雄なんだから。
僕が君を守る。だから……行こう!』
レッドは鏡ノ扉がある方角へ向き直った。
『刻を越えて、鏡ノ扉の向こうへ!』




