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記憶の欠片3

『勝った……!』


レッドはようやく剣を下ろした。


『女神様……!』


ルナがクロノアへ駆け寄る。


戦いを終えたクロノアの身体から淡い光が溢れ始めていた。

白い羽根が舞い、半透明だった姿がさらに薄くなっていく。


『……安心しました。

 わたくしが側にいなくてもあなたなら……』


クロノアは最後まで言葉にせず、ルナを優しく見つめた。


『…………』


ルナは胸元で両手を握り締める。


女神本人ではない。

ただの記憶の欠片。

それでも、初めて会えたのだ。

ずっと本と伝承の中にしか存在しなかった、刻ノ女神に。


『女神様……

 待っていてください。

 私、必ず使命を果たします』


ルナは真っ直ぐにクロノアを見上げた。


『女神様の封印を……

 この呪いを解いて世界を守ります!』


クロノアは微笑み静かに頷く。


『ええ。

 あなたなら、きっと』


翼から零れた光がルナの持つ女神ノ涙へ吸い込まれていく。

記憶の欠片が女神ノ涙へ集められているのだ。


『女神ノ涙はお互いに引かれ合います。

 この世界の住人に力を借り、探していけば……

 必ず辿り着く事でしょう』


この世界で出会った者たち。


スライム。

ゴブリン。

森人のエス。


一見すると女神ノ涙とは無関係に思えた出会いも、決して無駄ではなかった。


人と人。

世界と世界。

女神ノ涙は、そうした縁を辿るように引かれ合っている。


『さあ、お往きなさい。

 女神ノ涙を見つけ――』


クロノアの姿が眩い光へ包まれる。


『健闘を祈っているわ……』


その言葉を最後にクロノアの身体は無数の光の粒へ変わった。

白い羽根だけがルナとレッドの周囲をゆっくりと舞い落ちる。


やがて羽根も光へ溶け、広場には二人だけが残された。


------------------------------------------------------------


『女神様……

 優しそうな人だったね』


レッドがクロノアの消えた場所を見つめながら呟いた。


『……ええ。

 記憶の欠片でも会えて……

 嬉しかった……』


ルナの声はわずかに震えていた。


初めて知った女神の声。

初めて見た女神の表情。


それは短い出会いだったが、これまで一人で使命を背負ってきたルナにとって、何よりも大きな意味を持っていた。


『見守ってくれてる……

 世界のあちこちで、私たちの事を待ってるのね』


十二に分かれた女神ノ涙。

その側では、クロノアの記憶もまた目覚める時を待っている。


ルナは胸元の女神ノ涙を握り、顔を上げた。


先ほどまで浮かんでいた迷いは、もうその表情にはない。


『くよくよしている場合じゃないわ。

 早く女神ノ涙を見つけなくちゃ!

 行きましょう、レッド!』


『うん!』


二人は再び歩き始めた。


女神ノ涙を集めること。

クロノアの失われた記憶を取り戻すこと。

そして、ルナにかけられた呪いを解き、すべての世界を守ること。


これまで伝承の中にしかなかった使命は、クロノアとの出会いによって確かな道へと変わった。


世界のどこかで眠る女神ノ涙と、記憶の欠片。


それらを探す旅は、ここから本当の意味で始まるのだった。

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