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森の異変6

『去れ。

 森を荒らす事は、森人である僕が許さない』


エスは肩の傷を押さえながらも、狩人へ真っ直ぐ弓を向けていた。


『くっ……森人か……!

 ここを使えれば大きな狩り場になるんだ』


狩人は地面へ片膝を着いたまま、悔しげにエスを睨み返す。


『人里に出れば多くの人がいる。

 森を捨てその腕を外で使えばもっと豊かな暮らしが……』


『……森人は森と共に生きる。

 人が増えようと、時代が変わろうと……』


森を見回すエスの瞳には迷いがなかった。


『人の都合で森に踏み入るな。

 相容れないなら……

 別れて生きる』


『……ちっ……。

 まあいいさ。

 また、いずれ……』


狩人は壊れた弓を拾い上げると、足を引きずりながら森の外へ去っていった。


エスはその後ろ姿が見えなくなるまで弓を下ろさなかった。


------------------------------------------------------------


やがて完全に気配が消えると、張り詰めていた息を吐く。


『……ありがとう。

 君たちのおかげで早く追い払う事が出来たよ』


『……森の異変ってこういう事だったのね。

 今回だけじゃないみたい……』


森へ入り込み、木々を切り、魔物まで引き連れて狩り場を作ろうとする者たち。

今日の狩人を退けても、森を求める人々がいなくなるわけではない。


『……うん。

 彼らはきっと、諦めない。

 これからも続くだろうね』


エスの声には森人として背負ってきた疲れが滲んでいた。


『エス?

 ……もしかして、また誰か来たの?』


レッドの問いかけにエスは首を横へ振る。


『……ううん、違うよ。

 宝石はここにはないって木々が伝えてくれた』


『!』


『そう……森にはなかったのね。

 なら、どこに……』


手がかりが消えたことに落胆しながらも、ルナは次の言葉を待った。


『……人里だって、

 言ってる。

 森を訪れた者たちから、そんな気配がしてたみたいだ』


『人里……

 どの辺りにあるんだろう』


『……森を出て、

 山の方へ向かうといい。

 途中に集落があるはずだよ』


エスは森の外へ続く方角を指し示した。


『……そこに、ゲオルギオスっていう僕の知り合いがいる。

 ちょっと気は強いけど……

 いい人だから、協力してくれると思う』


『ゲオルギオス……

 わかったわ。

 行ってみる』


『色々教えてくれてありがとう』


『どういたしまして。

 ……君たちは……』


エスは何かを言いかけ、口を閉ざした。


『?』


ルナとレッドが首を傾げる。


『いや……なんでもない。

 宝石、見つかるといいね』


『ええ。

 じゃあね、エス。

 あなたも……気をつけて』


ルナとレッドはエスへ別れを告げ、教えられた方角へ歩き始めた。


エスはその場に残り、二人の背中を静かに見送る。


風が吹く。


木々がざわめく。


その声に何が含まれていたのか、ルナたちには聞こえない。


ただ、エスだけが僅かに顔を上げ、遠ざかっていく二人を見つめていた。


------------------------------------------------------------


女神ノ涙は、この森にはない。


新たな手がかりは、人々が暮らす集落。


そして、森人エスの知人――ゲオルギオス。


自然に守られた古代の森をあとにして、


ルナとレッドは、初めて人の暮らす場所へ向かう。


その先で待つものが、女神ノ涙への道なのか。


あるいは、新たな異変なのか。


まだ、二人には知る由もなかった。

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