森の異変4
三人が森の奥へ駆け込むと、すでに獣道は荒らされていた。
踏み潰された草。
無造作に切り落とされた枝。
幹へ突き立てられた目印の杭。
さらに先から硬い物同士がぶつかる音と、複数の足音が聞こえてくる。
『近い……』
エスは短く呟き、弓へ矢をつがえた。
崩れた石壁を越えた先に、白骨の兵士たちが並んでいる。
朽ちた盾と刃を持つ骸骨。
その後方には、森に似つかわしくない黒衣の術士たちの姿もあった。
狩人が森へ踏み込むために従えてきた魔物なのか。
あるいは森の異変に引き寄せられたものなのか。
確かなことは分からない。
だが、武器を構えた彼らが道を譲るつもりのないことだけは明らかだった。
『ルナ、後ろへ!』
レッドが剣を抜き、最前列へ躍り出る。
ルナは杖を掲げ、鏡ノ扉の英雄たちへ呼びかけた。
光の柱が森へ降り注ぐ。
金色の翼を持つ英雄と、黒い帽子を被った二人の術士が光の中から姿を現した。
白骨兵たちは、顎を鳴らしながら一斉に距離を詰めてくる。
最初の一体が錆びた刃を振り下ろした。
レッドは半歩踏み込み、剣の腹でその一撃を受け流す。
刃と刃が擦れ、耳障りな音とともに火花が散った。
骨だけの身体は軽い。
だが痛みも恐れも感じないため、一撃を受けても構わず武器を振り続けてくる。
レッドが正面の敵を押し返した隙に、別の白骨兵が側面へ回り込んだ。
ヒュンッ――。
森を裂くように一本の矢が飛ぶ。
エスの放った矢は白骨兵の手首を正確に射抜き、握られていた刃を地面へ落とした。
『右からも来る!』
エスの声に応じ、召喚された術士が杖を振るう。
足元に広がった魔法陣から暗紫色の光が噴き上がり、迫っていた二体をまとめて弾き飛ばす。
その間に翼を持つ英雄が高く舞い上がった。
羽ばたきとともに生じた光の奔流が白骨兵へ降り注ぎ、骨の身体をばらばらに砕いていく。
だが、砕けた敵が消えるよりも早く、森の奥から新たな一団が現れた。
円盾を構えた白骨兵が前に並び、その背後を小柄な魔物が進んでくる。
守りを固めた敵の列へ、レッドが正面から斬り込む。
盾が剣を受け止めた。
直後、二体目の盾が横から振るわれ、レッドの身体を押し返す。
『くっ……!』
体勢を崩したレッドへ、後列から投げつけられた刃が迫る。
ルナの杖が青白く輝いた。
刻ノ力が周囲を包み、飛来する刃の動きが僅かに鈍る。
レッドは身を捻ってそれをかわすと、止まりかけた刃を剣で弾き返した。
弾かれた武器が盾へぶつかり、敵の視界を塞ぐ。
その一瞬を、エスは逃さない。
立て続けに放たれた三本の矢が、盾の隙間を縫って白骨兵の肩と膝を射抜いた。
支えを失った敵が崩れ落ちる。
開かれた道へ英雄たちの魔法が殺到し、魔物の隊列を光と爆炎が呑み込んだ。
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一群を退けても、戦いは終わらなかった。
森の奥から重なる足音が響く。
白骨兵。
青い身体を持つ魔物。
そして、それらを操るように後方へ立つ黒衣の術士。
幾度も押し寄せる敵を前に、レッドたちは少しずつ呼吸を乱していく。
敵もまた、正面からではエスの矢を抜けられないと悟ったのか、木々を盾に左右へ散開した。
一体の白骨兵が大きく迂回し、ルナへ迫る。
レッドが気づいた時には、敵の刃がすでに振り上げられていた。
『ルナ!』
レッドが地面を蹴る。
しかし、その剣が届くより先に、エスの矢が白骨兵の額を貫いた。
勢いを失った骨の身体へレッドが斬撃を叩き込み、ばらばらになった残骸を蹴り退ける。
『ありがとう、エス!』
『まだ来る!』
エスは礼に答える間もなく、次の矢をつがえた。
前方では召喚された術士たちが背中合わせに立ち、左右から迫る魔物へ交互に魔法を放っている。
黒い光。
緑色の風。
黄金色の閃光。
いくつもの力が古代の遺跡を照らし、敵の姿を次々と霧へ変えていった。
やがて最後の白骨兵が崩れ落ちる。
一瞬だけ、森へ静けさが戻った。
だが、エスは弓を下ろさない。
『……来る』




