森の異変3
エスは再び大木の前へ立った。
長弓へ矢をつがえ、森の奥へ狙いを定める。
その姿勢のまま、目を閉じて動かなくなった。
『木々の声を聞く……か』
レッドが声を潜める。
『エス……
ずっとああしてるけど、僕には何も聞こえないや』
『ええ……私もよ。
木に聞くなんて信じられないけどそんな事が出来る人もいるのね』
二人の耳に届くのは、葉擦れと鳥の鳴き声だけだった。
だが、エスは風に紛れた僅かな囁きまで聞き分けているかのように、時折弓の向きを変えている。
『森の中を歩き回るより早く見つけられそうだわ』
ルナは感心したように呟いたあと、スライムが逃げていった方角を振り返る。
『まったく……
スライムなんかより、エスの方を手伝うべきよね』
『あはは……でも、スライムのおかげでエスに会えたんだし……
あの子を手伝ったのは無駄じゃなかったと思うよ』
『それはそうだけど……』
納得しきれない様子でルナは腕を組む。
『それに、手伝うって言っても僕らじゃ木の声は聞こえないし……』
『……そうね。
邪魔しないくらいしか出来ないわね』
『…………』
その時、エスの耳が僅かに動いた。
弦を引いていた腕に力がこもり、閉じていた瞳が開く。
『エス、何かわかったの?』
『……まだ。
遠くの木にも聞いてみるけどもう少し……』
言葉の途中で、エスの表情が変わった。
『!』
風向きが変わる。
それまで穏やかだった木々が一斉にざわめき、森の奥から複数の鳥が飛び立った。
『……ごめん、行かなきゃ』
『行くって、どこへ?
何が聞こえたの?』
『……森に、狩人が来てる。
荒らされる前に、僕は……ここを守らなきゃ』
『!』
エスは弓を抱えると、森の奥へ駆け出そうとする。
『悪いけど、ここで待ってて。
終わったら、もう一度……』
『……私たちも行くわ。
森が危ないんでしょう?』
『え?』
思いがけない言葉に、エスは足を止めた。
『宝石を探してくれてるんだもの。
……少しくらいあなたの事も手伝わせて。
それに、その方が早く宝石についてもわかるでしょ?』
時間に余裕がないことは変わらない。
だからこそ、エス一人を送り出して待ち続けるより、ともに解決した方が早い。
そして何より、手を貸してくれた相手を見捨てることを、ルナは選べなかった。
『……ありがとう』
エスは弓を握り締め、小さく頭を下げる。
『なら、行こう。
狩人はこっちから来てる。
……気をつけて』




