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森の異変2

『木々に聞くって……

 そんな事出来るの?』


ルナは信じられないといった表情で、エスと大木を見比べた。


『……それが、森人だから。

 自然の声を聞き、共に生きる』


エスは弓を引き、矢の先を誰もいない森の奥へ向ける。

だが、その矢を放つことはなかった。


『弓を引きながら、木々の声に耳を澄ますんだ。

 そうすれば、聞こえる』


弦を引き絞ったまま目を閉じ、呼吸を静かに整える。

周囲を舞っていた葉がエスを中心に流れを変えたように見えた。


『そうか……

 だから弓を使ってるんだね』


『……うん。

 それだけじゃないけど……』


エスは弓を下ろすとルナたちへ向き直る。


『君たちは、ここに来るまでに誰かに会った?』


『……スライムとゴブリンになら。

 他は誰もいなかったわ。

 森が続くばかりで人はいないのね』


『……そうでもないよ。

 今まではそうだったけど……

 だんだん変わってきた』


『?』


ルナとレッドは顔を見合わせた。


『そういえば……

 スライムも似たような事を言ってたわね……何かあったの?』


『うん。

 この場所は……自然が支配してた。

 だけど、最近は違う』


エスは周囲に残る古い石壁へ視線を向ける。


崩れた遺跡には刃物で削ったような新しい傷が刻まれていた。


踏み荒らされた草。

不自然に折られた枝。

注意して見れば人が入り込んだ痕跡は至る所に残されている。


『人の力が強くなって……

 自然が壊されてきてる』


弓を握るエスの指に力がこもった。


『だから、僕は……

 もっと強くならないと。

 弓は、その練習』


『……森に異変が起きてるのか。

 スライムが危険って言ってたのは嘘じゃなかったみたいだね』


レッドは風に揺れる木々の奥を見つめた。


今は穏やかに見える森も、少しずつ外から来た者たちに侵されている。


『……気にはなるけど……

 あまり深入りは出来ないわね』


ルナは胸元の時計へ手を添えた。

針は今も止まることなく、彼女に残された時間を削り続けている。


『私たちは、女神ノ涙を探しにここに来てるんだもの。

 探すため以外に何かをしてる余裕はないわ』


それは冷たい言葉ではなかった。

森の危機を聞き流せるほど、ルナも無関心ではない。


だが、彼女が立ち止まれば、この森だけではなく、鏡ノ扉で繋がるすべての世界が消えてしまう。


『早く女神様の封印を解いて……

 私の呪いを解かなくちゃ』


『……そうだね。

 ルナの時が止まれば……

 この世界も終わってしまう』


『…………』


その言葉を聞いたエスが、わずかに目を見開いた。


『エス?どうかした?』


『……いや、何でもない。

 君たちが探してる宝石ってそんなに大切なもの?』


『ええ……

 それがなくちゃ、駄目なの。

 なんとしても見つけないと……』


ルナの返答には、一切の迷いがなかった。


エスはしばらく彼女を見つめたあと、小さく頷く。


『……そう。

 なら……探し出さないと、ね』

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