薬草採取って、現代でいうとアルミ缶拾い?
「……で、ここが俺の寝床か」
案内された宿屋の一室。
いや、一室というか大部屋だった。
二段ベッドがぎっしり並び、酒と汗と革の匂いが混ざっている。
「初心者冒険者向けだからな!」
レオが笑う。
「安い代わりに雑魚寝!」
「知ってた」
異世界も世知辛い。
まあでも。
屋根があって。
雨風を防げて。
柔らかいベッドがある。
それだけで今の俺には十分ありがたかった。
昨日まで森で死にかけてたんだからな。
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宿に荷物を置いた後、俺たちは一階の食堂へ降りていた。
木製テーブル。
騒がしい冒険者たち。
肉の焼ける匂い。
完全に異世界酒場だ。
「おお……」
ちょっと感動する。
運ばれてきたのは、黒パンとスープ、それから串焼き肉だった。
「初心者セット!」
レオが親指を立てる。
「めちゃくちゃ美味そうだな……」
特に肉。
香辛料は控えめだが、炭火っぽい香ばしい匂いがたまらない。
俺はさっそく串焼きへかぶりつく。
「あっ、うま」
肉汁が口の中へ広がる。
シンプルな塩味なのに妙に美味い。
森で死にかけてた後だから余計に染みる。
「だろ!この宿、肉だけはうまいんだ!」
レオが笑う。
“だけは”。
妙な言い回しに引っかかりながら、今度は黒パンをちぎる。
硬い。
というか重い。
ライ麦パンをさらに凶悪にした感じだ。
試しに一口。
「……」
「……どう?」
ミーシャが苦笑気味に聞いてくる。
「なんかこう……健康には良さそう」
「ははは!」
レオが吹き出した。
「まあ、美味くはないよな!」
「保存重視ですからねぇ」
トマがスープへ浸しながら言う。
「そのままだと硬いので、こうした方が食べやすいですぅ」
なるほど。
リズも無言でパンをスープへ突っ込んでいた。
つまり現地人的にも別に美味くはないらしい。
ちょっと安心した。
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しばらく飯を食った後。
現実的な問題を思い出す。
「……なあ」
「ん?」
「俺、借金結構増えてない?」
レオたちが少し目を逸らした。
やっぱり。
宿代。
着替え代。
飯代。
全部借りてる。
「まあ……ちょっと?」
「かなり?」
「うっ」
リズの言葉が鋭い。
「いやでも、どうやって返していけばいいんだ?」
異世界初日。
所持金ゼロ。
職歴なし。
社会的信用ゼロ。
割と詰んでる。
するとレオがパンをかじりながら言った。
「冒険者になったんだから、普通にクエスト受ければいいんじゃね?」
「クエスト」
「薬草採取とか!」
ミーシャが補足する。
「常設依頼ですし、初心者でもできますよ」
「へぇ」
「薬草はポーション材料になるから需要あるんだ」
トマが説明してくれる。
「数集めれば、最低限食べていくくらいなら何とかなると思いますぅ」
なるほど。
異世界生活の基本って感じだ。
「今日ギルドでも説明あっただろ?」
レオが言う。
「冒険者ランク!」
「あー、EからSまであるやつか」
「そうそう!」
レオが指を折る。
「Eは初心者!雑用中心!」
「薬草採取、荷物運び、掃除、素材集めとかですね」
ミーシャが続ける。
「街の外に出る討伐依頼は、基本Dからです」
「へぇ」
「俺たちはDランク!」
レオが胸を張った。
「だから今日みたいなゴブリン討伐できるんだ!」
なるほど。
初心者卒業くらいか。
「まあ、駆け出しだけどな!」
「いや普通にすごいだろ」
俺まだ木の棒だぞ。
「でもトールは、しばらく討伐系やめた方がいい」
リズが真顔で言った。
「え」
「今日の戦い見てたけど、正面戦闘向いてない」
グサッ。
いや事実だけど。
「奇襲は悪くなかった」
「……お、おう」
「でも真正面から殴り合ったら普通に死ぬ」
「はい」
正論だった。
レオも苦笑する。
「トール細いもんなぁ」
「その《隠密》活かした方がいい気する」
「まずは生き残ること優先ですね」
ミーシャが優しくフォローする。
なんか初心者講習会みたいになってきた。
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「じゃあさ」
俺はふと思いつく。
「薬草採取って、明日見せてもらえたりする?」
「あ、いいよ!」
レオが即答した。
「助けてもらったお礼!」
「実物見た方が早いですしね」
ミーシャも頷く。
「薬草、似た草多いから」
「毒草もあります」
トマが少し青い顔をした。
「間違えるとお腹壊しますぅ……」
怖いこと言うな。
「……まあ、まずは生活基盤作りだな」
異世界。
冒険者。
クエスト。
最初はもっとワクワクした展開を想像していた気もする。
だが。
まず食わないと死ぬ。
その辺はどこの世界でも変わらないらしい。
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翌朝。
まだ日も昇り切っていない時間。
「眠ぃ……」
俺たちは街の外へ出ていた。
朝露で草が濡れている。
空気が冷たい。
「薬草採取は朝が狙い目なんだ!」
レオが言う。
「他の冒険者より先に採れるから!」
なるほど。
完全に早い者勝ちなのか。
「ちなみに常設依頼だから、毎回ギルド行かなくていいですよ」
ミーシャが説明する。
「採ってきた薬草を、後で納品するだけです」
便利だ。
「よーし!じゃあ初心者薬草講座始めるぞー!」
レオが張り切る。
その横で、リズが既に地面を観察し始めていた。
「……あった」
早っ。
しゃがみ込み、慣れた手つきで草を摘む。
「これが回復薬の材料になる《青葉草》」
「ほー……」
見た目は普通の雑草だ。
いやマジで。
「これ覚えるの大変そうだな……」
俺はそう呟きながら、《撮影》で薬草を記録した。
葉の形。
色。
根。
周囲の環境。
全部映像として保存する。
すると。
「……それ、何してるの?」
リズがこちらを見た。
「あー、これ?」
俺は手に持った魔導カメラを軽く持ち上げる。
「景色とか情報を記録できるんだ」
「記録?」
今度はトマが反応した。
「み、見返せるんですか……!?」
「おう」
試しに、さっき撮った薬草の映像を再生する。
空中へ淡い光が浮かび、薬草の姿が映し出された。
「うおっ!?」
レオがびっくりする。
「なんだこれ!?」
「え、映像……?」
ミーシャも驚いていた。
トマは完全に目を輝かせている。
「す、すごい……!」
「これはルミア様の加護で使える、その場面を記録する装置なんだ」
『ふふーん』
頭の中でルミアがドヤっていた。
「一回見つけた薬草を後から確認できるのか……」
トマが食い入るように映像を見る。
「結構便利そうですね、それ……!」
「便利どころじゃない」
リズがぽつりと呟く。
「足跡とか魔物の痕跡も残せる?」
「あー、多分できる」
「……すごい」
かなり珍しく、リズが素直に感心していた。
するとレオが腕を組む。
「でも戦闘向きじゃなさそうだな!」
「それは本当にそう」
俺も即答した。
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




