異世界チートアルミ缶拾い
「お疲れさまでしたー」
ギルドの受付嬢が、採取した薬草を手際よく確認していく。
《青葉草》。
初心者向け定番薬草。
……らしい。
「うーん、初回にしては結構採れてますね」
「おっ、マジ?」
レオが嬉しそうに笑う。
ミーシャたちもそれぞれ袋を提出していた。
俺も見よう見まねで採った分を並べる。
受付嬢は慣れた手つきで仕分けを終えると、小さな革袋をこちらへ差し出した。
「こちら、報酬になります」
ちゃり、と硬貨が鳴る。
「おお……」
異世界初収入。
ちょっと感動する。
---
そして。
数分後。
「……少なくね?」
現実を知った。
「まあEランクだしな!」
レオが笑う。
笑い事か?
いや、確かに。
五人で半日近く動いて、この金額。
宿代。
飯代。
装備維持。
全部考えると、かなりギリギリだ。
「新人冒険者ってこんなもんですよ」
ミーシャが苦笑する。
「最初は薬草採取と雑用で地道に稼ぐ感じですね」
「討伐できるようになると、だいぶ変わるんだけどなー」
レオが腕を組む。
「ゴブリン素材とか換金できるし!」
なるほど。
戦闘系が稼げる世界らしい。
「……薬草採取って、現代でいうとアルミ缶拾い?」
「あるみかん?」
「いやなんでもない」
夢の異世界冒険者生活。
現実はかなり世知辛かった。
---
その日の夜。
宿の食堂で、再び黒パンをスープへ沈めながら話していた。
「俺たち、明日からまた森側の討伐クエ行くんだ」
レオが言う。
「Dランク向けのやつ!」
「へぇ」
「最近ゴブリン増えてるらしいんですよ」
ミーシャが少し不安そうに言う。
「街道近くでも目撃増えてて……」
「だから新人パーティも討伐参加してる」
リズが淡々と続ける。
「……危なくない?」
「危ない!」
レオが元気よく言った。
「でも討伐系やらないと稼げないしな!」
うわぁ。
命が軽い世界だ。
トマも少し青い顔をしていた。
「ぼ、僕はまだ慣れなくて……」
「そのうち慣れる慣れる!」
慣れていいのかそれ。
---
「そうだ」
ふと思いついて聞いてみる。
「薬草とか魔物素材の図鑑みたいなのってないのか?」
「図鑑?」
レオが首を傾げる。
「ギルド資料室ならありますよ?」
ミーシャが答えた。
「初心者向けの薬草資料とか、魔物情報とか」
「マジで!?」
「簡単なものですけどね」
それを先に言え。
「明日一人で採取する前に見ておきたいな……」
今日やって思った。
あれは効率が悪すぎる。
勘。
経験。
見落とし。
全部人力。
攻略情報として整理されていない。
配信者時代の俺からすると、かなりムズムズする状況だった。
---
翌朝。
俺は一人でギルド資料室へ来ていた。
薄暗い小部屋。
古い本棚。
薬品っぽい匂い。
「おお……」
意外とちゃんとしてる。
薬草図鑑を開く。
《青葉草》。
《赤根草》。
《月光花》。
色々載っている。
ただ。
「……いや分かりづら」
絵が雑だ。
というか。
実物との差が結構ある。
「これ初心者間違えるだろ……」
ページをめくる。
すると。
ある薬草で手が止まった。
《隠れ苔草》。
「……雑草じゃん」
どう見ても雑草だった。
説明文を読む。
『薬効は高いが発見困難。買取価格は青葉草の七倍』
「七倍!?」
思わず声が出た。
だが問題は。
『熟練採取者でも発見率は低い』
完全にレア採取枠らしい。
俺は資料を《撮影》で記録しながら、説明文へ視線を落とす。
『朝露を受けると、葉裏が僅かに白銀色を帯びる』
「……葉裏?」
俺はその文章を頭の片隅へ置いたまま、森へ向かった。
---
最初の数十分は成果ゼロだった。
似た草ばかり。
しゃがむ。
違う。
またしゃがむ。
違う。
腰が痛い。
「これ効率悪すぎるだろ……」
Eランク冒険者が群がる理由が分かった。
量をこなすしかないのだ。
だが。
何度も草を観察しているうちに、ふと違和感に気づく。
「……ん?」
朝露を受けた草の中。
ほんの一瞬だけ。
葉の裏が、白く反射した。
「これだ」
草をかき分ける。
図鑑。
実物。
葉脈。
形。
根。
全部一致する。
《隠れ苔草》。
「見つけた……!」
俺は反射的にカメラを向けた。
その瞬間。
カメラの画面へ、淡い輪郭線が浮かび上がる。
「……あ?」
再び周囲を映す。
すると。
少し離れた岩陰。
また同じ輪郭が光った。
「……登録された?」
カメラ越しの視界だけ。
《隠れ苔草》が微かにハイライトされている。
「一回実物記録したから、できるようになったのか?」
俺は思わず笑う。
「検索機能付き最高かよ……!」
---
そこからは早かった。
肉眼では雑草にしか見えない薬草たちが、カメラ越しだと浮かび上がる。
岩陰。
倒木の近く。
湿った斜面。
今まで見落としていた場所から、次々と《隠れ苔草》を発見していく。
「これ、めちゃくちゃ革命的では?」
異世界に来て初めて、自分のスキルへ明確な手応えを感じた。
戦闘力は低い。
真正面から戦えば普通に死ぬ。
だが。
観測。
記録。
分析。
それは間違いなく、俺が元の世界で積み上げてきたものだった。
---
その日の採取量は、昨日とは比較にならなかった。
しかも高額薬草込み。
受付嬢も普通に驚いていた。
「えっ、これ全部一人で採ったんですか?」
「まあ……はい」
「《隠れ苔草》まで……?」
ざわつく周囲。
初心者冒険者たちがこちらを見る。
「おいマジか」
「見つけるのめちゃくちゃ難しいやつだろ」
「運良すぎじゃね?」
違う。
これは。
観測だ。
記録だ。
検証だ。
俺がずっとやってきたことだ。
受付嬢が追加報酬込みの革袋を差し出す。
昨日より、明らかに重い。
ちゃり、と鳴る硬貨の音。
その瞬間。
異世界で初めて。
ほんの少しだけ。
「……やっていけるかも」
そう思えた。
面白かったら評価・ブクマお願いします。
ルミア『ご入信もお待ちしております』




