▶たたかう
「うおおおおっ!!」
半分やけくそで、俺は木の棒を構えながら飛び出した。
突然森から現れた俺に、ゴブリンたちが一斉に振り向く。
だが狙いは一つ。
後衛へ回り込もうとしていた一匹だけだ。
「どぉらっ!!」
思い切り棒を振り下ろす。
ガツッ!!
鈍い音。
ゴブリンの肩口へ木の棒が叩き込まれた。
「ギャッ!?」
完全に不意を突かれたゴブリンが体勢を崩す。
そのまま隣の個体へぶつかった。
「今だ!!」
反射的に叫ぶ。
「えっ?」
少年冒険者たちがこちらを見る。
だが、リーダーらしき剣士の反応は早かった。
「押し返せぇ!!」
軽剣が閃く。
体勢を崩していたゴブリンの腕へ斬撃が入る。
続けざまに、後方の少女が矢を放った。
ヒュッ!!
矢がゴブリンの脚へ突き刺さる。
「ギギッ!?」
さらに。
「《ライト・バッシュ》!」
僧侶少女の杖が淡く発光し、前衛のゴブリンを弾き飛ばした。
「か、火球いきますぅ!!」
最後尾のおどおどした少年が、涙目で火球を放つ。
狙いは若干ズレた。
だが、それでも炎を嫌ったゴブリンたちが後退する。
「ギッ……ギギッ!」
統率が崩れた。
囲みが崩壊したことで、ゴブリン側が明らかに警戒し始める。
「……っ!」
俺は即座に下がる。
無理。
これ以上は無理。
棒一本で戦い続けるとか絶対無理。
「追うな!隊列維持!」
リーダーの少年が叫ぶ。
ゴブリンたちはこちらを睨みながらも、森の奥へ撤退していった。
簡単に勝てないって分かると撤退って…どこが雑魚敵だよこれ……
静寂。
そして。
「はぁっ……はぁっ……!」
一気に全身から力が抜ける。
やばい。
怖すぎた。
今さら手が震えてきた。
「た、助かったぁ……」
魔法使いの少年がその場へ座り込む。
「大丈夫!?」
僧侶の少女が駆け寄った。
一方で、弓の少女だけは油断なく周囲を警戒している。
クール系だ。
「……君、何者?」
彼女がこちらを見る。
鋭い目だった。
「あー……その」
なんて説明したものか。
異世界転生者です、は流石に無理がある。
するとリーダーの少年が勢いよく近づいてきた。
「助かった!ありがとう!」
熱い。
めちゃくちゃ体育会系だ。
「いや、たまたまだって。後ろ回ろうとしてるのが見えたから……」
「それでもすげぇよ!あのタイミングで飛び込める奴なんて普通いない!」
「いや普通に怖かったけど」
本当に。
心臓まだバクバクしてる。
「僕はレオ!駆け出し冒険者パーティ“若葉の風”のリーダーやってる!」
「ミーシャです。回復役をしています」
僧侶少女がぺこりと頭を下げる。
「……リズ」
弓少女は短く名乗った。
「え、えっと……トマですぅ……」
魔法使い少年はまだ半泣きだった。
「俺は……トール」
危ない。
透って言いそうになった。
その瞬間。
俺はふと気づく。
「……あれ?」
「ん?」
「普通に会話できてる……」
よかったぁぁぁぁ!!
いや本当に!
異世界来た瞬間、
『言葉わかりません』
とかだったら詰んでたぞ!?
「どうしたんだ?」
レオが不思議そうに首を傾げる。
「いや、ちょっと安心しただけ」
たぶんこれもルミアの加護なんだろう。
だったら説明しとけよ。
「トール?」
レオが改めて俺を見る。
「なんか変な服だな!」
「そこ触れる!?」
やっぱりか。
改めて見ると、俺だけ完全に浮いていた。
パーカー。
ジーンズ。
スニーカー。
周囲は革鎧やマント姿。
そりゃ目立つ。
「ルミアあの野郎……その辺説明しとけよ……」
思わず空を見上げて毒づく。
「ルミア?」
「いやなんでもない」
危ない危ない。
「でもほんと助かったよ!あのままだったら後ろ取られてた!」
レオが笑う。
いい奴そうだ。
ちょっと暑苦しいけど。
「……森のゴブリン、増えてる」
リズが森を見る。
「あいつら最近、群れ行動するようになってるんだよ。前より厄介」
「やっぱそうなんだ」
俺の観察は間違ってなかったらしい。
「トールさん、森で一人だったんですか?」
ミーシャが心配そうに聞く。
「あー、まあ」
「装備もほとんど無いし……」
「その、事情があって」
異世界転生です、とは言えない。
するとレオが腕を組んだ。
「だったら一緒に街まで行こうぜ!」
「街!」
やっとだ。
文明。
ベッド。
水。
飯。
人類。
「近くに街あるんだな……」
「徒歩半日くらいかな!」
遠いな!?
だが希望は見えた。
「でもその前に、ギルドで登録しないとな!」
「ギルド?」
「冒険者ギルドだよ!」
来た。
異世界テンプレ来た。
「モンスター討伐とか依頼受けたりする場所!」
「へぇ……」
普通にテンション上がる。
「宿も紹介してもらえるよ!」
ミーシャが補足する。
神。
宿超大事。
「……あ」
そこで重大な問題に気づいた。
「俺、金ないわ」
全員が固まる。
「え」
「マジ?」
「ゼロ?」
「一文無し……?」
やめろ。
そんな哀れみの目で見るな。
「いやだって異世界……じゃなくて、遠くから来たばっかだし……」
危ない危ない。
するとレオが少し考え込む。
「うーん……」
「まあ、助けてもらった恩もあるし」
ミーシャが財布袋を取り出す。
「宿代くらいなら、みんなで出せるよね?」
「え、いいの?」
「命助けてもらったし」
トマがこくこく頷く。
「ぼ、僕たち、ほんと危なかったのでぇ……」
リズも小さくため息をついた。
「……借り、ってことにしとく」
「いや十分ありがたいけど!?」
なんだこの優しい世界。
レオが笑いながら俺の肩を叩く。
「その代わり、街着いたらちゃんと飯奢れよな!」
「……恩に着る」
異世界初の借金。
いや。
これはもう、借りというより恩だ。
森を抜ける風が、少しだけ優しく感じた。
明日からしばらくは、1日2回昼夜で投稿します。
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




