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翌朝。
目を開けると、木のうろの隙間から朝日が差し込んでいた。
「……寒っ」
身体がバキバキだ。
まともな寝床も毛布もない状態で、
木の中に押し込まれていたんだから当然だが、思った以上に疲労が抜けていない。
だが、空腹と喉の渇きは昨日よりマシだった。
昨日見つけた果実をいくつか確保していたのが大きい。
「さて……」
木の上から、昨日見つけた灯りの方向を確認する。
森の向こう。
かなり遠いが、進む方向は間違っていないはずだ。
「問題は道中だよな……」
昨日のゴブリンを思い出す。
三匹。
連携。
索敵。
ゲームみたいに真正面から突っ込んで倒せる相手ではない。
少なくとも今の俺には無理だ。
「だったら、避けるしかない」
---
慎重に木から降りる。
森の中は朝になっても薄暗い。
鳥の鳴き声。
湿った土。
葉の擦れる音。
そういう自然音の中に、時折不自然な音が混じる。
パキ。
ガサ。
低い唸り声。
「……いた」
茂みの向こう。
昨日と同じゴブリン。
だが今度は五匹いた。
「増えてんじゃねぇか……」
木の陰からそっと観察する。
ここで無理に動かない。
まず見る。
配信時代から染みついた癖だった。
何かを攻略する時、まず必要なのは情報だ。
ゴブリンたちは適当に動いているようで、実は違った。
二匹が周囲を警戒。
二匹が何かの肉を運んでいる。
一匹だけ、少し高い岩の上に立って周囲を見ていた。
「見張り役……?」
しかも一定時間ごとに位置を変えている。
ゲームAIみたいな完全なローテーションではない。
もっと雑。
でも、だからこそ厄介だ。
「……ランダムじゃないだけマシか」
俺は《撮影》スキルでゴブリンたちを拡大観察する。
視界の中で映像がズームされる。
足運び。
視線。
癖。
一匹だけ左足を引きずっている。
鼻の大きい個体は頻繁に風上を見る。
武器持ちは前に出る傾向。
「これ……」
何度か観察するうちに見えてきた。
こいつら、完全な群れ行動をしている。
一匹が動くと、残りもつられる。
逆に言えば。
「一方向へ注意向けさせれば、抜けられるか?」
---
俺は周囲を見回す。
石。
枯れ枝。
落ち葉。
そして少し離れた場所に、小動物の気配。
「……よし」
できるだけ音を立てず移動する。
《隠密》を発動。
身体が森へ溶け込む感覚。
昨日より少しだけ分かる。
気配を消すというより、“周囲に馴染む”感覚だ。
呼吸を浅く。
視線を落とす。
葉を踏まない。
枝を避ける。
ゲームのステルスとは違う。
かなり地味だ。
でも、効果はある。
俺は石を拾い、ゴブリンたちの反対側へ投げた。
ガサッ!!
茂みが揺れる。そこにいたリスのような小動物が逃げ惑う。
その瞬間。
見張り役がそちらを向き、ほんの少し遅れて他の個体もそちらを向いた。
「うお、マジか」
統率取れてるなこいつら。
だが今しかない。
俺は低い姿勢のまま、一気に木陰を移動する。
走らない。
急がない。
音を立てない。
視界に入らない位置を選ぶ。
「っ……!」
途中、一匹がこちらを振り向きかける。
だが、鼻の大きい個体が別方向へ唸ったことで、注意が逸れた。
助かった。
本当にギリギリだ。
やがて。
ゴブリンたちの気配が遠ざかる。
「はぁぁ……」
思わずその場にしゃがみ込む。
心臓が痛い。
緊張で喉がカラカラだ。
「これ、攻略っていうか不法侵入だろ……」
でも。
少しだけ実感していた。
自分は、ちゃんと“観察”できている。
戦えない。
力もない。
でも。
相手を見て。
行動を読んで。
隙を探すことはできる。
それは、ゲーム攻略動画を作っていた頃と同じだった。
---
昼を過ぎた頃。
森の空気が少し変わった。
風が通る。
木々の密度が薄い。
そして。
遠くから金属音が聞こえた。
「……人?」
さらに進む。
すると。
木々の隙間の向こう。
開けた場所で、数人の少年少女がゴブリンたちに囲まれていた。
「うわっ……!」
年齢は十代半ばくらい。
装備も粗末だ。
革鎧。
木の盾。
錆びた剣。
完全に駆け出し冒険者。
だが状況が悪い。
ゴブリンは六匹。
しかも、後ろへ回り込もうとしている個体がいる。
「まずい……!」
少年たちは目の前の相手で手一杯だ。
後ろに気づいていない。
俺は反射的に周囲を見る。
落ちていたのは、少し太めの木の枝。
昨日拾ったものより重い。
長さもある。
「クソッ……!」
戦う?
無理だ。
怖い。
普通に。
でも。
後ろから襲われたら、あいつが死ぬ。
ゴブリンの動きが見える。
囲む時、一瞬だけ注意が獲物へ集中する。
今だ。
俺は木の棒を握り締め、森から飛び出した。
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