Now Loading... 生配信環境テスト中
その日は朝からどんよりと重たい雲が空を覆っていた。
怪我はほぼほぼ治ったが、ステューとは特に顔も合わせていない。
何となくギルドに顔を出し、依頼を眺めてはいるが、そんな気分でもない。
まともな冒険者はもう依頼に出発し終わったぐらいの時間帯。
言っちゃあなんだがギルドの中もどんよりしていて、倦怠感が空気中に漂っている。
「緊急事態だ!!」
ギルドの扉が勢いよく開いた。
今まで、半分眠っていたかのようなギルドが目を覚ます。
冒険者たちはいっせいに、入口の方を睨むように視線を向けた。
そこには血相を変えた冒険者が立っていた。
「鉱山ダンジョンが!」
「崩れた!!」
その瞬間。
嫌な予感が現実になった。
---
鉱山ダンジョン。
十日ほど前に撮影で行った場所だ。
支柱のひび。
不自然な空洞。
崩れそうな天井。
全部思い出す。
「被害は!?」
いつの間にか出てきていたギルドマスターが尋ねる。
「採掘班が中です!」
「どれくらいだ!」
「三十人以上!」
空気が凍った。
「救助隊を出せ!」
「いや待て!」
別の冒険者が叫ぶ。
「まだ崩れてる!」
「二次崩落が起きるぞ!」
「静かに!」
ギルマスが一喝し場を収める。
「状況確認が先だ。ここにいるCランク以上の者はついてきてくれ」
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鉱山ダンジョンは、ギルドからもさほど遠くない街の近くの岩山に口を開けている。
その名の通り、多種多様な鉱石を排出することでカナンベルクの興隆を支えていた。
近年は採掘量が減っただかで、公共の開発は下火になり、メンテも後回しにされていたようだ。
公金が減ったことで、野良の冒険者たちの稼ぎ場にはなっていた。
そんな小さな積み重ねが事故に繋がった。
現場は混乱していた。
俺は無言で魔導カメラを取り出す。
《撮影》
鉱山の外観。
崩落箇所。
以前の記録。
照合。
だが、見えない。
外からじゃ限界がある。
「……くそ」
奥が見えない。
生きているかも分からない。
その時だった。
聖書が光る。
ぴこん。
小さな通知音。
「今そんな場合じゃ――」
言いかけて止まった。
鉱山の動画にコメント、予感がする。
中を見て確信に変わった。
「……中からだ」
俺は聖書を掲げて救助に集まった面々に見せた。
文字が浮かんでいる。
>> 助けてください
全員が固まる。
>> レンです
「……は?」
>> 鉱山の中です
>> まだ生きてます
ギルドが静まり返った。
「レン……」
俺は思わず呟く。
俺たちの動画のファンだと言ってくれたドワーフの少年だ。
動画勢、自前の聖書もってるって言ってたもんな。
レンの持っていた使い込まれた聖書を思い出す。
コメントは続く。
>> 他にもいます
>> 生存者十七人
>> 怪我人多数
>> 水は少しあります
>> 空気が悪いです
「生きてるぞ!!」
誰かが叫んだ。
空気が一変した。
絶望から希望へ。
>> 場所はこの間、トールさんが整備不良を指摘してくれた奥の間の近くの空洞です。
>> あの指摘があったので、ここにいる皆を緊急避難させられました。
ギルドマスターが浮ついた空気を引き締める。
「救助計画を立てる!」
だが、問題は山積みだった。
崩落は広範囲。
普通の救助隊では危険すぎる。
しかも再崩落の可能性も高く、時間がない。
俺は再び《撮影》を使う。
鉱山に入り今見えるぎりぎりまで情報を集める。
以前の映像。
採掘記録。
鉱脈の位置。
崩落状況。
全部を重ねる。
「……ん?」
違和感。
もう一度。
「待て」
さらに拡大。
「あった」
鉱脈。
銀鉱脈。
鉄鉱脈。
崩落地帯の中で。
そこだけ繋がっている。
「ルートだ」
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俺は、動画記録を観測し得た予測をギルドマスターに告げる。
ギルドマスターが目を見開いた。
「何だと?」
「完全には潰れてない、奥につながるルートがある」
「本当か!?」
「ある」
俺は言う。
「生存者まで行ける道がある」
これまでの動画と《撮影》の種を明かす。
「観測神ルミア様の加護の力だ、一度見た鉱石はこうやってハイライトできる」
ギルドマスターが動画を食い入るように見る。
「そしてその出力を高めると鉱脈の様子が分かるんだ」
「鉱脈沿いの坑道が崩れていないってことか?」
「ただ正直なところ、入口付近から“鉱脈の線”だけは追えるんだが、崩れてる場所の細部は現地じゃないと確定できない。
それでも、鉱脈があるところは、地盤が安定しているのか何なのか、他の箇所よりも明らかに崩れていない」
「じゃあ助けられるってことか!?」
冒険者の面々から歓声が上がりかける。
俺は続ける。
「でも……俺じゃ無理だ。さすがに崩れていないとはいえ、さすがに踏破できない……」
沈黙。
細い足場。
崩れた支柱。
飛び越えなきゃいけない箇所。
何か所もある。
俺には無理だ。
身体能力が足りない。
その時、背後から声がした。
「なら私が行く」
振り返る。
銀髪。
猫耳。
ステューだった。
空気が少し重くなる。
あの護衛クエスト以来、まともに話していない。
「ルートがあるんだろ」
「ある」
「なら案内しろ」
即答だった。
俺は首を振る。
「できれば苦労しない」
「なんだそれ」
「今分かるのは浅いところまでだ。」
「深いところは、実際見てみないと分からない」
「じゃあ私が背負ってでもなんでもすればいいだろ!」
「そんなことしたら死体が二つ増えるだけだ!!」
沈黙。
どうすればいい。
今助けを待ってる人たちがいる。
俺の動画に救いを求めてくれた人たちがいる。
その時。
頭の中で。
聞き慣れた声が響いた。
『できますよ』
「は?」
『できます』
「何が」
『案内です』
「どうやって」
「トールどうした?」
ギルマスが心配そうな声で、尋ねてくる。
気が触れたわけじゃないんです。
「あの今ちょうど、神託が来てまして…」
『使徒トールに最新アップデート情報を授ける』
ルミアは胸を張るような声で言った。
『生配信機能です!』
耳がキーンとする。
頭の中に直接語り替えてるわけじゃないのか、これ。
俺は目を閉じた。
一旦、落ち着くべきだ。
『あのー……』
『実はちょっと前に実装してたんですけど』
『二人とも空気悪かったじゃないですか』
『言い出しづらくて』
「もっと早く言え!!」
『ベストタイミングだと思いましたけどね!!』
ギルド中に響く怒鳴り声。
だが、これでいける。
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「生配信機能だ。ルミア様が信者の危機に授けてくれた。」
こうなったら信仰だとかなんだとか使えるもんは何でも使ってやる。
「ざっくり言えば、このカメラで映している映像を直接聖書で見ることができる」
改めて口にすると世界観がヤバい。
「そしてカメラ側にも聖書からのコメントを、リアルタイムで見ることができる」
『あ、あと読み上げ機能も追加してます、オプションでトールさんのコメだけ読み上げにしときますね』
いい加減頭が痛い。
「あーなんか俺のコメントは、声で読み上げてくれるらしい」
「分かったような分からんような話だが、つまりこのカメラを猫の嬢ちゃんが持って鉱山に入り、
遠隔でトールがナビゲーションするってことか?」
ギルマスの理解が早くて何よりだ。
ステューも気付いていた。
使える。
使えるなら。
助けられる。
ステューが俺を見る。
「トール」
低い声だった。
「私には道が分からない」
猫耳は真っすぐ立っていた。
「崩れる場所も」
「危険な場所も」
「でも」
一歩前へ出る。
「お前には見えるんだろ」
俺は答えない。
答えられない。
「お前はいつもそうだ」
「助ける方法を考える」
「私は動くことしか頭になく失敗ばかりだ」
「だから今度は力を貸せ」
「レンたちを助けるには、お前の力がいる」
「私が誰かを護れるような騎士になるには、お前の力が必要なんだ!」
その言葉が。
思った以上に胸へ刺さった。
あの時、俺たちはぶつかった。
お互い正しいと思っていた。
だから、一番どうにもならなかった。
でも今は、助けるためには。
ステューだけは足りない。
俺じゃもっと足りない。
「……分かった」
俺は立ち上がる。
魔導カメラをステューに預ける。
「絶対指示を聞けよ」
ステューが鼻を鳴らす。
「誰に言ってる」
久しぶりに。
少しだけ。
いつもの空気が戻った。
そして、異世界攻略チャンネル史上初の生配信救助作戦が始まる。
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その頃、暗い坑道の奥。
レンは聖書を抱えていた。
>> 助けは来ますか?
震える指で打ち込む。
数秒後。
返信が届く。
>> 行く
短い一文。
レンは思わず笑った。
「来た……」
「トールさん来た!」
泣きそうな顔で叫ぶ。
採掘師たちが顔を上げる。
希望が、崩れた鉱山の中に再び灯った。
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




