守れるもの、守れないもの
ステューが飛び出した直後。
俺は採集人たちを逃がしていた。
「走れ!!」
「で、でも!」
「いいから走れ!!」
年配の採集人が転びそうになりながら走る。
若い採集人が肩を貸す。
森の中は最悪だった。
護衛隊形が崩れている。
魔物も散っている。
完全に想定外だ。
ガサガサッ!!
茂みから飛び出したのは鱗を持つ狼型の魔物だった。
一匹。
二匹。
三匹。
多い。
俺は槍を構える。
本職じゃない。
勝てるとも思わない。
だけど、やるしかない。
猫姫は馬鹿野郎だけど強い。
ここで時間を稼げれば、きっと助かる。多分。
「来いよ」
魔導カメラを構える。
《撮影》
魔物を記録。
動きを見る。
癖を見る。
まだだ。
重心を見る。
まだだ…
飛び掛かる瞬間。
今だ!回避。
ギリギリ。
牙が頬を掠める。痛みは一瞬で熱になる。
何とか避けられる。
もう一匹、横から。
見えている。
避ける。
避ける。
避ける。
戦うんじゃない。
時間を稼ぐ。
それだけだ。
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ステューは森を駆けていた。
豹のようにしなやかな肢体が木々をぬるりとかわしながら、最短距離で走り抜ける。
速い。
とにかく速い。
悲鳴の方へ。
助けを求める方へ。
走った勢いのまま戦場へ飛び出す。
木々を抜けた先の開けた場所。
トカゲの魔物、リザードマン。
二足歩行のトカゲの化け物だ。
武器を使い戦術を解し、狩りを行う。
三匹。
四匹。
五匹。
冒険者が囲まれている。
前衛は血だらけ。
後衛は立つのもやっと。
「もう大丈夫だ!」
ステューが飛び込む。
銀閃。
一匹。
二匹。
三匹。
首が飛ぶ。
リザードマンの槍が脇腹を掠める。
熱い痛み。
だが止まらない。
奥からさらに現れる。
「くそっ!」
数が多い。
想像以上だった。
奴らの狩場に迷い込んでしまったのかもしれない。
一人なら問題ない。
守る相手がいるのが問題だ。
「立て!」
前衛へ叫ぶ。
「走れるか!」
「ま、まだ……!」
「なら立て!」
騎士は背中を見せない。
父の言葉だった。
弱い者を守る。
それが騎士だ。
だから、剣を振るう。
何度でも。
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俺は死にそうだった。
「ぐっ!」
狼が肩へ噛みつく。
痛い。
めちゃくちゃ痛い。
槍で殴る。
離れる。
息が上がる。
怖い。
本当に怖い。
でも。
後ろを見る。
採集人たちがいる。
震えている。
逃げている。
だから。
止まれない。
「まだだ……!」
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その時だった。
「トールさん!」
採集人の老人が転んだ。
最悪だ。
狼が飛び掛かる。
間に合わない。
考えるより先に。
身体が動いていた。
老人を突き飛ばす。
代わりに。
牙が肩へ食い込んだ。
「があっ!!」
激痛。
視界が揺れる。
でも。
老人は生きていた。
「走れ!!」
俺は怒鳴った。
「振り返るな!!」
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そして。
銀色の風が森を裂いた。
一閃。
二閃。
三閃。
狼が吹き飛ぶ。
ステューだった。
全身傷だらけ。
息も荒い。
それでも。
強かった。
残った魔物を斬り捨てる。
戦闘終了。
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冒険者のほとんどがけがを負っていたが、致命傷には程遠い。
採集人の中には、逃げるときに擦り傷を負った者がいたが、全員無事だ。
全員生還。
本来なら。
喜ぶべき場面だった。
だが、空気は最悪だった。
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「だから助けるべきだった」
ステューが言う。
「だから飛び出すなと言った」
俺も言い返す。
「結果助かっただろ!」
「結果論だ!」
初めてだった。
ここまで感情的になるのは。
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「目の前で死にそうだったんだぞ!」
ステューが怒鳴る。
「だから助けた!」
「だから?」
俺も怒鳴る。
「だからなんだ!」
森に声が響く。
ステューが固まる。
俺も止まれなかった。
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「俺だって助けたかった!」
「でも俺たちは護衛依頼を受けてたんだ!」
「依頼人を守るのが仕事だったんだ!」
採集人たちがびくりと肩を震わせる。
でも、止まらない。
止まれない。
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「騎士は見捨てない!」
ステューが叫ぶ。
「だから行った!」
「じゃあ!」
俺は採集人たちを指差した。
「この人たちが死んでもよかったのか!?」
沈黙。
ステューの耳が止まる。
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「お前が飛び出した瞬間!」
「護衛は崩れた!」
「魔物が流れた!」
「俺が止めなかったら!」
「この人たちが死んでたかもしれない!」
誰も喋らない。
風だけが吹く。
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「それでもお前は同じことをするのか?」
ステューは答えられなかった。
答えたくない。
でも、答えられない。
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「……私は」
言葉が出ない。
猫耳が震える。
尻尾も力なく下がる。
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「少し離れよう」
俺は言った。
「今は無理だ」
「……そうだな」
小さな声だった。
今までで一番小さかった。
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帰り道。
二人は別々に歩いた。
誰も話さない。
採集人たちも、気を遣っている。
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ギルドへ戻った後も。
何も変わらない。
いつも通り。
動画もある。
コメントもある。
依頼もある。
でも、ステューはいなかった。
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訓練場。
銀髪の剣士が一人。
何度も剣を振っている。
何度も。
何度も。
何度も。
怒りをぶつけるように。
迷いを振り払うように。
「私は間違っていない」
剣を振るう。
だがその言葉は、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
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宿。
俺は肩の治療を受けながら天井を見ていた。
痛い。
だけど。
痛いのは肩だけじゃなかった。
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頭の中で。
ルミアが珍しく静かだった。
そして、ぽつりと言う。
『仲良かったんですけどね』
「……うるさい」
『仲直りできますかね』
「知らん」
『肩、大丈夫ですか?』
「ああ」
『あのー…また機能アプデしたんですけど……』
『今じゃないですよねぇ…』
「ああ」
本当に。
知らなかった。
俺も。
ステューも。
自分が正しいと思っていた。
だから。
一番厄介だった。




