【金策】効率の良い薬草採取をやってみた【初心者向け】
『どうも、異世界攻略チャンネルです』
画面が切り替わる。
朝の森だった。
木々の隙間から差し込む柔らかな日差し。葉の上には朝露が残り、風が吹くたびに鳥のさえずりが聞こえてくる。
そして画面の中央には、不機嫌そうな顔をした猫耳の少女が映っていた。
銀髪。
猫耳。
腰の後ろでは尻尾がゆっくり揺れている。
『今回は薬草採取回です』
俺の声が続く。
『モンスター討伐ばかりが冒険者ではありません』
『むしろ新人の収入源としては薬草採取の方が優秀だったりします』
『安全』
『安心』
『儲かる』
『初心者向け三拍子です』
「最後だけ怪しいな」
画面の端でステューが呟いた。
今回の撮影クルー兼ゲストである。
『今回はステューさんにも手伝ってもらいます』
「なんで急に敬語なんだ」
『動画だからな』
「普段からそうしろ」
『検討しておく』
「絶対しないだろ」
画面が切り替わる。
そこには一面の草原が広がっていた。
本当に草しかない。
どこを見ても緑色だ。
『さて問題です』
『この中で薬草はどれでしょう』
カメラがゆっくり周囲を映す。
似たような草ばかりだった。
「分かるかこんなの」
ステューが即答した。
『普通はそうです』
『俺も最初はそうでした』
『ですが』
映像が停止する。
一株の草が拡大された。
『葉脈を見てください』
『薬草は三本』
『雑草は四本』
『さらに茎の色』
『葉の裏側』
『朝露の付き方』
『この辺りを覚えると見分けられます』
「待て」
ステューが眉をひそめる。
「それを見分けろって?」
『慣れると一発だ』
「嘘だろ」
『本当だ』
「嘘だろ」
『本当だって』
半信半疑のまま採取が始まった。
最初のうちはステューも苦戦していた。
しゃがみ込み、草を持ち上げては首を傾げる。
違う。
また違う。
さらに違う。
そのたびに猫耳がしょんぼりと垂れる。
だが十分ほど経った頃だった。
「……あった」
ステューが一本の草を摘み上げる。
『正解』
「おお」
『初回で見つけるのは優秀だな』
「そうだろう」
猫耳がぴこっと動いた。
分かりやすい。
さらに十分後。
「また見つけた」
ぴこっ。
「こっちにもある」
ぴこっ。
「なんか見えるようになってきた」
ぴこぴこっ。
『耳で感情全部分かるな』
「うるさい」
その後は採取のペースが一気に上がった。
ステューは森の中を歩き回りながら次々と薬草を見つけていく。
見つける。
しゃがむ。
摘む。
袋へ入れる。
また見つける。
摘む。
袋へ入れる。
その繰り返しだ。
気付けば腰袋はかなり膨らんでいた。
「結構採れたな」
『新人の日当くらいにはなる』
「マジか」
『マジだ』
「薬草ってそんなに儲かるのか」
『需要があるからな』
『怪我人は毎日出るし、回復薬も毎日使われる』
『地味だけど安定した仕事だ』
「冒険者ってもっと夢のある職業だと思ってた」
『夢だけで飯は食えない』
「現実的すぎるだろ」
そこでステューがふと自分の手を見た。
薬草の汁が付着している。
「……ん」
手を鼻に近付ける。
くん。
「臭い」
さらにもう一度。
くんくん。
「めちゃくちゃ草の臭いする」
『薬草だからな』
「いや分かるけど」
また嗅ぐ。
くんくん。
「なんか癖になるなこれ」
『猫かお前』
「獣人だ」
『そういう話じゃない』
ステューはしばらく真顔で自分の手を嗅いでいた。
その様子が妙に面白かったので、俺はしっかり撮影しておいた。
その時だった。
ガサッ。
茂みが揺れる。
俺は即座にカメラを向けた。
緑色の肌。
錆びた短剣。
ゴブリンだった。
しかも三匹。
『遭遇しました』
「新人なら逃げる数だな」
「そうなのか?」
「そうだ」
ゴブリンたちは獲物を見つけたとばかりに突進してくる。
だがステューは焦らなかった。
ゆっくりと剣を抜く。
「右足」
『ん?』
「踏み込みが右足だろ」
ゴブリンが短剣を振り上げる。
途中で軌道を変える。
横薙ぎ。
フェイントだ。
だがステューは半歩だけ下がった。
攻撃は空を切る。
「動画で見た」
次の瞬間。
銀色の軌跡が走る。
ゴブリンの首が飛んだ。
一匹目撃破。
続く二匹が飛びかかる。
「棍棒持ちは踏み込みが深い」
回避。
空振り。
斬る。
終わり。
もう一匹。
「左から来る」
避ける。
斬る。
終わり。
十秒も掛からなかった。
三匹とも地面に転がっている。
『おおー』
「なんだその反応」
『ちゃんと攻略動画活用してるじゃないか』
「……まあ」
少しだけ照れたように視線を逸らす。
「役には立った」
猫耳がぴこっと動いた。
また動いた。
『右足を見る癖ついてるな』
「何回も見せられたからな」
『成果が出て何よりだ』
「褒めてるのか?」
『褒めてる』
「そうか」
耳がまた動いた。
夕方。
採取は終了した。
袋の中には大量の薬草。
依頼達成。
ついでにゴブリン討伐も達成。
収入は予想以上だった。
『結果です』
画面には採取量が表示される。
『通常新人比約三倍』
『知識があるだけで収入は大きく変わります』
『無理に危険な依頼へ行く前に』
『まずは生き残るための知識を身につけましょう』
そこでステューがぽつりと呟いた。
「なあ」
「なんだ」
「冒険者って命懸けで戦う仕事じゃないのか?」
「そうだな」
「薬草採取の方が稼げてないか?」
しばし沈黙。
『気付いてしまったか』
「夢がない」
『現実だ』
エンディング映像が流れる。
夕暮れの森。
大量の薬草を背負うステュー。
風に銀髪が揺れる。
猫耳も揺れる。
『以上、異世界攻略チャンネルでした』
『皆さんのご視聴が、観測の女神ルミア様の力になります』
『お気に入り登録とご入信、よろしくお願いします』
そこで動画は終わる。
だが撮影自体はまだ終わっていなかった。
カメラを下ろした後。
ステューが少しだけ言いづらそうに口を開く。
「なあ」
「なんだ」
「今の私、ちゃんと役に立ってたか?」
普段の強気な態度とは違う。
少しだけ不安そうだった。
俺は即答する。
「薬草より映ってた」
「は?」
「動画的には大当たりだ」
「意味が分からん」
猫耳がぴこっ。
ぴこっ。
ぴこぴこっ。
本当に分かりやすい。
その時のステューはまだ知らない。
この動画が公開された後。
ギルドの攻略聖書の前に、
妙に猫耳の少女目当ての視聴者が増え始めることを。
そして。
それが後に、
異世界攻略チャンネルの一つの看板企画になることを。
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




