表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/37

【金策】効率の良い薬草採取をやってみた【初心者向け】

『どうも、異世界攻略チャンネルです』


画面が切り替わる。


朝の森だった。


木々の隙間から差し込む柔らかな日差し。葉の上には朝露が残り、風が吹くたびに鳥のさえずりが聞こえてくる。


そして画面の中央には、不機嫌そうな顔をした猫耳の少女が映っていた。


銀髪。


猫耳。


腰の後ろでは尻尾がゆっくり揺れている。


『今回は薬草採取回です』


俺の声が続く。


『モンスター討伐ばかりが冒険者ではありません』


『むしろ新人の収入源としては薬草採取の方が優秀だったりします』


『安全』


『安心』


『儲かる』


『初心者向け三拍子です』


「最後だけ怪しいな」


画面の端でステューが呟いた。


今回の撮影クルー兼ゲストである。


『今回はステューさんにも手伝ってもらいます』


「なんで急に敬語なんだ」


『動画だからな』


「普段からそうしろ」


『検討しておく』


「絶対しないだろ」


画面が切り替わる。


そこには一面の草原が広がっていた。


本当に草しかない。


どこを見ても緑色だ。


『さて問題です』


『この中で薬草はどれでしょう』


カメラがゆっくり周囲を映す。


似たような草ばかりだった。


「分かるかこんなの」


ステューが即答した。


『普通はそうです』


『俺も最初はそうでした』


『ですが』


映像が停止する。


一株の草が拡大された。


『葉脈を見てください』


『薬草は三本』


『雑草は四本』


『さらに茎の色』


『葉の裏側』


『朝露の付き方』


『この辺りを覚えると見分けられます』


「待て」


ステューが眉をひそめる。


「それを見分けろって?」


『慣れると一発だ』


「嘘だろ」


『本当だ』


「嘘だろ」


『本当だって』


半信半疑のまま採取が始まった。


最初のうちはステューも苦戦していた。


しゃがみ込み、草を持ち上げては首を傾げる。


違う。


また違う。


さらに違う。


そのたびに猫耳がしょんぼりと垂れる。


だが十分ほど経った頃だった。


「……あった」


ステューが一本の草を摘み上げる。


『正解』


「おお」


『初回で見つけるのは優秀だな』


「そうだろう」


猫耳がぴこっと動いた。


分かりやすい。


さらに十分後。


「また見つけた」


ぴこっ。


「こっちにもある」


ぴこっ。


「なんか見えるようになってきた」


ぴこぴこっ。


『耳で感情全部分かるな』


「うるさい」


その後は採取のペースが一気に上がった。


ステューは森の中を歩き回りながら次々と薬草を見つけていく。


見つける。


しゃがむ。


摘む。


袋へ入れる。


また見つける。


摘む。


袋へ入れる。


その繰り返しだ。


気付けば腰袋はかなり膨らんでいた。


「結構採れたな」


『新人の日当くらいにはなる』


「マジか」


『マジだ』


「薬草ってそんなに儲かるのか」


『需要があるからな』


『怪我人は毎日出るし、回復薬も毎日使われる』


『地味だけど安定した仕事だ』


「冒険者ってもっと夢のある職業だと思ってた」


『夢だけで飯は食えない』


「現実的すぎるだろ」


そこでステューがふと自分の手を見た。


薬草の汁が付着している。


「……ん」


手を鼻に近付ける。


くん。


「臭い」


さらにもう一度。


くんくん。


「めちゃくちゃ草の臭いする」


『薬草だからな』


「いや分かるけど」


また嗅ぐ。


くんくん。


「なんか癖になるなこれ」


『猫かお前』


「獣人だ」


『そういう話じゃない』


ステューはしばらく真顔で自分の手を嗅いでいた。


その様子が妙に面白かったので、俺はしっかり撮影しておいた。


その時だった。


ガサッ。


茂みが揺れる。


俺は即座にカメラを向けた。


緑色の肌。


錆びた短剣。


ゴブリンだった。


しかも三匹。


『遭遇しました』


「新人なら逃げる数だな」


「そうなのか?」


「そうだ」


ゴブリンたちは獲物を見つけたとばかりに突進してくる。


だがステューは焦らなかった。


ゆっくりと剣を抜く。


「右足」


『ん?』


「踏み込みが右足だろ」


ゴブリンが短剣を振り上げる。


途中で軌道を変える。


横薙ぎ。


フェイントだ。


だがステューは半歩だけ下がった。


攻撃は空を切る。


「動画で見た」


次の瞬間。


銀色の軌跡が走る。


ゴブリンの首が飛んだ。


一匹目撃破。


続く二匹が飛びかかる。


「棍棒持ちは踏み込みが深い」


回避。


空振り。


斬る。


終わり。


もう一匹。


「左から来る」


避ける。


斬る。


終わり。


十秒も掛からなかった。


三匹とも地面に転がっている。


『おおー』


「なんだその反応」


『ちゃんと攻略動画活用してるじゃないか』


「……まあ」


少しだけ照れたように視線を逸らす。


「役には立った」


猫耳がぴこっと動いた。


また動いた。


『右足を見る癖ついてるな』


「何回も見せられたからな」


『成果が出て何よりだ』


「褒めてるのか?」


『褒めてる』


「そうか」


耳がまた動いた。


夕方。


採取は終了した。


袋の中には大量の薬草。


依頼達成。


ついでにゴブリン討伐も達成。


収入は予想以上だった。


『結果です』


画面には採取量が表示される。


『通常新人比約三倍』


『知識があるだけで収入は大きく変わります』


『無理に危険な依頼へ行く前に』


『まずは生き残るための知識を身につけましょう』


そこでステューがぽつりと呟いた。


「なあ」


「なんだ」


「冒険者って命懸けで戦う仕事じゃないのか?」


「そうだな」


「薬草採取の方が稼げてないか?」


しばし沈黙。


『気付いてしまったか』


「夢がない」


『現実だ』


エンディング映像が流れる。


夕暮れの森。


大量の薬草を背負うステュー。


風に銀髪が揺れる。


猫耳も揺れる。


『以上、異世界攻略チャンネルでした』


『皆さんのご視聴が、観測の女神ルミア様の力になります』


『お気に入り登録とご入信、よろしくお願いします』


そこで動画は終わる。


だが撮影自体はまだ終わっていなかった。


カメラを下ろした後。


ステューが少しだけ言いづらそうに口を開く。


「なあ」


「なんだ」


「今の私、ちゃんと役に立ってたか?」


普段の強気な態度とは違う。


少しだけ不安そうだった。


俺は即答する。


「薬草より映ってた」


「は?」


「動画的には大当たりだ」


「意味が分からん」


猫耳がぴこっ。


ぴこっ。


ぴこぴこっ。


本当に分かりやすい。


その時のステューはまだ知らない。


この動画が公開された後。


ギルドの攻略聖書の前に、


妙に猫耳の少女目当ての視聴者が増え始めることを。


そして。


それが後に、


異世界攻略チャンネルの一つの看板企画になることを。

面白かったら評価・ブクマお願いします。


ルミア『ご入信もお待ちしております』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ