表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/36

猫姫。をプロデュース

「猫姫はやめとけ」


ギルドを出た直後だった。


沼地で一緒だった槍使いが、真顔でそう言った。


「なんで?」


俺の隣では当の本人が耳をぴくぴく動かしている。


「強いぞ」


「うん」


「人柄も悪くない。真面目過ぎる部分はあるが…」


「うん」


「顔もいいぞ」


「うん」


「でも組みたくない」


「なんでだよ」


槍使いは遠い目をした。


「お前、前衛やったことあるか?」


「時間稼ぎで延々と避けるだけの囮を前衛と呼ぶのなら」


「やっぱお前、変だし、割と苦労してそうだよな」


閑話休題。


「猫姫は少しでも誰かが怪我をすると飛んでくる」


「ほう」


「敵陣でも飛んでくる」


「ん?」


「頼んでもないのに庇う」


「はあ」


「その結果、隊列が崩壊する」


「あー……」


なるほど。


猫じゃらしに飛びつく猫みたいなもんか?


ステューが不機嫌そうに口を尖らせる。


「だって危ないだろ」


「いらんことするから、危なくなるんだよ」


「意味分からん」


「それを皆言ってるんだ」


槍使いは肩をすくめた。


「ま、後は自分で見ろ」


そう言って去っていく。


俺は隣の猫耳を見る。


銀髪。


猫耳。


尻尾。


スタイル良し。


顔良し。


絵になる。


動画映えする。


非常にする。


「……」


「なんだ」


「いや」


これは伸びるな。


「なんだその顔」


「いや別に」


俺は視線を逸らした。


撮影クルー兼出役。


確保したい。非常に。


---


数日後。


俺たちはダンジョンへ来ていた。


Cランクになって、俺も堂々とダンジョンに来れるようになった。


これまでは、他の高ランクメンバーの陰に隠れて、鉱石堀りでしか来たことがなかったんだよな。


まあとはいっても、今回の目的も攻略ではない。


ステューの検証である。


「今日は検証がメインだからな」


「検証?」


ステューが首を傾げる。


「お前の欠点を探す」


「は?」


即座に睨まれた。


怖い。


「いや、悪口じゃなくて」


「十分悪口だろ」


「違う違う」


俺は魔導カメラを掲げる。


「原因究明」


「……」


「もし本当に問題があるなら直せる」


「……」


「無いなら無いで証明できる」


少しだけ。


ステューの表情が柔らかくなった。


「分かった」


素直だった。


「それに一度動画に映ってみたかったんだ」


根は本当に良い奴のようだ。


---


戦闘はすぐ始まった。


ゴブリン数体。


難しい相手じゃない。


盾役が前へ出て、槍使いが牽制、そして後衛が魔法。


スタンダードな布陣だ。


俺はさらに後方で撮影。


鉄壁の布陣だ。


そして、問題はすぐ起きた。


「うおっ!」


前衛が少し押される。


本当に少しだけ。


その瞬間。


「危ない!」


ステューが飛び出した。


速い。


とんでもなく速い。


斬撃。


一閃。


ゴブリンが吹き飛ぶ。


強い。


めちゃくちゃ強い。


だが、


「あっ」


隊列が崩れた。


前衛が押し出される。


槍使いの攻撃線が塞がる。


後衛が慌てる。


別のゴブリンが横へ流れる。


戦場が一気に混乱した。


---


十分後。


戦闘終了。


怪我人なし。


だが。


全員疲れていた。


「……なんでこうなるんだろうな」


槍使いが呟く。


「私が倒したぞ」


「それはそう」


「被害も無かった」


「それもそう」


「じゃあ問題なくないか?」


「あるんだよなぁ……」


皆が頭を抱えていた。


「トールこれで分かったか、無駄に気高く、近づくとケガするからみんな遠巻きになって、


猫姫が生まれたってわけだ」


---


ギルドへ戻り、俺は映像を再生した。


空中へ戦闘記録が浮かぶ。


ステューも隣で見ている。


最初は余裕そうだった。


「ほら見ろ」


「うん」


「ちゃんと倒してる」


「うん」


俺は映像を止めた。


「ここ」


「?」


前衛が押された場面。


「ここは私の判断力が光った場面だった、颯爽と皆を護る騎士のようだったな」


「いや」


俺は拡大する。


「これは盾で受けられる」


「……あ」


再生。


ステュー突撃。


前衛が押し出される。


停止。


「ここ」


再生。


槍使いが位置修正。


停止。


「ここ」


再生。


後衛が詠唱中断。


停止。


「ここ」


再生。


ゴブリンが横へ流れる。


停止。


「ここ」


「……」


「……」


だんだん顔色が悪くなるステュー。


「……全部私か?」


「全部お前だな」


---


沈黙。


猫耳がしょんぼり垂れている。


尻尾もへにゃへにゃだ。


なんちゅう分かりやすい奴。


---


まあ、そんなでも良いところはあった。


「でも」


俺は続けた。


映像を戻し、斬撃の場面を映す。


「剣は凄いぞ」


「……え?」


「これ」


スロー再生。


踏み込み。


体重移動。


斬り返し。


素人目にもわかるほど全てが綺麗だった。


「普通にはできるもんじゃない」


「そうなのか?」


「俺には分からんけど」


槍使いが頷く。


「できねぇな」


盾役も頷く。


「できねぇ」


魔法使いも頷く。


「できません」


ステューが少し固まる。


「そ、そうか?」


褒められ慣れていない顔だった。


猫耳がぴこっ。


ぴこっ。


ぴこぴこぴこっ。


忙しい。


感情が隠し切れていない。


---


「つまり」


俺は結論を出した。


「お前が弱いんじゃない」


「……」


「強すぎて全部自分で解決しようとしてる、味方を舐めすぎだ」


「……」


「だから周りと噛み合わない」


ステューは黙り込んだ。


しばらく。


本当にしばらく。


黙っていた。


そして、ぽつりと呟く。


「……初めて言われた」


「何が?」


「弱いから嫌われてるんじゃないって」


沈黙。


あー。


なるほど。


俺は少しだけ考える。


そして、三角の猫耳を見る。


流れる銀髪。


圧倒的実力派。


でもあまりある不器用。


これは動画映えする。


成長余地あり。


めちゃくちゃある。


完全に原石だ。


「よし」


「?」


「採用だ」


「は?」


「ステュー」


俺は魔導カメラを構えた。


「お前をプロデュースする」


「は???」


頭の中で。


ルミアが爆笑していた。


『始まりましたね』


『猫姫。をプロデュースです』


『これは伸びますよぉ』


この駄女神、ドラマの配信サイトとか見始めただろ。


---


ステューリア・グランは。


人生で初めて、


自分の欠点を理解した。


そして、人生で初めて、


面倒な男に目を付けられたのである。

面白かったら評価・ブクマお願いします。


ルミア『ご入信もお待ちしております』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ