もう絶対に怒られるって時は神妙な顔して、素直な態度で座ってろ
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
撮影終了。
俺は魔導カメラを下す、後ろではまだ沼地が燃えていた。
煙。
焦げ臭い匂い。
ところどころ上がる小さな火柱。
そして、元・沼地。
「……」
「……」
「……」
誰も喋らなかった。
気まずい。
とても気まずい。
『まあ』
ルミアが言う。
『動画的には大成功ですね』
「成功って言うな」
『サムネ映えは満点です』
「俺もそう思う…」
---
結局、その日は周辺の安全確認だけして撤収することになった。
魔物はほぼ壊滅。
地形は激変。
これだけ変わってしまったらもう元には戻らないだろう。
これは俺たちだけで判断できる案件じゃない。
ギルド報告待ちである。
帰り道。
パーティーメンバーたちは妙に静かだった。
「なあ」
槍使いが呟く。
「俺ら怒られるかな?」
「怒られるだろうな」
「出禁とか?」
「ありえる」
「賠償とか?」
「やめろ怖い」
火魔法使いの少女が半泣きになっていた。
『まあでも』
ルミアが言う。
『死傷者ゼロですし』
「そこだけが救いだな……」
---
翌日、ギルドに帰還する。
扉を開けた瞬間だった。
「あ」
受付嬢と目が合った。
「トールさん」
「はい」
「ギルドマスターがお呼びです」
逃げる間もなかった。
「あー……」
来た。
完全に来た。
『終わりましたね』
「終わったな」
『短い人生でした』
「それは本当にお前が言うな」
---
ギルドマスター室。
重い扉。
重い空気。
重い沈黙。
机の向こうにはギルドマスター。
そして。
見知らぬ男が二人、どことなく商人のような雰囲気を纏っている。
もしかして賠償のカタに奴隷として売られる??
「座れ」
「はい」
怒られる時の席だこれ。
間違いない。
俺は素直に座った。
パーティーメンバーも全員青い顔だった。
---
しばらく沈黙。
そして。
ギルドマスターが口を開く。
「まず確認する」
「はい」
「お前らが沼地を吹き飛ばしたのか」
「いやーあれは吹き飛ばしたと言いますか…」
「どうなんだ」
「はい、やりました」
「意図的か?」
「……途中からは」
「正直でよろしい」
怖い。
---
さらに沈黙。
そして。
ギルドマスターが深くため息を吐いた。
「……調査隊を出した」
「はい」
「結果から言う」
俺たちは固唾を飲む。
「かねてよりの懸案事項だった交易路の問題が解決できそうだ」
「は?」
「交易路がつながった」
「はい?」
思わず聞き返した。どういう話?
---
商人の一人が地図を広げる。
「こちらをご覧ください」
沼地。
街道。
迂回路。
そして。
新しい最短経路。
「いやーこの沼地が懸念事項でございました」
商人が言う。
「この邪魔な場所のせいで、馬車は5日ほど遠回りしておりました」
「5日も?」
「はい、そうでございます」
「だから国も何とかしたかったというわけだ」
ギルマスが苦々しい表情で吐き出すように言った。
しかし。
悪路に次ぐ悪路。
魔物多数。
安定して攻略できる高レベル冒険者を使ったにしても時間はかかる。
しかも、高い。
そんなこんなで、クエストは長年放置され、国からは圧力がかかる。
ギルマスは一人で胃を痛めていたというわけだ。
それが。
「なくなった」
「なくなった……」
「なくなった」
もう一度言われた。
---
「いやでも」
俺は恐る恐る言う。
「環境破壊ですよ?」
「元々どうにかしたかった」
「沼地ですよ?」
「どうにかしたかった」
「大爆発ですよ?」
「どうにかしたかった」
押し切られた。
---
ギルドマスターが額を押さえる。
「怒りたい」
「はい」
「本当に怒りたい」
「はい」
「だが功績がデカすぎる」
「はい?」
「なんでそうなる」
「俺も知りたい」
本当にどういうことだ。
---
最終的な結論はこうだった。
危険地帯を攻略。
魔物大量討伐。
交易路の安全を確保し、しかも新規交易ルートの開拓。
都市、および王国への貢献が目覚ましい。
これらを総合して。
「トール」
「はい」
「お前をCランクへ昇格させる」
一瞬。
何を言われたのか理解できなかった。
「……え?」
「昇格だ」
「え?」
「二回言わせるな」
「それとパーティーメンバーの中でCになってないやつらも全員昇格」
---
さらに。
金貨の入った袋が机へ置かれる。
重い。
嫌な予感がするくらい重い。
「報奨金だ」
「え」
「受け取れ」
「え」
「受け取れ」
「はい」
震える手で受け取った。
重かった。
人生で見たことない重さだった。
---
『トールさん』
「なんだ」
『初ボーナスですね』
「まあそうだな」
『前の世界ではロクに働いてなかったトールさんに、初ボーナス』
「やめろ」
---
その時だった。
部屋の外から声が聞こえた。
「待て待て待て待て!!」
勢いよく扉が開く。
猫耳。
銀髪。
剣士。
そして。
妙に整った顔立ち。
俺は知らない。
だが。
向こうは俺を知っている顔だった。
「お前がトールか!?」
「はぁ」
「攻略動画の奴だな!?」
「まぁ」
「私を撮影クルーにしろ!!」
「はい?」
沈黙。
部屋全体が静まり返る。
俺は猫耳を見た。
猫耳は俺を見た。
そして。
頭の中で。
『来ましたね』
ルミアが楽しそうに笑った。
『サブヒロイン候補です』
『もちろんメインは私です』
「お前あとで表出ろ」
面白かったら評価・ブクマお願いします。
ルミア『ご入信もお待ちしております』




