異世界モノの導入はやっぱり白い部屋
山の中でUMAを撮ろうとしたら、謎の美女を盗撮してから意識がない。
どうも、僕です。――いや、現実逃避してる場合じゃないか。
絶世の美女に撮影しているとこを気づかれたところまでは覚えてるんだけどなあ。
気づいたら真っ白い部屋で、頭の中に声が響いている。
「変態えっちスケベ盗撮魔よ、そろそろ思考が回復してきましたか?」
「まあ、結果そうなんですが、もう少し手心加えてくれませんか?」
「いいでしょう、透よ。事情は、その~まあ、私の上席から聞いております。
盗撮したというより、半ば私が撮影してるところに割って出てしまったということ、
もともと盗み見る気なんてなかったことは理解しました…」
どうやらの声の主は、あの美女のようだ。
「ああ、まあ悪気がなかったことが分かってもらえればいいんですよ。
ところでここはどこですか?あなたは誰?」
白い部屋の中に光が集まってくる。
光の中からあの時の女性が現れる。
目の前に降臨したのは、絵画から抜け出してきたようなあのときの絶世の美女。
光を反射してキラキラ輝く金髪と、雪のように白い肌が眩しい。
ミニ丈の聖衣から伸びる太ももは、神々しいという言葉すら生ぬるい。
「ここは神界、私はあなた方が言うところの神という存在に該当します。
名前はルミア、観測をつかさどる女神ルミアよ」
「女神さまですか。道理で綺麗なわけだ。それでなんで俺が神界に?」
「ええっと、それはその~ですね、まあなんといいますか…」
「はい」
「ごにょごにょ」
「え?ちょっと声が小さくて…」
「あのーですから!私が天罰でバンッと殺しちゃいました!」
「はああーーー??!!何言ってんの?殺した?死後の世界ってこと?ここが??」
「まあ平たく言うとそうですね、テヘ!ペロ!!」
「可愛い!じゃなくて!…さっきこっちに悪気はないことは理解いただけてましたよね?」
「ええ、ええ、すごーく理解していますよ。
それはもう深く深く上席にめちゃくちゃ怒られながら、理解させられましたもの」
「じゃあなんで…」
「まあなんというか、覗かれた怒りと恥ずかしさでサクッとヤッてしまった後で、
上席にこっぴどくそれはもうこっぴどく怒られたから理解しているのであって、
お前はもう死んでいた!というかそんな感じでなんです。」
そんな、もうちょっと、世紀末的な雑魚でも長生きしてるやろ…
「あ、俺死んだんだ」
謎の実感がわいてきた。
いや、ちょっと待て、今死んだら、実家にある俺のPCや、
(断じて!断じて研究目的での購入ではあるが、)R18なゲームちゃんたちが、
実家で御開帳されるってこと?待て待て待て、ヤバいヤバい ———
「まあ終わったことを、くよくよ気にせずに次いきましょ次!」
「次ってどういうこと!?こっちはそれどころじゃ」
「まあまあまあ落ち着いて、今回透さんが死んだのはイレギュラーケースでして、
神側にも過失があるということでですね、特別救済措置が施されることになりました」
ドンドンパフパフ!
SEつけながら女神が胡散臭いことを言っている。
黙っていれば———
「そこ!黙っていれば、絶世の美人、絶対に入信したい、末代まで讃えますじゃないのよ!」
「そこまで思ってないし、思考読まないでくださいよ!こっちは結構ピンチなんですよ…」
「まあまあ、そこのお兄さん、救済措置なんですよ特別ですよ。
このままだったらただ死んだだけ、救済措置を受けたらなんと生き返れますよ。
ちょっと話だけでも聞いていってちょーだい」
「尋常じゃない胡散臭さどうにかなりません?でも生き返れるって言いましたか?」
「そうそう今ならなんと、(私の使徒になって)ちょっと労働をしてもらえれば、その対価に生き返ることができます」
「ん?途中声が小さくて…」
「まあまあ要するに私の出すお願いをかなえてくれたら、その対価に復活させてあげるってことよ」
「…その、お願いってなんですか?」
---
「それは——————」
ルミアが指を鳴らす。
パチン、という軽い音と共に、真っ白だった空間に映像が浮かび上がった。
そこに映っていたのは、実際に見たことはないが見覚えのある世界だった。
石造りの街。
空を飛ぶ巨大な鳥。
剣と魔法。
ファンタジー映画でしか見たことがないような景色。
「異世界……?」
「そう!いわゆる異世界転生ってやつですね!」
ルミアが妙にノリノリで両手を広げる。
「いやそんな軽い感じで言われても」
「まあまあ、近年かなり人気のプランですよ?」
「サブスクみたいに言うな」
俺のツッコミを流しながら、ルミアは空中の映像を操作する。
すると今度は、神々しい男女の姿が大量に浮かび上がった。
鎧姿。
豊穣を司りそうなおばちゃん。
筋肉ムキムキの戦神。
やたら露出の多い芸術神っぽい人。
「まず前提として、あちらの世界にはたくさんの神がいます」
「へえ」
「人々はそれぞれ神を信仰し、祈り、その対価として加護や奇跡を得ています」
「推し活みたいなもんか」
「推し活です」
即答だった。
「軽いな神様」
「重苦しい宗教は最近流行らないんですよ。時代は親しみやすさです」
なんか妙に現代的だな神界。
ルミアは胸を張る。
「そして神という存在は、信仰によって力を得ます」
「ふむ」
「信仰されればされるほど、神としての権能は強化されます。逆に信仰を失えば弱体化します」
「なるほど」
「つまり!」
ビシッと俺を指差すルミア。
「透さんには異世界へ転生して、私への信仰を増やしてもらいます!」
「……はい?」
「信仰獲得ミッションです!」
ドンドンパフパフ!
またSE付きだ。
絶対この人、神界で浮いてる。
「いや待ってください。なんで俺が」
「だって困ってるんですもん」
「即答だな」
ルミアはふてくされたように頬を膨らませた。
「観測って地味なんですよ」
「はあ」
「戦神なら戦争で信者増えます。農業神なら豊作で増えます。商業神なら景気が良ければ増えます」
「なるほど」
「でも観測って、直接お腹膨れませんし、敵も倒せませんし、派手な奇跡も少ないんですよ」
「まあ確かに地味かも」
「星を見て『綺麗ですねぇ』って言っても、普通は信者増えないんです!」
「悲しいこと言うなよ自分で」
ルミアはテーブルもない空間をバンバン叩く動きをした。
「でも観測は大事なんですよ!?文明発展には必要なんですよ!?新発見とか超大事なんですよ!?」
うわぁ。
なんかこの感じ。
売れない検証系配信者が“検証文化”の大切さを語ってる時と完全に同じだ。
妙な親近感がある。
「それに私はマイナー寄りですし、信徒数もそこまで多くありませんから……」
「神にも格差あるんだな……」
「ありますよぉ。超あります」
ルミアは遠い目をした。
「上位神なんて国単位で信仰されてますし、神殿の規模も違いますし、毎年莫大な奉納入ってますし」
「生々しいな」
「私は地方に小さい神殿がちょこちょこあるくらいです」
弱小個人勢みたいなこと言い始めた。
「だから!」
ルミアが勢いよくこちらを指差す。
「透さんには異世界へ転生してもらい!(私の使徒として)信仰を増やしてもらいます!」
「……それで、生き返れると」
「はい!」
ルミアが満面の笑みで頷く。
「神は信仰によって力を得ます。
そして十分な力があれば、死者蘇生レベルの奇跡も可能になります!
まあ今回は死者蘇生というより、あの時のタイミングに時を戻すというか、
諸々なかったことにする系の奇跡になりますが」
「マジか……!」
脳裏に浮かぶ。
実家の俺の部屋。
PC。
ブラウザ履歴。
Steamライブラリ。
隠しフォルダ。
断じて研究目的のゲームたち。
「やる」
「即答ですね」
「戻れるならやる」
「透さん俗っぽいですねぇ」
「お前にだけは言われたくない」
ルミアはケラケラ笑いながら、今度は一冊の本のようなものを取り出した。
「それと転生特典ですね!」
「おっ」
「異世界へ転生する際、人の魂には”特別”なスキルが刻まれます」
「特別なスキル」
「生前の経験、才能、執着、性格。そういったものが変換され、力になるんです」
「へぇ」
「なので武道とかやってた人はバトル系、職人は生産系、学者は知識とか魔法系のスキルなりやすいですね」
「なるほど」
「あと人格も結構反映されます」
「嫌な予感しかしないんだが」
ルミアがニコニコしながら本を開く。
「透さんの場合、かなり“観測”と“撮影”に偏ってましたからねぇ」
嫌な予感が加速した。
「透さんに与えられるスキルは————」
---
「主上、私にも信者が1名できました。これで神格剥奪の件はなしですよね?」
「ルミアよ、さすがに、やり口がグレーゾーン過ぎないか?天罰で殺しとるし…」
「いやあれは事故といいますか、殺すつもりどころか、覗かれるつもりもなかったんですよ?
たしかに私と相性のいい魂の形をした人をおびき寄せるため、噂は蒔きましたけど……
あんなに気配が薄い人が来るなんて思わなくて、油断してたらつい…
神罰の件が無かったら誠心誠意説得するつもりだったんですぅー!」
「…まあ経緯はどうあれ、彼もやる気になっておるようだし、今回は見なかったこととしようか」
「本当?やったー!やっぱりおじいちゃん大好き!!」
「反省しとるんかこいつは……」
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




