【第一部完】旅立ちの日に、今別れの時
その日の夜。
ギルド併設酒場は、いつも以上に騒がしかった。
「討伐成功だぁぁぁ!!」
「飲め飲め!!」
「若葉の風の仇討ちだ!!」
木ジョッキがぶつかる。
酒が飛ぶ。
肉の匂い。
笑い声。
歓声。
完全に宴だった。
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「トール!!こっち来い!!」
「うおっ」
ベテラン冒険者に肩を組まれる。
酒臭い。
近い。
痛い。
「新人のくせに無茶苦茶やりやがって!!」
「死ぬかと思いましたよほんと……」
「ははは!!死んでねぇから勝ちだ!!」
異世界の価値観が雑。
でも。
今日は少しだけ、その雑さがありがたかった。
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テーブルには。
トマ。
リズ。
ミーシャ。
若葉の風の三人もいた。
怪我だらけ。
疲労も濃い。
それでも。
全員、生きている。
それだけで十分だった。
「……乾杯」
トマが小さく言う。
「レオに」
ミーシャが続ける。
少しだけ静かになる。
俺たちはジョッキを合わせた。
「「「乾杯」」」
酒が喉を通る。
苦い。
でも。
悪くない。
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しばらくは騒がしかった。
討伐時の話。
誰が一番ビビってたか。
誰が一番叫んでたか。
そんな話で笑う。
でも。
時々。
ふっと静かになる瞬間があった。
そのたび。
皆、同じことを思い出しているのが分かった。
空席。
いつもなら。
そこにレオがいた。
「なあトール!」
「ん?」
「お前が“右足だ!!”って叫んでた時、なんか面白かった!」
「必死だったんだよ!!」
「ギルマスまで真似してたぞ!」
「マジかよ……」
笑いが起きる。
でも。
ミーシャが小さく呟いた。
「……レオなら、一番うるさかったんだろうな」
静かになる。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
皆、笑顔のまま黙った。
「あと、ルミア様にも感謝しないとな」
トマがそう言うと、
リズも小さく頷いた。
「……助けてもらった」
ミーシャも静かに胸元で祈る。
「ちゃんと、お礼を言わないとね」
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「……これからの話なんだけど」
トマが口を開いた。
酒場の喧騒の中。
それでも、その声はちゃんと聞こえた。
「僕、街を出ようと思う」
「トマ?」
ミーシャが顔を上げる。
トマは少しだけ困ったように笑った。
「レオ、“勇者を見たい”って言ってたから」
ああ。
そうだった。
子供の頃。
勇者パーティーごっこをしていた。
木の棒を持って。
村の外を冒険して。
いつか本物の勇者みたいになるんだって。
「だから僕、もう少し先を見に行きたい」
トマが杖を握る。
「レオの夢の続きを」
リズがすぐ横で頷いた。
「私も行く」
即答だった。
「……いいのか?」
「トマ、一人だと死ぬ」
「否定できない……」
少しだけ笑いが起きる。
でも。
リズは静かに続けた。
「だから付いていく」
それだけだった。
でも。
それで十分伝わった。
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「ミーシャは?」
俺が聞く。
ミーシャは少しだけ迷って。
そして。
優しく笑った。
「私は残る」
そう言って。
胸元の小さな十字飾りを握った。
「レオのお墓、この街の近くに作ったから」
ああ。
そうか。
「修道院へ入ろうと思うの」
「修道院?」
「うん」
この世界の修道院は、単一神信仰じゃない。
神々は“オラクルネット”を通じて繋がる存在。
だから。
どの神を信じる人間も受け入れる。
少なくともアルスベルグ王国ではそういう考え方らしい。
「そこで、ちゃんと祈ろうと思う」
ミーシャが小さく笑う。
「……レオと一緒に生きていけるように」
誰も茶化さなかった。
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宴が落ち着き始めた頃。
俺はぼんやり酒場を見回していた。
笑ってる奴。
酔いつぶれてる奴。
喧嘩してる奴。
歌ってる奴。
この世界は。
命が軽い。
新人は死ぬ。
森で死ぬ。
ゴブリンに殺される。
それが普通。
でも、今日、俺たちは、その“普通”を一つ攻略した。
「……もっと」
ぽつりと呟く。
「もっと、助けられるかもしれない」
『トールさん?』
「攻略法があれば、生き残れる奴が増える」
巡回。
連携。
毒。
役割。
知らなかったから死んでいた。
なら、知れば、変えられる。
「もっと色んな場所を見たい」
冒険者の街といわれる場所があるという。
この街よりもっと帝国のほうに行った場所。
そこは、ここよりもっと危険な場所で、もっと人が死ぬ場所。
冒険者の仕事が多くある場所なんて、前の世界からしたら危険も危険だ。
でも、そこで、攻略法を作る。
『……』
ルミアが静かだった。
「攻略チャンネル、もっと広げるぞ」
そう言うと、頭の中で。
『はいっ!』
いつもの明るい声が返ってきた。
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翌朝。
ギルド。
「……は?」
俺は目を丸くした。
机の上。
そこに。
分厚い本が置かれていた。
銀色の装丁。
妙に神々しい。
でも。
表紙には。
【観測の女神ルミア公式攻略聖書】
って書いてある。
「だっせぇ」
『第一声それです!?』
ルミアが抗議する。
「というよりなにこれ?どうやって置いたの?」
『っふふーん、私の敬虔なシスターに神託を下し、設置してもらいました』
「神託ってそんな安くていいのか?早速ミーシャが使われてるし」
『喜んでいたからいいんです!』
『そんなことより見てくださいよ、信者四人の信仰力から生み出した最新ガジェット』
「ガジェット……」
『これだけ信仰力あれば、映像共有ハックくらい余裕なんですからね!?』
「ハック……」
つまり。
この本を通して。
俺の記録映像を他人が見られるらしい。
完全に動画共有サイトである。
ページを開いた瞬間、空中に映像が立ち上がる。
「いや待て、これ革命じゃね?」
『私の才能が怖い』
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ギルド内。
幼い顔つきの冒険者たちが聖書を囲んでいた。
新人冒険者であろうか。
映像。
ゴブリンの動き。
巡回。
戦い方。
全部映る。
「……すげぇ」
「これ無料で見ていいのか?」
「右足……本当にフェイント前に動いてる……」
食い入るように見ている。
そして。
動画の最後。
俺の声が流れる。
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『皆さんのご視聴が、女神ルミア様の力になります!』
『お気に入り登録とご入信、よろしくお願いします!』
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映像終了。
沈黙。
そして。
幼い新人冒険者が。
そっと本へ手を置いた。
「……観測の女神ルミア様、どうかお見守りください」
小さな祈り。
ぎこちない信仰。
でも。
確かに。
届いていた。
その少年は木槍を握り。
深呼吸して。
仲間たちと森へ向かう。
前より少しだけ。
生き残れる可能性を増やして。
第一部完了です!
大体第1章はプロローグみたいなものです。
第2章完結まではほぼ書き溜められているのでこのペースで進みます。
まだ出したい設定がほぼ出せてないので頑張ります。
面白かったら評価・ブクマお願いします。
ルミア『ご入信もお待ちしております』




