表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/34

観測神の使徒

ギルドへ戻った時には、もう夕方になっていた。


全身が痛い。


脇腹。


肩。


頬。


服のあちこちに血が滲んでいる。


「うわっ、トールさん!?」


受付のエマさんが悲鳴を上げた。


「どうしたんですかその怪我!?」


「……大丈夫です」


全然大丈夫じゃなかった。


でも。


今はそれより先にやることがある。


「トマたちは?」


「医務室です」


「まだ行こうとしてる?」


エマさんが少しだけ目を伏せる。


「……はい」


やっぱりか。


---


医務室。


扉を開けると。


トマとリズが、もう装備を整えていた。


リズは片目を失った影響か、いつもの弓ではなく二回りほど小さな短弓とナイフを装備している。


ミーシャはベッドへ座ったまま俯いている。


「……トールさん」


トマが驚いた顔をした。


「その怪我……」


「検証してきた」


俺は魔導カメラを机へ置く。


「ゴブリンの攻略法が見えた」


部屋の空気が止まる。


「……本当?」


リズが片目でこちらを見る。


「ああ」


俺は深呼吸した。


「レオがなんで死んだのかも分かった」


トマの肩が震える。


ミーシャが顔を上げる。


「……どういう意味?」


「ゴブリンは偶然強かったんじゃない」


俺はカメラへ触れる。


映像展開。


空中へ光が浮かぶ。


森。


巡回。


運搬。


ゴブリン。


全員が息を呑んだ。


「これ……」


トマが青ざめる。


「映像……?」


「俺の《撮影》スキルだ」


ゴブリンたちが連携して動く。


巡回。


索敵。


鳴き声。


包囲。


そして。


リーダー。


空気が凍る。


「……何これ」


ミーシャの声が震えていた。


「新人狩りだ」


俺は言った。


「こいつら、人間をおびき寄せて殺してる」


沈黙。


リズが映像を睨む。


「……だから囲まれた」


「ああ」


偶然じゃない。


実力不足だけでもない。


構造として殺されていた。


「でも」


俺は映像を切り替える。


巣。


裏口。


死角。


「勝ち筋はある」


---


「……ちょっと待ってください」


エマさんが顔を青くしていた。


「これ、私じゃ判断できません」


そりゃそうだ。


受付嬢の範囲を超えている。


「ギルドマスター呼びます」


---


数分後。


ギルド奥。


会議室。


現れたのは、大柄な男だった。


短い髭。


潰れた鼻。


片腕に古傷。


完全にベテラン。


「……新人が妙なもん持ち込んだって?」


低い声。


威圧感。


『怖そうですぅ……』


ルミアが頭の中で震えていた。


「トールです」


「Dランク未満のガキが、森の異常について話したいと?」


「はい」


男は鼻を鳴らす。


「若葉の風の件だな」


「……はい」


「で?」


鋭い視線。


試されている。


でも。


ここで引くわけにはいかない。


「攻略法を見つけました」


沈黙。


ギルマスが眉を動かした。


「……ほう?」


俺はカメラを起動する。


映像展開。


巡回。


増援。


運搬。


上納。


巣。


裏口。


全部。


部屋が静まり返る。


誰も喋らない。


ギルマスだけが映像を睨んでいた。


「……増援を呼んでやがるのか」


「はい」


「巡回も組織化されてる」


「はい」


「しかも新人を誘い込んでる」


「若葉の風を襲ったのも、多分計画的です」


ギルマスが舌打ちした。


「クソが」


その一言だけで。


この男が何人死んだ新人を見てきたのか分かった。


「放置すると?」


「街道側まで来る可能性あります」


「だろうな」


ギルマスが椅子へ深く座る。


「……観測神の使徒、だったか」


「はい」


「神託か?」


少し迷った。


でも。


ここは。


「観測の女神ルミア様の加護のもと、攻略法を観測しました」


『おお……!』


頭の中でルミアが感動していた。


「……なるほどな」


ギルマスが頷く。


完全には信じてない。


でも。


映像は本物だ。


だから。


無視できない。


「若手を集める」


「!」


「今から作戦会議だ」


---


夜。


ギルド会議室。


若手冒険者たちが集まっていた。


若葉の風に助けられたパーティー。


新人。


Dランク。


十数人。


空気は重い。


「……本当に勝てるのか?」


「また囲まれたら終わりだぞ」


「レオでも死んだんだぞ……」


当然だった。


怖いに決まってる。


だから。


俺は前へ出た。


「観測結果を共有する」


ざわつく空気。


新人が。


しかもEランクが。


前に立っている。


普通なら笑い話だ。


でも。


誰も笑わなかった。


俺はカメラを起動する。


空中へ映像が浮かぶ。


巡回ルート。


索敵方向。


増援。


運搬。


そして。


ゴブリンリーダー。


部屋の空気が変わる。


「……なんだこれ」


「マジで観てきたのか?」


「巣の中だぞ……?」


俺は淡々と説明する。


槍持ち。


棍棒持ち。


役割。


包囲。


増援。


全て。


「ゴブリンは連携して新人を狩っている」


誰も口を挟まない。


「だが」


映像を切り替える。


裏口。


崖。


死角。


「攻略可能だ」


そして。


俺は最後の映像を映した。


ゴブリンリーダーが、運搬班の肉を喰う場面。


「こいつは最初に食う」


静寂。


「毒は用意してある」


ざわめき。


「巡回班を狩るのを手伝ってくれ!それで増援を減らす」


「リーダーは毒で弱らせる」


「正面から俺と」


俺はレオが救った若手パーティーを見る。


「こいつらで陽動を仕掛ける」


「その間に」


映像停止。


裏口。


「トマとリズが後ろから刺す」


トマが目を見開く。


リズが静かに映像を見る。


「これが攻略法だ」


静まり返る部屋。


その時だった。


「……観測神、か」


誰かが呟いた。


笑う者はいない。


もう。


誰も。


トールを、“ただの新人”とは見ていなかった。

面白かったら評価・ブクマお願いします。


ルミア『ご入信もお待ちしております』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ