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ゴブリン攻略検証 2日目

翌朝。


「眠っ……」


ほとんど寝れていなかった。


宿の安ベッド。


硬い枕。


浅い眠り。


何度も夢の中でゴブリンに見つかった。


そのたび飛び起きる。


『目の下すごいですよ』


「うるせぇ……」


頭の中でルミアが心配そうにしている。


珍しい。


「でも、昨日ので一つ分かった」


『巡回ですね!』


「ああ」


森全体を警戒網で覆ってる。


つまり。


「逆に言えば、“役割分担”してる」


昨日、最後の方で気づいた。


巡回個体とは別に。


“何かを運んでる連中”がいた。


『肉、でしたよね』


「ああ」


小動物の死骸。


鳥。


なんか鹿っぽい奴。


そういうのを持って奥へ運んでいた。


「最初は食事かと思ったけど」


『違う?』


「持ち帰ってる量が変なんだよ」


一匹じゃ食い切れない。


しかも。


途中で横取りもしない。


つまり。


「上納」


『……ボス個体』


「多分な」


なら。


やることは決まっていた。


---


朝の市場。


まだ店もまばらだ。


肉屋の前で、俺は端肉を眺めていた。


「おっちゃん、これ安くならない?」


「朝から値切るな兄ちゃん……」


店主が呆れた顔をする。


並んでいるのは、血の残った鳥肉や獣肉の切れ端。


普通の客なら買わないような部分だった。


「これでいいんだよ」


『なんか貧乏飯感ありますね』


「うるさい」


異世界来てから節約スキルばっか伸びてる気がする。


肉屋のおっちゃんが胡散臭そうに聞いてくる。


「兄ちゃん討伐帰りか?」


「いや、ちょっと実験を」


「……変なことに使うなよ?」


「多分大丈夫」


『多分』


不安になる言い方やめろ。


---


森へ向かう前。


俺は少し遠回りして薬草地帯へ寄っていた。


目的は薬草じゃない。


「……あった」


茂みの奥。


紫色の斑点を持つ細長い草。


《痺れ草》。


以前、ギルド資料室で見つけた薬草だ。


ポーション材料にはならない。


代わりに。


『これ、毒草でしたっけ』


「ああ」


正確には麻痺毒。


量次第では魔物の動きを鈍らせるらしい。


初心者冒険者向け資料には、


【取り扱い注意】


と赤字で書かれていた。


『いつの間にそんなの覚えてたんです?』


「薬草拾い舐めんな」


雑草にしか見えない植物を延々探していた成果だ。


観察。


記録。


比較。


気づけば、多少は知識がついていた。


「無駄じゃなかったってことだな」


俺は《撮影》で毒草を記録する。


輪郭が淡く光る。


もう見失わない。


---


昼前。


森。


昨日観察した巡回ルート。


俺は木の上へ身を隠していた。


《隠密》。


発動。


気配を消す。


最近かなり慣れてきた。


そして。


『来ました』


三匹。


昨日見た個体だ。


汚れた布。


粗末な槍。


肩に獣の死骸。


やっぱり運搬班っぽい。


ゴブリンたちは周囲を警戒しながら進んでいる。


巡回組より慎重だ。


「……なるほど」


重要役か。


俺は木の根元へ肉を放り投げる。


ころり、と肉塊が転がる。


ゴブリンたちが止まった。


空気が張る。


一匹が近づく。


臭いを嗅ぐ。


周囲警戒。


もう一匹が森を見る。


最後の一匹が肉を持ち上げる。


『おおっ』


「……持ってった」


予想通り。


しかも。


自分で食わない。


「ビンゴだ」


ゴブリンたちは肉を抱えたまま奥へ進んでいく。


俺は距離を取って追跡した。


---


森の奥。


昨日より深い。


空気が違う。


臭い。


腐臭。


獣臭。


血。


『うわぁ……』


ルミアが引いていた。


木々の間。


そこに。


“巣”があった。


粗末な木柵。


骨。


焚火跡。


そして。


大量のゴブリン。


「……っ」


思わず息を呑む。


多い。


巣の中だけで十匹近い。


しかも。


森の巡回班。


運搬班。


見張り。


全部合わせたら——


三十はいる。


しかも下手に戦闘を行うとボスが部隊を招集するんだろ……


『こんなの新人じゃ無理ですよぉ……』


「レオたちがやられるのも無理ないってことか……」


胸が痛くなる。


その時。


ゴブリンたちがざわめいた。


奥から。


大きな影。


「……あれか」


普通のゴブリンより頭一つ大きい。


筋肉。


傷だらけの身体。


鉄片を繋いだような鎧。


そして。


片目。


潰れている。


『ゴブリンリーダー……』


そいつが座っていた。


まるで王みたいに。


周囲のゴブリンが距離を取っている。


運搬班の一匹が肉を差し出した。


リーダーが奪い取る。


喰う。


周囲は待つ。


「……上納制か」


鳥肌が立つ。


社会。


階級。


支配。


完全に組織だ。


そして。


『見ました!?』


「ああ」


リーダー。


最初に食う。


つまり。


「毒が通る」


ルミアが息を呑む。


『勝てます?』


「分からん」


正直。


怖い。


数も多い。


リーダーも強そうだ。


でも。


「殺せる可能性は見えた」


ゲームでも。


ダンジョンでも。


高難易度でも。


まずやるのは情報収集。


そして。


攻略法を探す。


「……やってやるよ」


レオを殺した化け物を見る。


ゴブリンリーダーは肉を喰いながら、森を睨んでいた。


まるで。


次の獲物を探しているみたいに。


---


『毒までは分かりましたけど、次は何してるんですか?』


ゴブリンの巣の外周を草むらに隠れてガサゴソする俺にルミアが聞いてくる。


「ああ、正面からの攻略もいいんだけど、やっぱりバグ攻略というか抜け道攻略も必要だろうと思ってな」


『抜け道ですか…?』


「そうそう、これ位の作りだったらどっかに、おっとあったぞ」


粗末な木柵に人一人くらいであれば通り抜けられそうな隙間がある。


『なるほど!本番ではここから侵入するってことですね!』


「いや、今から巣の中に入って観測する。情報なんてあればあるだけいい」


『ちょっとトールさん!さすがに危険すぎますよ!逃げ場閉じられてるんですよ!?』


耳元でキーキー言うルミアは無視して、木柵の隙間に体を滑り込ませる。


湿った土の感触。


鼻につく腐臭。


喉の奥がむず痒くなるような血の臭い。


「っ……」


思わず顔をしかめる。


『だから危険だって言ったじゃないですかぁ……』


ルミアの声もどこか引き気味だった。


巣の中は、想像以上に“生活感”があった。


粗末な寝床。


焚火。


削った骨。


積み上げられた木箱。


奪ったのか、人間用の鍋まである。


「……村みたいだな」


『嫌な村ですねぇ』


笑えなかった。


地面には、人間の装備も転がっていた。


折れた短剣。


血の染みた革鎧。


冒険者タグ。


その一つに、焼け焦げた跡がある。


「……」


トマの爆炎魔法か。


つまり。


レオはここで戦った。


胸の奥がじくりと痛む。


でも。


今は感傷へ浸っている場合じゃない。


「情報だ」


俺は魔導カメラを構える。


《撮影》。


映像記録。


地形。


配置。


動線。


全部残す。


---


その時だった。


ギャギャッ。


「っ!?」


子供サイズの小型ゴブリンが、こちらを見ていた。


距離。


近い。


まずい。


『見つかりました!?』


ゴブリンが鼻をひくつかせる。


俺は反射的に《隠密》を発動。


呼吸停止。


視線を逸らす。


動くな。


存在を消せ。


ゴブリンが近づいてくる。


一歩。


また一歩。


汗が頬を伝う。


『トールさん……』


「…………」


その時。


別方向から怒鳴り声。


ギャアッ!!


小型ゴブリンがびくっと震え、慌てて走り去っていった。


助かった。


『し、死ぬかと……!』


「俺もだよ……!」


心臓が痛い。


もう帰りたい。


でも。


まだ終われない。


---


俺はさらに巣の奥を観察する。


すると。


「……ん?」


妙なことに気づく。


ゴブリンたちの視線。


配置。


警戒方向。


全部。


“正面側”へ寄っている。


『どうしました?』


「この巣、防衛が偏ってる」


木柵。


見張り。


罠。


全部、森側。


つまり。


冒険者が来る方向。


逆に。


俺が侵入した裏側は。


驚くほど警備が薄い。


「なるほどな……」


完全に。


“死角”。


しかも。


奥へ進むと。


粗末な崖地形があった。


木柵と岩壁の隙間。


人一人なら通れる。


『あっ』


「これ……」


リーダーの真後ろ近くへ出られる。


真正面は護衛だらけ。


でも。


ここなら。


『バックアタックできますね……』


「ああ」


俺は急いで周辺を記録する。


岩。


距離。


段差。


遮蔽物。


全部。


「ここだ」


勝ち筋。


ようやく見えた。

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ルミア『ご入信もお待ちしております』

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