ゴブリン攻略検証 1日目
「トールさんカッコよかったです!絶対に攻略法見つけましょうね!!
それで、まずは何をするんですか?」
「わからん」
『えっ』
「いやマジで」
森へ向かう途中。
俺は、真顔で答えた。
「そもそも俺、戦術とか知らんし」
『勢いで飛び出しましたもんね』
「お前もノリノリだっただろ」
『感動してました!』
駄目な神だった。
「まあでも、まずは敵のことを知らないといけない。どれ位いてどんな行動をするのか
敵を知り己を知れば百戦危うからずってやつだな」
『ええ、ええ、三十六計逃げるに如かずですね』
「うるさいなこいつ…」
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森の入り口へ到着する。
昨日までと同じ景色。
木々。
湿った土。
薄暗い空気。
……なのに。
今日は妙に圧迫感があった。
「……静かだな」
『ですね』
昨日までは、もっと冒険者がいた。
薬草採取。
素材集め。
新人パーティー。
誰かしら居た。
でも今日は違う。
皆、“何かあった”と知っている。
だから森へ入らない。
「新人の死亡率ナンバーワン、ゴブリンによる集団襲撃」
『嫌なランキングですねぇ……』
「笑えねぇよ」
深呼吸。
肺へ湿った空気が入る。
怖い。
普通に。
昨日までは“異世界生活”だった。
でも今日は違う。
人が死んだ場所へ向かっている。
しかも次は、自分かもしれない。
『……帰ります?』
ルミアが珍しく小さな声で言った。
「帰ったら、トマたち死ぬだろ」
『……』
「だからまあ、やるしかない」
俺は森へ足を踏み入れた。
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まず最初に分かったのは。
「……少ない」
『ゴブリンですか?』
「ああ」
昨日までなら浅層にいたはずのゴブリンが、ほとんど居ない。
妙だった。
普通、危険が増えたなら増えてるはずだ。
なのに。
「なんで減ってる?」
『……分かりません』
俺は木陰へしゃがみ込み、《隠密》を発動する。
空気へ溶け込む感覚。
呼吸。
重心。
視線。
意識すると、存在感が薄くなる。
未だに不思議だ。
『そのスキルほんとズルいですよね』
「盗撮スキル言うなよ?」
『言ってません』
絶対思ってる。
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しばらく進む。
すると。
『……いました』
ルミアが小声になる。
前方。
ゴブリンが二匹。
いや。
「三匹か」
木の裏。
草陰。
少し離れた位置。
三方向。
明らかに、配置されていた。
『……巡回ですかね?』
「っぽいな」
ゴブリンたちは、一定距離を保ちながら森を歩いている。
一匹が進む。
止まる。
周囲を見る。
別個体が移動。
その間、別の一匹が後方警戒。
「……おいおい」
背筋が冷える。
これ。
ただの野生動物じゃない。
『ゴブリンってもっと馬鹿だと思ってました』
「俺もだよ」
俺は慌ててカメラを構える。
撮る。
記録。
まずは情報だ。
一匹目が木を叩く。
コン、コン。
少し離れた場所から別の音。
返答。
『合図してません!?』
「してるな……」
完全に巡回だ。
しかも。
『移動ルート固定されてません?』
「……!」
俺は地面を見る。
足跡。
擦れた草。
泥。
同じ場所を何度も通っている。
つまり。
巡回経路がある。
「なるほど……」
攻略勢時代の感覚が蘇る。
敵AI。
索敵ルーチン。
巡回周期。
パターン化。
「見えてきた」
『おおっ!?』
「まだ全然わからん」
『どっちなんですか』
「でも少なくとも、“偶然遭遇してた”わけじゃない」
ゴブリンたちは。
森を管理している。
その事実だけで十分ヤバかった。
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そこから数時間。
俺はひたすら観察した。
木の上。
茂み。
岩陰。
《隠密》を使い、息を潜める。
その間もゴブリンたちは動き続けていた。
見えてきたのは。
「……縄張りか」
巡回ルート。
警戒地点。
合図。
待機場所。
完全じゃない。
でも。
少しずつ森の構造が見え始めていた。
『トールさん』
「ん?」
『顔色やばいですよ』
「集中すると飯忘れるタイプなんだよ俺」
『駄目配信者あるあるですねぇ』
実際かなり疲れていた。
ずっと神経を張っている。
しかも相手は人類の敵だ。
一回見つかったら終わる。
心臓がずっと痛い。
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その時だった。
ガサッ。
「っ!」
身体が硬直する。
近い。
真横。
草むらが揺れた。
ゴブリン。
距離五メートル。
『トールさん——』
俺は呼吸を止める。
動かない。
見ない。
視線を合わせるな。
気配を消せ。
ゴブリンが鼻を鳴らす。
ぐるる、と喉を鳴らす。
臭いを探っている。
汗が背中を流れる。
頼む。
行け。
行ってくれ。
数秒。
永遠みたいな時間。
やがて。
ゴブリンは別方向へ歩き去っていった。
「…………っはぁぁぁ……!!」
肺が痛い。
寿命縮んだ。
『い、生きてます!?』
「ギリギリ……」
膝が震えていた。
でも。
「……今ので分かった」
『え?』
「索敵にも癖がある」
視線。
音。
臭い。
反応距離。
優先順位。
全部違う。
「こいつら、“獣”じゃなくて、“下手な兵士”だ」
だからこそ。
パターンがある。
攻略できる。
「……見えてきたぞ」
森の奥を見る。
ゴブリンたちが動いている。
巡回している。
狩っている。
管理している。
そして多分。
あの奥にいる。
レオを殺した奴が。
俺はカメラを握り直した。
「待ってろよ」
『誰にです?』
「ゴブリンにも、あいつらにもだ」
その日。
俺は日が沈むまで、森を観察し続けた。
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ルミア『ご入信もお待ちしております』




