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その女、お嬢様にして仮面のヒーロー 〜弟を奪われた少女は、お嬢様の仮面で怪物を殴る〜  作者: H.B.Archives


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第6話 [2020/6/30 16:13][山梨県南アルプス山中][五年前3]

 宇宙の旅路は緩やかな自殺と同じだ。少なくとも、その男を育んだコミュニティの社会規範はそう定義していた、らしい。


 らしいと言うのは男もそこを半ば放逐された身の上で、性別もなく老いず、文化も文明も可能性の余地がないとあっては自らそうする者も多いからだ。


 ただ、息をする為に生きている。それを否とするならば、自ら終わらせるか外に出るしかない。


 だが、元から死出の旅路だ。


 長い孤独な旅路は退屈を倦む稚気も、あるべき論を語る高邁さもあっという間に雲散霧消させた。


 自決用のカプセルは意地でも含まなかった。ただひたすら、温もりの気配を探して旅を続けた。


 そして見つけた。


 降り立った。地球に。


「ビックリしたぜ、何せ⟡⟡⟡が⌬⌬⌬したら、目の前でこいつが首括ってたんだからな」


 ペシペシと頬を叩く。


「まだ、少し息があってな、でも結局ダメだったな」

「ね、ねえ」とシグ、


「君が乗ってきた宇宙船?みたいなやつ、まだあるの?見せてくれない?」

「あ、ああ、構わねえが、うんともすんとも言わない鉄屑だぞ?」

「良いよ良いよ、とりあえず見せてよ、それで、その男に成り代わって今に至ると」

「ま、まあ、そうだな」


 ハイタッチをするシグとステアー、ダメだ、コイツら、男は雑に纏められて少し不服そうだった。口振りからすれば昨日今日の話ではないだろうし、異星人の娘の結婚式を楽しみにする程度には色々とあっただろうに。


 少し不憫だった。


「それで?さっき言ってた君を生かすメリットって?」

「え?・・・ああ、それは・・・」

「咄嗟の出まかせかな?」


 シグはそれでも構わなそうだった。しかし、「違う!」と宇宙人の男は思いのほか強く否定する。


「・・・地球でも、比較的穏当に暮らしてるだけの奴らは他にも居て、そいつらから聞いた話なんだが、最近になってあらわれた新参者の、確かこっちの言葉でなんと言うのだったかな・・・」


 ∴∴∴∴∴∴?・・・違う、



 ∿∿∿ ∿∿・・・いや、なら⧖ ⧖?・・・いや、



 やがて、ポツリと乱暴者とこぼして、近い気がすると言わんばかりに頷いた。


「⊕ ⇆ ⊖̷も厭わない連中だ。⟡⟡⟡⟡した⟁⟟⟒⟟⟒は皆殺し・・・ああ、つまり、ええと・・・」


 しばらく紡ぐ言葉に悩む様子を見せた後に言った。


「宇宙海賊、自分達の利益と快楽の為なら何でもやる連中が、見捨てられたこの星に無法者達の楽園を造ろうとしている。正義の味方って言うならよ、そういう連中と戦ってこそなんじゃねえか?え?」


※※※


「ふん!」


 姿見の前で腹に巻いた紐を引き絞る。ポンチョのように被った布地が腰の辺りで括れてAラインを作り始める。


「まだまだっ」


 手早く蝶結びにした後、さらに紐を重ねて帯のようにしてゆくと、段々と鏡に映る私の寸胴が、頭の中で思い描く理想のシルエットへ近づいてゆく。最近気づきつつあった、目を背けていた真実、美しさとは色味でもディティールでもなく、そのシルエット、


 黒塗りの影絵でも、シルエットがお嬢様なら、後は素材と細工で足してゆけば必ずお嬢様になるのだ。


 幼い頃にシンデレラ城で撮った写真の雪辱、それを果たさねばならない。


 詰まるところダイエット、ダイエットが必要だった。


 自室のドアががらりと開く。


「姉ちゃん、メシ出来たって・・・・・って、何やってんの?」


 日に焼けた坊主頭の少年が胡乱な瞳で私を見ていた。低学年の頃から続けている野球のお陰で精悍に引き締まっていて、年齢の割に上背もあるから大人びている。文化系帰宅部まっしぐらの私とは何もかも正反対な弟、孝也だった。


「ちょ、ちょっと勝手に、開けないで・・・ぐぇ」

「ま、まあ、そう言う訳だから、早く降りてきなよ」

「ま、待って、解けない、ぐるじい・・・」


 孝也の協力を得て何とか紐を全て解く。脱ぎ捨てた布地の下は下着姿だった。


「ちょっと、見ないでよ」

「・・・ボンレスハムみてえ」


 !?!?!?!?


 赤い線が浮かぶ私の腹を見てデリカシーという言葉をどこかに置き去った台詞を吐く孝也、私が拳を振り上げる前にそそくさと部屋を出てゆく。


「早く降りてきなよ、ボンレス」


 憤懣やるかたない私が、リビングに降りてゆくとテーブルには唐揚げにハムカツ、コロッケと、揚げ物満載の食卓が広がっていた。


「お父さんの得意先の商品なんですって」


 母がこんもり白米をよそった茶碗を私の席に置いた。


「あれ、俺のビールは?」

「自分で取ってきなさい」

「・・・ほーい」


 揚げ物揚げ物揚げ物、カロリーの暴力に加えて糖質爆弾の白米がこんもり、これか、これが私の腹肉に変わってゆくのか・・・、


「・・・私もご飯、こんな要らない」

「あらそう、じゃあ自分で戻してきて」


 炊飯器にしゃもじで戻してゆく、ただそれだけの行為が、何故だろう。まるで魂を削られるかのように辛かった。


「お〜う?急に色気付いて、彼氏でも出来たんかぁ?」

「姉ちゃんに?そんな訳ないじゃん、こんなデブ」

「こら、そんな言い方しない」


 テレビが明るい光景を映し出す。お祭りのような浮かれた雰囲気、どこかの商業誌施設のようだった。


「国道沿いの、あの、オープンしたんだ」


 それは長らく建設が続いていた屋内型のショッピングモールのオープニングイベントだった。


「ああ、先週からな」


 父の赤ら顔に気持ち暗い色が混ざる。


「・・・大丈夫かしらね」

「ま、うちも大きいから」


 大人には大人の事情があるが、我が弟はお構いなしに「今度の休み行こうぜ」などと言い始める。


 あ、ちょっと、


 でも、父は「そうだなあ」と少し悩ましげにしながらも言葉を続けた。


「んじゃ、いっちょ皆んなで敵情視察とでも行くか」


 週末は少し不味い。ステアー達と予定が、その事を告げると「そおか〜」と少し残念そうに父が返す。


「例の工務店のバイトか?頑張るのも良いけど、間違っても100万は越さないでくれよ?」

「あ、うん」

「危険とかないんだろうな?」

「あ、ある訳ないじゃん」


 少しどきりとしながら答える。


「あまり行かない方が良いんじゃない、その」

「ん?ああ、大丈夫大丈夫、敵情視察って言ったろ?」


 こういうのも必要なんだよ、そういう父に私は継ぐべき言葉が見つからなかった。そうじゃない。そうじゃないんだ。


「でも、人とかたくさん、危なかったりとか」

「はは、それ言ったら父さんのスーパーだって夕方めちゃくちゃ人くるぞ」


 上機嫌に笑う父に、私は何と話したら良いか分からなかった。そうじゃない、そうじゃないんだ。宇宙人の男から聞いた話、そのモールには件の人喰いの宇宙海賊があらわれて、


「万引き犯立って捕まえた事あるんだぜ」


 人を攫って食ってしまうのだと、そう聞いていたのだから、



読んでいただきありがとうございます。

次回は4/30(木)21時更新予定です。

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