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その女、お嬢様にして仮面のヒーロー 〜弟を奪われた少女は、お嬢様の仮面で怪物を殴る〜  作者: H.B.Archives


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5/22

第5話 [2020/6/30 15:57][山梨県南アルプス山中][五年前2]

 特別な存在になりたかった。女の子が抱きがちなお姫様願望もそうだが、男の子のヒーロー願望だってそうだ。


 弟に付き合わされて散々、


 いや、嘘だ。最初はプリキュアのついでだったけど、最終回間近は毎週二人でテレビの前に齧り付いていた。


 劇場版だって二人で行った。


「あ」


 覗いた双眼鏡に映る木々の狭間、葉のつくる影に鈍く光を返す人影が見えた。


「どうだ?」

「多分、見つけました」

「どれ」


 双眼鏡を受け取り覗く男に「山道の右の方です」と補足すると、唸るように「ああ」と答えた。


「居るな、間違いない」

「ですよね」


 背にしていたハイエースの、薄汚れて白とすらもう言えないそれのサイドガラスを叩くと、無精髭を生やしたジャージ姿の男が運転席から顔を覗かせる。


「行くぞ。金田製作所とは世を忍ぶ仮の姿、ブルースカッド、今こそ出動だ」


※※※


 プリンセスは王子様が居ないと成れない。カボチャの馬車が迎えに来ても、王子様のキスがないと毒林檎の眠りからは醒めないからだ。


 でも、ならヒーローは?彼らにとって不可欠な存在は何だ?


 守るべき無辜の市民か?貫くべき正義か?


 それとも力をもたらすスーツやロボットか?


 あるいは仲間か?


 どれも違う。その答えこそが彼ら、自らブルースカッドを名乗る彼らだった。


「あれだな」


 濃紺の作業着を着た男がガシガシと均されていない坂道を下る。ステアーと名乗る彼は金田某と言うらしいが、頑なに本名を教えようとしなかった。


 ほっ、ほっとジャージ男が軽快な足取りでステアーを追う。


 私はそれをぜえぜえ、荒い息を吐きながら追った。


 あの日、ジャンプ漫画だったら第一話、そうでなくてもゼロ話以前で犠牲になる一般人Aな事件に遭遇した私だったが、助けた彼らは颯爽と、と言うよりそそくさと、喧騒を取り戻す夜の住宅街に私を去って行った。


 物語だったら当たり前に訪れる目眩く日々なんて始まりはしなかった。家に帰って、擦り傷だらけの私を両親は心配してくれたけれど、それでもいつも通り朝はやってた。


 数日経ち、果たしてあれは現実だったのだろうかと疑いを抱き始めた頃になって、再び彼らはあらわれた。


『探したぞ!鉄の鼓動で明日を起こせ、ブルースカッ!!』


 ステアーは基本的にブルースカッドのオープニングテーマの歌詞と劇中の決め台詞しか話さなかった。街中で見かければ避けて通ること必至の気狂い。


 話が比較的通じるジャージの方、シグの話では真面な時の方が不味いらしい。そうしなければならない、大抵が差し迫った状況だからだ。


「居たぞ」


 ステアーが小声で指差す方を見ると、灰色に近い銀の人影が膝をついて肩で息をしていた。


 肩を叩かれる。


「ゴーアヘッ、スミレ」

「・・・私はスミレなんて名前じゃ」


 私を助け、颯爽と去った(本人視点で)彼らだったが、後から事情くらい聞いておくべきだったなという職業?意識と、トラウマとかになってないと良いなという薄っすらとした優しさで私のことを探していたらしい。


 曰く、日々忙しいパトロールとやらの合間を縫ってとの事だったが、あの道を私が通ったのはブレイズのカードを買うためだった。


 当然、待てど暮らせど私が通りかかることはない。


 そんな私が再び彼らと出会ったのは本当に偶然、駅前のブックオフでジャージ男とばったり、だった。


 どうしてもハウルの動く城が観たかったんだ。


「ゴーアヘッ、燃える青で世界の影を切り裂くんだ!」


 ステアーの声に驚いて白銀の人影が振り返った。ああもう、ヤケになりながら背負っていたランドセルを前に突き出した。


 内蔵されたスピーカーから、おそらく人の可聴域を遥かに下回った音がノイズとともに響く。隣ではシグが同じような機械を同じような格好で前に突き出していた。


 振り返った白銀の人影は顔までつるりとしていて、それは一言で言えば、そう、グレイだった。顔のパーツはどれも人のそれより浅く、表情とも呼ぶべき内面の表出が乏しいものだったが、それでも驚きと怯え、そして戸惑いが滲むものだった。


「ッ・・・」

「くそっ、やはりスピーカー越しじゃダメか!」


 おおお、と低く唸りながら前にでて、拳を握った両手で十字を作って叫んだ。


「ブルーゥスカッ!ほら、お前らもゴーアヘッド!!」


 え、え、え?戸惑っている内にシグも重ね始める。


「「ブルースカッ!」」


 え、ま、マジで?睨むステアーに耐えかねて、おずおずとを重ねる。


「す、スカ・・・」

「くそ、一回じゃダメか、ファイティン!ブルースカッ!」

「ブルースカッ!」

「・・・す、スカ」


 私は何をやっているのだろう。戸惑い、固まる宇宙人へずいっと迫りながら「変身!」を繰り返してゆく。異常な奴らと異常な状況で異常な事を、一番の異常であるはずのグレイが怯え、戸惑うという一番の正常、何かが著しく間違っている。


「「ブルースカッ!」」

「スカッ」


 傍から死んだ魚のような目をして、だから、シグが銃を構えるような、ステアーとは違うポーズをしているのに気づく。彼らが自認するブルースカッド、私が生まれるより前に放送が終了していたそれは、そう言えば三人組のヒーローだったような気がした。


 確か、紅一点のパープルがいた筈だ。私はステアーの十字を真似ていたが、しかし、そうなると三人中二人が同じポーズというのはどうにもバランスが悪い。


 目を背けた羞恥心の代わりにそんな事を考えていた。


 変身、ああ、ならあっちの方が良いか、気づけば私は弟の、実は私もお気に入りなブレイズの変身ポーズを取っていた。


 タイミングが合わないから簡易版だが、


「「「ブルースカッ!」」」

「ぃひぁっ・・・」


 悲鳴を上げて転がるグレイ、


「ぉまえら、お前らっ」


 あ、日本語、


「な、なんなんだよ、お前ら」


 怯え、ほとんど降参した犬同然にひっくり返るグレイに、それでもブルースカッ!を繰り返す私達にグレイは頭を抱え、腕の隙間からか細くこぼした。


「頭、おかしいんじゃないのか」


 失礼な、一緒にされては困る。


 私はバイトに過ぎないのだから。


 時給二千円に釣られてしまったんだ。


※※※


「俺だって、⟁⟟⟒⟟⟒ ⟒⟒⟒に帰りてぇよ」


 聞き取れない言葉に意識が引っかかる。伽藍堂の駐車場で中年男性が膝を抱えていた。


「⟡⟡⟡⟡⟡⟡⟡がイカれちまって、そうじゃなきゃこんな土臭い星・・・」

「ふむ、その宇宙船みたいなものか?壊れて、帰れないと・・・仲間は呼べないのか?」

「・・・だから、⟡⟡⟡が⌬⌬⌬だって言ってるだろ。そうじゃけりゃ、⟁⟟⟒⟟⟒にさっさと⟒⟒⟒・・・・・はぁ」


 通じるような通じないような会話を繰り広げる男は駐車場の端っこ、白のカローラから出てきたばかりだった。


 そして彼が出てくる前にはシルバーグレイが手慣れた様子で鍵を開けて入って行って、その前には車内に人の気配はなかった。


 つまりはそういう事だった。


 プリンセスにとっての王子様、そして自称ヒーローらにとってのそれが彼ら、地球外生命体だった。電波でもカルトでもなく、宇宙人は本当に居たんだ。


 マジかよ、そりゃ常識も羞恥心もどっか行くわ。


 ブルースカッ!・・・ああ、ああ・・・、


 私の頭がぐるぐると同じところを行ったり来たりしてる間に話が先に進んでゆく。


「お前ら、何なんだ?保護機構の手先か?」

「保護機構?俺達はブルースカッドだ。それ以上でも以下でもない」


 助けを求めるように男(宇宙人)が私を見上げる。いや、私を頼られても、ただのアルバイトだし、私。


「まあまあ」とシグ、


「俺達は善意の市民ってやつだよ」

「し、市民?ならあれだ、警察だろう?私服何ちゃらってやつだ」


 違う違う、金田製作所とは世を忍ぶ仮の姿、真の姿は人知れず地球侵略を目論む地球外生命体から世界を守る、その名もブルースカッ!は公的には何の立場も持ってない。


 良い例えも似た存在も居ないから、敢えてどストレートに言えば、趣味のヒーローごっこでマジでエイリアンと戦おうとするイカれたおじさん達だ。


 説明を受けた男の顔が「マジかよ」と引き攣る。


 その「マジかよ」には多分、私も含まれていた。


 失礼な、私は・・・いや、一味ではあるか、アルバイトだけど、時給二千円に釣られただけだはあるが、


 シグが「ハズレかぁ」と残念そうにボヤく。


「ハズレ?何でですか?」

「なんか良いやつっぽいじゃん?隠れて人とか喰ってそうにないし」

「あ、当たり前だ!」と宇宙人の男、


「あんな下品な連中と一緒にすんな!俺は溶け込もうと必死で、ずっと・・・」

「あんな?」


 まさか、居るのか?そんなテンプレな悪の侵略者みたいな存在が、


 シグがしょっぱい顔をして頷いた。


「珍味として結構人気らしいよ?僕たち」

「表向きは禁じられた地球への降下、だが、お陰で地上で出くわす異星人は人をスナック感覚で摘む本当の化け物どもだ。俺達が守らなきゃならない」


 マジかよ、


 なら、彼らは本当に英雄じゃないか。ボランティアで自らの命も顧みず戦い、人々の平和を守っているとするならば、その行為を英雄的と言わずして何と言うのか。


 少なくとも、私は彼らの行いで命を救われたのだ。


 そして俯いてここに居ない何かに憤るステアーを、少しカッコいいと思ってしまった。


 あ〜あ、とシグが、


「良いやつじゃ、気持ち良くぶっ殺せないじゃんかよ」


 本当に「あ〜あ」な発言をする。まあ、彼らが英雄願望マシマシな、かなりヤバいおじさん達である事は変わらない訳ではあるが、


「ま、待ってくれ、俺を生かしといてくれれば役にたつぞ!」

「どうだか、その身体だって乗っ取りだろ?」

「そ、それは・・・」

「俺はステアーに合わせるけど、石橋は叩いて割った方が安全かな派」

「ま、待ってくれ!」


 男が地面に額を擦り付ける。宇宙人の癖に堂に入った土下座をする。


「頼む、頼むから来月までは・・・ら、来月を過ぎたら・・・こ、殺されても・・・良い」


 必死な様子の宇宙人の男に「何かあるのか?」とステアー、


「む、娘の結婚式があるんだ」

「娘?宇宙人のか?」

「ち、違う」


 男はいそいそと懐から折り畳みの携帯を広げた。画素の粗いディスプレイには男と、生意気そうな若い女が顔を背けて立っていた。


読んでいただきありがとうございます。

次回は4/29(水・祝)20時更新予定です。

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