表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その女、お嬢様にして仮面のヒーロー 〜弟を奪われた少女は、お嬢様の仮面で怪物を殴る〜  作者: H.B.Archives


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/24

第23話 [2023/3/XX XX:XX][二年前8]

 荒い息が聞こえた。俯いて、床を睨みつけながら荒い息を繰り返しているのを自覚した瞬間、私は最初、また戻ってきてしまったのかと思った。


 あの風呂場に、うろのような瞳を思い出して身体がすくんだ。


 待て・・・いや、待て・・・ヒーローが悪に怯えるな、


 ヒーロー・・・?


 ひび割れたアスファルトを踏みしめていた。水たまりに沈むヘルメットの破片、背にかかる巨人の重圧を・・・・・感じない、すぐ後ろで手のひらを突き出した姿勢のまま、ひっくり返っていた。


「・・・ざまあ、見やがれ」

「少し早いな、気を抜くのは」


 声はすぐ隣から響いた。あの白い男が立っていた。


 う、うお・・・、


 白い男は足元に広がる水溜りを指さしていた。その水溜りは中心に赤いひび割れた球体を浮かべつつ、小さなクレーターの縁から這い出ようとしていた。


 もう一回、踏みつけてやろうと思った。でも、その水溜りの動きは見るからに鈍く、弱々しくて、球体がクレーターの縁に引っかかって進めずにいた。


 アスファルトに横たわったまま目を覚まさない少女を目指していた。


「・・・しぶといな、本当に」


 今さら、同情なんて許されないだろうから、だから私は満身創痍のその赤い球体を勢い良く踏みつけた。


 今度こそ粉々に砕ける球体、その瞬間に水溜りの動きはぴたりと止まった。液体が煙を上げて揮発してゆき、球体は見る間に色を失い、最後には灰のように崩れて地面と見分けがつかなくなった。


 灰すらも雪のように消え、やがて一枚のメダルを残して何もかも溶け落ちた。


 白い男がメダルを拾いながら、「あっちはどうする?」と私を見上げる。


 言葉も返さず、横たわる少女に重い足取りで身体を引き摺ってゆく。少女は目を覚ましていなかった。首があらぬ方向に折れ曲がっていて、目を覚ますはずもなかった。


 その少女もまた、宝井の中身だったものと同じように真っ白な灰となり崩れて、雪のように溶け消えた。


 後には何も残らなかった。


 孝也もきっと、でも、この世界で再び死を迎えたら・・・、


「・・・契約を、結んでやっても良い、でも」


 孝也を、ああならないように、しかし、言うべきか?人質にでもされたら、宝井の二の舞を踏むことになる。孝也の向かう先はあの少女だ。


 刹那の計算、しかし、答えはでない。


「白石孝也のバックアップなら既に確保してある」


 心臓を掴まれたような感覚、自分がやったばかりだが、くそ、こんな感覚か、


「・・・私はそんな名前、知らない」

「うん?名前は間違ってなかったはずだぞ、君が言ったんじゃないか」


 何を言っているんだこいつ、急所を握られている恐怖もあったが、それ以上に苛立ちが優った。


「お前、回りくどいぞ、前の時もそうだったけど」

「前?君とは初見のはずだが・・・」


 ・・・・・・?


 男からも戸惑いの気配が伝わるが、すぐに原因を思いついて納得したように「ああ」と言った。


「時間方向の屈折が一致してないようだな、いずれにせよ、次は私の前任者になるだろう」


 何を、言っているんだ・・・、


「会ってみるか?白石孝也と」


 え・・・、


「ここまでなら、ああ、君にとってはここから先になるのか、面倒だな、ああ、ほんの短い時間だが、契約を結べば少しくらい便宜を図れるだろう」


 どうする、と窺うような視線と一緒に差し伸べられる手、私はそれを、握られた急所である事を理解してもなお、それでも、なお、


 決まってる、ああ、


「会いたい」


 そう答えざるを得なかった。


※※※


 薄暗い道を歩いていた。ぽつり、ぽつりと街灯が照らす間の闇を息を潜めるように歩いていた。怖いな、通り魔なんて物騒な話はこの辺では聞かないけれど、でも、もうちょっとどうにかならないかな、


 そう思いながら帰っていた。


 どこに?


 家に、


「ッ・・・」


 気づけば走り始めていた。身体が重い。体重はあまり変わらないはずだが、でも、あの頃は確か少し太っていて、運動なんてろくにしてなかったから、だからすぐに息が上がってしまった。


 でも、走り続けた。


『ここは箱庭、何もかも見せかけで、でも、見せかけであるからこそ、ここは安全なんだ』


 声がした。あの男の声、でも、そんなもの、どうでも良かった。


 汗だくになりながら家に駆け込んで、ただいまと怒鳴る。


「あら、そんな慌てちゃって、どうしたの?」


 台所で母が夕飯の仕度をしていた。もう随分と見ていない母の顔、こんな顔だったっけとまじまじと覗く。


「何、どうしたの?」

『その女性もイミテーションに過ぎない。ここでは何もかもそうなんだ』


 君の弟を除いては、そう付け加える。


「・・・孝也は?」

「もうすぐ帰ってくんじゃない?」


 野球か、そうだったな、確かこの時期はリトルリーグの練習が結構夜遅くまで続いていたから、


 私は着替えもせずに玄関の前で体育座りになった。不審がる母に、ちょっと驚かせてやるだけだよと曖昧に誤魔化す。


『来たよ』

「ッ・・・」


 多分、待っていたのは五分とか十分くらいだったと思う。でも、たったそれだけの時間が今の私には永遠のように感じられた。


 玄関が開いた。


「ただいま〜、って、うおっ、なんだ!?」


 間髪いれず抱き締めてきた存在が姉であると悟ると、鬱陶しげに身体をゆすった。


「ちょっと、なんだよ、俺、疲れてんだけど」

「・・・ごめん、ちょっと、もう少しだけ」

「・・・・・もしかして、泣いてんの?」


 うるさい、でも、弟の汗臭い肩に乗せた顎を、放すことができずにいた。顔も見たい、でも、こんな顔見せたら、きっと戸惑ったり、やっぱ、少し恥ずかしいな、


 控えめに私の背が優しく叩かれる。


 そうだよ、そうさ、こういう子だったよな、


『すまないが、時間だ』


 視界が白んで徐々に解像度が落ちてゆき、さっきまで台所の方から聞こえていた音も遠く、聞こえなくなってゆく。孝也の頬を両手で挟んで、その顔を、脳裏に刻み込んでおこうと見たけれど、解像度の落ちた世界の中ではどんなに近づいても見えなかった。


 ごめんね、姉ちゃん、こんなみっともない顔だけど、


 孝也は何か言おうとしていたけれど、でも、聞こえない、


 ごめんね、今度、ちゃんと聞くから、


 姉ちゃん、それまでちゃんと、頑張るから、


読んでいただきありがとうございます。

次回は5/16(土)20時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ