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その女、お嬢様にして仮面のヒーロー 〜弟を奪われた少女は、お嬢様の仮面で怪物を殴る〜  作者: H.B.Archives


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第2話 [2025/4/20 12:12][その女、お嬢様にして2]

[2025/4/20 12:12]


 お嬢様、暴漢を捕まえる。そんな記事が地方誌の片隅に載っていて、文学少女然としたクラスメイトがそれを広げていた。


「こ、これ、これ、これ」

「ああ、私ですわね」


 感謝状を渡されていつもの作り笑いを浮かべる私がそこに居た。


「やっぱ白、桂花院さんだったんだ」

「そんなクオリティの高いお嬢様、私の他に知りませんわ」


 結論から言うと、私は取りたてて停学処分にもならず学校に通い続けていた。暴漢騒ぎで渡された感謝状の威力、と捉えられなくもないが、どうやら問題児を放逐したがっていた校長と学年主任がそういう方向で話を纏めたらしい。


「す、凄いね、刃物持った相手に」

「別に、大した事ないですわ」


 四ノ宮とは、別に取りたてて仲が良いという訳ではなかったが、どうやら裁縫が趣味という事で私の服が気になるのだろう。色々と声をかけられる機会が多かった。


 高そう、と恐る恐る私のドレスに触れる彼女に言ってやった台詞、


『自作ですわ』


 理解できない怪物を見るような目つきが忘れられない。


 どうやら私、随分も遠くまで来てしまったらしく、


「そう言えば、今日は着けてないんだね」

「え?」

「手袋、いつも着けてる綺麗なやつ」

「・・・あまり見ないで下さいまし」

 

 私の拳は節くれだっていて、擦れて厚くなった皮が剥がれてを繰り返して、白い斑模様を描いていた。私の身体はどこもかしこも、そんな誤魔化しだらけだ。


「新しいのが縫い終わるまでもう少しかかりますの」

「え、手袋も自分で縫ってるの?」

「案外簡単ですのよ?パターンの切り出し方を覚えれば何だって設えられますわ」

「へぇ」


 感心しながら脳裏に何かを浮かべている気配、自分も同じ趣味を持っているから分かる。選択肢として捨てていたアイテム、あれこれできるかなと思い浮かべているのだ。


「そう言えば四ノ宮さん、どんな物を縫われますの?」

「え、え?」

「私は見ての通り、身の回りのあれやこれを。やはり四ノ宮さんも服とかなのかしら」

「・・・う、ふ、服は服、なんだけど」


 周囲を見渡して、教室の誰も聞いてないのを確認して手招き、耳を寄せる。


「・・・コスプレ、なの」

「へえ、どんなキャラクター好きなの?」

「ちょ、ちょっと、声大きいっ」


 ひそひそと、いかにも女子同士の秘密話という体で話す。


「それで、どんなの着ますの?」

「・・・うう、えぇと」


 歴史物、と言って良いのだろうか、元はPCのシミュレーションゲームで擬人化した日本刀のキャラクターが出てくるメディアミックス作品のようだった。


「桂花院さんはそういうのあんまりな感じ?」

「う・・・でも私、特撮とかならそこそこ詳しいですのよ」

「・・・・・それならさ、今度一緒にコスんない?」


 コス・・・ああ、コスプレ、しかしどうしたものか、こちらは普段からこうだと言うのに、コスと言われても、随分昔に手慰みに作った美女と野獣のやつしか手持ちがない。


「それならさ、もし良かったらなんだけど」


 今日の放課後、ユワラ屋に一緒に行かない?


 様々な裁縫グッズを置いた全国チェーン、いつもネットで済ませているから行った事がなかった。少し考えながらおずおずと頷くと、四ノ宮さんはそれは嬉しそうに華やいだ笑顔を浮かべた。


※※※

[2025/4/20 16:49][かすみ野国際駅前][複合商業施設内]


「結構いっぱいありますのね」


 商店街の文房具コーナーみたいなのを想像していた私はその店構えの大きさと、何より大小様々な品揃えの数々に圧倒されていた。


「でしょう?私、ここのヘビーユーザーだから何でも聞いて?」


 裁縫と一口に言っても、布と針があれば仕立てができる訳ではない。できなくもないが、それこそ落ち感のあるシルエットを作りたければ布地を選ぶのは勿論、パーツごとの繋ぎ合わせも縫い止めずに専用の接着剤を薄く伸ばして一枚に見せかけたりする。


 その店はその手の裁縫をやってる者でなければわからない、わかってる者でなければ欲しがらない素材の数々が驚くほど揃っていた。私も早速ボタンとフェイクレザー、それからいつも使ってる接着剤をネットよりも安く買って、ホクホク顔で紙袋を抱えていた。


「ちょっと待っててね、私もレジ済ませて来ちゃう。そしたらバーキンでお茶しよ」

「ええ」


 レジに向かった四ノ宮を見送り、ふらふらと店内を見て回る。初心者用の色々とセットになったコーナーを前に足が止まる。小中学でやるような、ナップザックを一から縫うあのセット、それがいくつも置いてあった。


 その内の一つに目を奪われる。別にそれが取りたてて美麗だったとか、心惹かれたとか、そう言う訳じゃない。黒と赤のデフォルメされたドラゴンが大写しになった、いかにも男の子が好みそうなそれ、確かこれは、


「お待たせ、あれ、何見てるの?」


 レジを済ませて来た四ノ宮が、私が視線を奪われていたそれを見る。


「あれ、桂花院さん、意外にもこういうのは好きだったり、とか?」

「い、いえ、そういう訳ではなくて、確か弟がこんなの持ってたなって」

「へえ、弟さん居たんだ」


 何と言葉を継いでいいか分からずにいると、にこにこと勝手に盛り上がっていた四ノ宮が「良いなぁ」と言った。


「うち、男兄弟ばっかだから、末っ子だし、弟とか欲しかったな」

「・・・生意気なだけですわよ」

「でも、お兄ちゃんとかより絶対良いよ。私だったらめっちゃ可愛がる気がする」


 奪われたままだった視線をドラゴンの絵柄から引き剥がす。


 そういうもの、なのかも知れない。


「お兄様って、どんな方ですの?」

「え?」


 ドレープに隠した携帯が震える。電池の持ちだけが取り柄のガラホ、すぐに着信は切れてメールが届いた。


 失礼、と素早く中身を開封して溜息を吐いた。


「・・・ごめんなさい、四ノ宮さん、お茶は無しですわ」

「え、もしかして急用とか、大丈夫?」

「バイトですわ」


 バイトとかしてるんだ。軽く驚く四ノ宮に微笑んで返す。


「お嬢様を維持するのも楽じゃない。そういう事ですわ」


 毎朝練習しているアルカイックなスマイルは、少し頬と口角の筋が疲れていた。


続きは本日22時30分更新です。

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