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その女、お嬢様にして仮面のヒーロー 〜弟を奪われた少女は、お嬢様の仮面で怪物を殴る〜  作者: H.B.Archives


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第13話 [2020:11:03 14-27][四年前1]

ここから少し空気が変わります。

[2020/11/03 14:27]


 駆けていた。


 喉を通って音を成らす荒い息は掠れていて、でも、そんなの気にならないくらい心臓が暴れ狂っていた。


 流れる汗を拭いながら、小学校の通学路を思い出す。


 汗が、冷たかった。


 昼休み、高校の教室で私の携帯を鳴らしたのは、弟の孝也が通う小学校の教頭を勤める男だった。


 孝也は、今日から修学旅行に行っている。そのはずだった。


『白石孝也くんの、保護者の方でよろしいでしょうか』


 そう切り出される男の言葉に理解が及んだ瞬間、心臓が凍りついた。


 曰く、山間部を走行していたバスが横転、崖下に落ちたとのこと。幸いにして軽症で済んだ生徒が大半であり、その迎えと保護者説明会への参加を求める電話だったが、


 孝也は、弟はどうなったんですか、


 しかし、数少ない重症者に引率の先生が含まれていて、学校側も状況を掴めていないようだった。


 持ち歩いているはずの携帯に、いくらかけても繋がらなかった。


 頼むから、お願いだから無事でいて、校門を通り抜け、マイクロバスが並ぶ校庭へ走る。そこかしこで親達と包帯を巻いた子供達が抱き合っていた。


 我が子を呼ぶ母親の声が聞こえた。


「姉ちゃん?」


 気がついたらもう、抱きしめていた。


「あ、ごめ・・・ッ、怪我は!?」

「見ての通り」


 今朝、見送ったばかりのチェックのフランネルにジーンズ、擦り傷ひとつ負ってないないように見える。


「だ、大丈夫なんだよね?」

「うん、全く全然問題なし」


 怒鳴り声が聞こえた。


「賢治っ、ねえ、賢治はどこ!?賢治!」


 そう言って男に縋りつく女、男は、たぶん、教員なのだろう。緊張に上擦った声の調子から、私に電話をかけてきたのと同じ人物だと分かった。


 青ざめ、緊張しながらも、どこか擦り切れた様子だった。


 孝也は目を背けるように俯いていた。


「賢治くんは、一番近い病院に搬送されまして、その・・・・・」


 永遠に近しい一瞬の後に、言った。


「・・・・・搬送先で、息を引き取ったと・・・申し訳ございません」


 女の漏らした「え」という声を聞いて、私は二人から目を逸らした。俯く弟の頭を撫でて抱き寄せると、逆にあやされるように背中を撫でられてしまう。


 生意気なやつ、弟のくせに、でも、その感触が冷えていた身体に暖かさを戻してくれた。その暖かさに顔を埋めながら、聞こえてくる嗚咽から意識を閉ざした。


※※※

あひゃ、あはあは、あははははっ!!


 脳髄が蕩けるような可笑しさに、ひたすら堪えきれない笑いを溢した。ああ、ダメだ、こんなの人に見られたら、気狂い認定待ったなしだ。


 でも、近くには誰も居なかった。


 見慣れた街並みの、ああ、ここは、


 父が飾られていたペデストリアンデッキだった。夕暮れ時、通勤や通学でそれなりの人が居てもおかしくないのに、人っ子ひとり見当たらなかった。


 記憶とは本人が鑑賞する限り過去となる。


 誰かに言われたのだろう。自分ではそんな小難しい言葉、思いつかないから、でも、唐突に浮かび上がったその台詞は誰の姿もない街ですっと私の心に馴染んだ。


 時間の流れが既知から未知に向かうものなのだとしたら、ここは未来の世界?


 ・・・・・・・、


 ・・・ダメだ、


 これ以上は考えてはいけないような気がした。


 ふらふらと、あてどなく彷徨う足は行先を探していた。交番にもお巡りさんの姿はなく、商業施設は滅多に見ないくらいガラガラで誰もいない。


 いつも通っているジムでサンドバッグを叩いてみたけれど、どうにも気分が乗らない。


 やがて、弟の小学校の通学路を辿り始める。


 そうだ、急に呼ばれてと思い出し、ああ、大丈夫だったんだと胸を撫で下ろすのを繰り返した。


 もしかして、これは夢か、


 通学路の途中でちらほらと人影を見かけた。話しかけてもろくに反応がなく、何故、自分がここに居るのか、自意識すら不確かなように思えた。


 みんな、夢を見てるのかな、


 やがて、小学校が近くなってきて、道端の縁石で膝を抱える少年を見かける。目が合ったような気がした。


「ねえ、きみ」


 少年は私を見上げて、やはり目が合っていた。他の人のように、どこかゾンビみたいな様子とも違う。ぼんやりはしていたが、瞳からははっきり意思の光を感じた。


「どうしたの?迷子?」

「・・・家、帰れなくなっちゃった」


 やはり迷子か、孝也と同じくらいの歳かも知れない。一緒に探してあげようか、と聞いてもふるふる首を横にふる。


「家、誰も居ないんだ、ここ、知ってる人誰も居ない」


 そりゃ、今さら迷子になるような歳でもないか、


 ぶるりと少年は身を抱えた。


「帰りたくねぇ、どこにも帰りたくねぇ、化け物が」


 ハッと私の目を見て、すぐに逸らす。


 化け物?化け物が、


「どうしたの?何があったの?」

「・・・どうせ、言っても信じないよ」


 どうしたものかな、敢えてにへらっと適当な笑みを浮かべながら「良いじゃん」と言葉をついだ。


「どうせ夢なんだから、うちの弟だって君と同じくらいだけど、夜とか一緒に寝てるんだから」

「・・・うわ、シスコンじゃん」


 ブラコンでもある、かも知れない。


「孝也って言うんだけどね」

「孝也?」


 弟の名前に反応する少年、私のお嬢様ルックを改めた様子でまじまじと見て、もしかしてと続けた。


「白石のお姉さん?」

「え?」


 そんな反応が返ってくるとは思わなかった。


「あいつ、姉ちゃんがお嬢様だって言ってたけど、マジだったんだ」

「・・・えっと、もしかして孝也のお友達?」


 少年は頷いた。


「去年も一昨年も同じクラス、俺、高木賢治って言うんだ」

読んでいただきありがとうございます。

次回は5/6(水・休日)20時更新予定です。

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