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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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死の大地?


城壁が普通の石造りな理由を考え込んでいると、スライが奇妙なことを口にした。


「なあライノ、全然関係ない事だと思ってたから忘れてたんだけどな。王家の谷には奇妙な点があんだよ」

「どんな?」

「サラサスを建国した王家の一族は、建国の戦いで死んだ兵や民達を慰霊するために、王家の谷に慰霊碑を作ったって言われてるんだ。いまも年に一度の慰霊祭で誰でも王家の谷に入れるのは、その建国時の(いわ)れがあるから、だそうだ」


「それって別に変じゃないだろ?」


「でも慰霊の対象は一般人も分け隔てなくだし、自国民だけじゃなくって当時の敵兵もまとめてだそうだぜ」

「それほど大勢が犠牲になったってワケだな?」

「変なのはそこだ。自軍も、敵軍も、この付近の農民達も、大勢が死んだはずだ。それをまとめて慰霊してるって話なのに、肝心の(いくさ)自体の様子は何も伝わってねえんだ」

「ん?」

「さっきの話じゃねえけど、そんな激戦なら敵にも味方にも色んな戦いの逸話が残ってるはずだろライノ? それこそ吟遊詩人の唄になるようなのがよ」


「ああ、そうか。スライの言いたい事は分かるな。大勢が死んだのに、残ってる話はただ『死んだ』ってことだけで、死に方って言うか経緯やら戦の内容はまるで伝わってない訳か?」

「そういうこったな」

「普通なら『大昔の話だから』って言いたいところだけど...」

「チョイ引っ掛かるよな?」

「敵兵さえも慰霊したくなるほど残虐な戦いなのに、その中身が伝わってないってのは確かに変だ」


「けどライノ、だったらさっきのスライ殿の話に戻るぞ? 毒ガスだろうが魔導兵器だろうが、それを向けられた側、大勢を殺された側には恨み辛みも含めて話が残ってるハズだろう?」

「そこもだよなあ、辻褄が合わないのはさ」


「じゃあ、敵味方全員死んで、何が起きたか知ってるヤツが一人も生き残らなかったとか?」

「うぉっ、無いとは言わないけどエグイな!」

「敵兵側にも生きて故郷に帰った奴が一人もいなかったんなら、戦の内容は伝わってねえだろうな...」

「それでも、ただ大勢が死んだ戦争だったと伝えられるだけになるかいスライ殿? 戦で死んだのならせめて、『恐ろしく悲惨な戦いだった』ぐらいは言われてそうなモンだけどな?」


「そこはアプレイス殿の言う通りだな...うーん、ひょっとしてアレか...」


スライがぼそりと呟いて考え込んだ。

なにか記憶に引っ掛かった事があるようだ。


「実は戦争そのものじゃなくってな...建国の戦いの最中に疫病が流行って、凄まじい数の民が死んだそうなんだよ。無論、兵隊だけじゃなくて女子供老人まで分け隔てなくだ」

「まさか...」

「そりゃあ戦争に疫病は付き物さ。実際アチコチで普通にある話だろ? 食い物もなくなるし、そこら中に死体が転がってるような状況になったら、いつ疫病が始まってもおかしくねえからな」


なるほど・・・考えてみると、俺は本物の『戦場』っていうものを見た事がない。

いまは大きな戦争なんて起きて無いけれど、地域紛争レベルの戦場にはスライも傭兵として何度か足を運んでるっぽいから、それなりに悲惨な状況は見てきているんだろう。

逆に、最近は大きな流行り病の話を耳にしなくなったのって、戦争が減ったからかもしれないな。


「ふーん、疫病ってのはそういうことで起きたりするのかスライ殿?」

「そんなもんだぞ?」

「俺達ドラゴンには病気って、無いとは言わねえけど縁遠いからなあ...怪我とか毒とか以外で死ぬってのはピンと来にくいんだよ」

「そいつは羨ましいぜ」

「で、疫病の話になる訳だなライノ。つまり敵も味方も大勢が死んだ疫病は、実は自然に起きた事じゃなくて、サラサス王家が何か原因になる事をしたんじゃねえかってコトだろ?」


「あんまり考えたくない可能性だけどね...」


「でも疫病があったワケだ。スライ殿の言うように大きな戦いがあったからその後に疫病が発生したのか、それとも戦いとは無関係に、ほかの原因で疫病が起きたのか?...」

「アプレイス殿、その原因って奴が、さっきライノが言ってた秘密兵器...瘴気だかヒュドラの毒ガスだか分からんけど、ソイツを王家がバラまいたって話になるんだよな?」


「だとしたら、サラサス王家ってのは人の心がなかったのかねぇ? まぁドラゴンの俺が言うのも変だけど」

「いやアプレイス、まだ決めつけられないと思う」

「でも可能性は高いぜ? そう考えると王家の谷に慰霊碑があるとか、周囲を城壁で囲ったって話も腑に落ちるしな!」


「いやいやアプレイス殿。仮にサラサス王家の仕業だとしたら、自分たちで殺しといてソレはないだろ?」


「でもスライ殿、例えばだけど俺達が南部大森林で高純度魔石を手に入れたみたいに、サラサスの初代王家が偶然、古代戦争の遺物を掘りだしたとする。で、調べた結果、そこらにバラまくだけで人を殺せる猛毒の魔道具だと分かった。もし戦争に負けそうになってる時だったら、イチかバチか使ってみたくなるんじゃねえか?」

「なるよな!」

「俺もそう思うよ」

「で、使った。ところがその効果は想像以上で、敵兵だけじゃなくて味方の兵から民草まで分け隔てなく大勢を皆殺しにしちまった...それでも王家の連中に少しでも良心ってモノが残ってれば、慰霊碑ぐらい建てたくなるんじゃねえか?」


「なるほどなぁ...そいつが慰霊祭の始まりって事か。まあ、ありそうな話だと思うよアプレイス」


「もしアプレイス殿の想像が当たってるとすればよ...怖くなった王家はその遺跡を封印し、万が一にも二度と毒ガスが外に出ないように周りを『池』みたいに城壁で囲ったとかか?...ひょっとすると王宮が城壁の玄関口にあるのは、自分たちが門番にでもなったつもりだったのかも知れねぇな」


「おぉ、確かにそんな感じもするなぁスライ」

「決まりだなライノ!」

「まだ決めるなよアプレイス...」

「いや、俺もアプレイス殿の意見に賛成だ。それにサラサス王家は昔の王位簒奪で代替わりしてるって言っただろ?」


「ああ、それで王位を簒奪した現王家は経緯や埋蔵物を知らずに、ただの伝統行事として年に一度の慰霊祭をずっと開き続けてるって訳か...」

「そんなとこじゃねえか?」

「うーん、仮にアプレイスの推理が正しいとして...絶対、表沙汰に出来ないよなコレ!」


「いろんな意味でな...もしアランが言ってたみたいにライノを陛下に紹介してたら、収拾が付かなくなってたかもな?」

「使おうとするかな?」

「今時点で使う相手はいねぇだろうけど、それでも自分たちのモノにしようとするんじゃねえかな? で、次にどっかと小競り合いでも起きた時にゃあ『歴史が繰り返す』ってぇワケだ」

「はぁー、ゾっとするよ...」


サラサス王家の始祖は、『なぜか』ソレを手に入れて使った。

自分たちの行いの結果に驚き、万が一の毒漏出を防ぐために慌てて城壁を建設・・・自らを門番と任じて城壁の玄関に王宮を建てた、とか?


背筋が寒くなるけど、確かにこの『ストーリー』であれば、慰霊碑の存在と鎮魂祭の始まった理由も説明がつくように思えるな。


ただし、まだ二人には言ってないけど、実はもう一つ辻褄の合わない事がある。


この王家の谷に何が隠されているとしても、それはマリタンのリストに載ってる『バシュラール家の財産』じゃないってことだ。

ヒュドラに絡んだものは全てバシュラール家が独占と言うか秘匿と言うか、外に出さなかったと思っていたんだけど、そうではなかったのかもしれない。


まあ今は、そこのところは考えても仕方がないか・・・不吉な想像に黙り込んでいると、不意にスライが眼下を指さした。


「おぅアプレイス殿、あれがサラサスの王都『ルリオン』だぜ!」


三人で王家の谷について推理を重ねている内に、あっという間にルリオンに到着していたようだ。

スライの指さす先には、石造りの建物が織りなす灰色の町並みがだだっ広く広がっている。

大きく広い街なのに全体に建物の高さが低い・・・いや違うな、塔や鐘楼の類いの高い建物が少ないせいで、街全体がのっぺりして見えるのだろう。


逆に言えば、市壁で区切られた街の中心部に背の高い建物が多くてゴミゴミしているのは、限りある土地をやりくりするためだと言っていい。

周辺の土地が広々していて、外へ外へと街を拡張して行けるのならば、わざわざ手間をかけて階層の高い建築に手を出す必要は無いからね。


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