墓所の由来
一体全体、その頃のサラサス王家は何を見せたくなかったと言うのか?
スライとアプレイスが、半ば面白そうに『有り得る可能性』を口にする。
「よっぽど貴重な遺物を掘り出すとか?」
「古代の魔導技術のナントカ、みたいな奴とかな?」
「それか、オリカルクムのインゴットがうじゃうじゃとか?」
「高純度魔石の山とかな!」
魔石サイロやバシュラール家と言う実例はあったし、他のどれもありそうな話だけど、それでも、何故そんなに広く囲う必要があったのかと言う疑問は残る。
単に『隠したいこと』の周りに『やぐら』でも組んで板壁で覆うとかだったら、費用も手間も時間も数千、数万分の一で済んだだろうに・・・
それが『見せたくない』だけってのは、やっぱり腑に落ちない。
「なあスライ、そもそも王家の谷と黒い石壁それ自体は、人に見られてもどうってこと無いモノのはずだろ? 城壁を建造した時には何百人とか下手したら何千人とかに見られてるし、いまだって慰霊祭では毎年公開してる訳だからな?」
「まぁそうだよな...」
「なんならイークリプシャン王家が使ったような『超兵器』って線もあるんじゃないかライノ?」
「そっちだったら、それはそれでキツイな...」
「なんだいそれ?」
「えっと、他の連中にはナイショにしといてくれないかスライ? シャッセル兵団とかノイルマント村の関係者とかにはな。ついでに言うとジュリアス卿と姫さまにも、まだ教えてない」
「おおぅぃ、そんな秘密を俺が聞いちまっていいのかよ!?」
「秘密って言うかさ、聞いたショックが大きすぎるんだよ」
「聞かない方がいいような気がしてきた...」
「ならそれでもいいけど、ここの王家の谷に何があるかを考える上での参考ではあるからな?」
「くっそぅ、気になるなぁ...やっぱりライノがいいって言うなら教えてくれ」
俺はスライに、ミルシュラント北部山岳地にある『エンジュの森』の埋もれた古代都市と『南部大森林』が何故ああいう場所になっているのか? を話した。
つまり、見えないほど遠くにある山を吹き飛ばした恐ろしい魔導兵器と、その暴走の結果として生じた火山の噴火についてだ。
「凄まじいな...山を吹き飛ばして街全体を埋めるとか火山を噴火させるとか...それホントに人がやったことなのか?」
「その時代に生きてた人の証言があるんだ」
「意味が分からん...分からんけどライノがそう言うならそうなんだろな」
「エルスカインってのは、古代のそう言う連中の残滓なんだよスライ」
「バケモノだな、文字通り」
「ああ、正真正銘バケモノ退治さ。問題は相手がただ強いだけでなく、狡猾で賢いってことだけどね...」
「聞かなきゃ良かったなんて思わねえけどよ、後方任務と思って戦場に行ったら、バケモノと正面から戦う事になってたみてえな気分だな!」
「今からでも降りるか?」
「馬鹿言うなよ。それでビビるくらいなら最初からライノの話に乗ってねえ」
「スライ殿は、王家の谷にそんな魔導兵器が隠されてるって可能性は、あると思うか?」
「つまり、それを使うために目隠ししたってか?」
「例えばな」
「どうかねえ?...この国は古いモンも結構残ってるけど、サラサス王国がそんな強烈な兵器を使ったって話は聞いた事がねぇな。確かにポルミサリア中が戦火にまみれてた四百年前の大戦争の時代ならサラサスだって色々あったはずだけどよ」
「だから、ずっと秘密にされてたんだろ?」
「いいやアプレイス殿。もしもそれが武器なら向けた相手がいるってぇことだぜ? 使った方が内密にしたくてもよ、使われた側、デカい被害を受けた側にゃあ何らかの話が残るだろうさ」
「そりゃそうか...」
「それに俺が知る限り、サラサス建国時の戦いって言うのは各地を支配してた豪族同士の勢力争いみたいなもんなんだぜ。最終的に『サラサス王国』って一つの国にまとまったけど、ポルセトとかトレンガルとか隣り合った国と戦争してた訳じゃねえからな?」
「だったら、なおのこと話が残ってないのは不自然だな」
「だろ?」
そこはスライの言う通りだな。
ミルシュラントも似たような経緯で建国したらしいけど、覇権を得た当時のスターリング家は、同盟関係にあった地方領主達へ配慮して『王』を名乗らず、あくまで『諸公たちの代表』という建て前で『大公』を名乗り始めたと言う話だった。
それも今では形骸化してるかもしれないけど、当時、大量殺戮なんかやってたら話の一つくらい残ってるだろうな。
もし、なんの話も残ってないとすれば、古代の世界戦争におけるエンジュの森側と南部大森林側のように『両方滅びた』か、単に年月が経ちすぎて『事実が風化した』か、だ。
これが凝結壁だけなら古代の世界戦争の遺物だと考えられるけど、聞く限り石組みの城壁は世界戦争よりも後の時代のものとしか考えられない。
どうも、話の辻褄が合わない気がする。
三千年前に途絶えた魔導技術や練金術で作られたナニかと、それ以降のごく普通の建築で作られた城壁が同時に存在しているワケだ。
それも偶然ではなく、古代の遺物を守かのように・・・
ここはシンプルに考えてみよう。
「なあアプレイス、例えばだけど、『超兵器』と言っても大量破壊とは限らないよな?」
「何も壊さないって、それ兵器なのか?」
「だから例えばさ。もしも使った事に『使われた側が気付かない』ような効果をもたらす兵器だとすれば、話に残ってないっていう可能性もあるんじゃないか?」
「でも兵器って言うからには人を殺すもんだぜ?」
「ああ。そんなものがあり得るかどうかはともかく、街を壊さずに人々だけ殺すような...言うなれば『呪い』みたいな兵器だな」
「ゾッとするね」
「言ってる俺だってゾッとしてるよアプレイス...でもそうだな...例えばヒュドラの吐く猛毒のガスみたいな?」
「そう来たか...ライノ、それも『当たり』だって予感がするぞ?」
「むしろ外れて欲しい推測だけどな。なあスライ、さっき『高低差に合わせて城壁を建ててる』って言っただろ。それって場所によって城壁の高さが違うって意味かい?」
「あぁ言い方が悪かったな。城壁の高さを場所によって変えてる。で、天辺の歩廊の高さを揃えてるんだよ」
「つまり谷って言うか低い土地には高い城壁、盛り上がった場所には低い城壁、で、同じ高さで歩廊がぐるりと一周していると?」
「そういうこった。歩廊に上がった事はねぇけどよ。あれなら通路をぐるっと一周歩いても平らな道を歩いてるだけだから疲れねえだろうさ」
「...スライ、その城壁って見方を変えると、池の周りを囲ってる堰とか柵とか、そんな感じに思えないか?」
「水漏れ防止かよ? どんだけデカい池を作る気だ! いやそれってもう『湖』だよな!」
「外に出ないように防いでるのは水じゃないだろうけどな?」
「毒ガスか...」
「毒ガスって、瘴気の事かアプレイス殿?」
「そんなもんだ」
「つまりその城壁は、猛毒の瘴気が外の土地に漏れないように防いでたって訳だな?」
「それならつじつまが合う気がする」
「マジかい!?」
「マジだ」
「いやライノ、そうだとしても時代が合わないって事は変わらないぞ? ヒュドラの毒ガスを封じ込める城壁なら凝結壁を使って当然だろ」
「それはそうなんだけどなアプレイス...ホントにヒュドラの毒ガスかどうかは分からないけど、そう言う類いの毒とか瘴気とか...風に乗って広まるような...それだったら堰堤を周りに築いて防ごうとしたって言うのも納得出来る気がするんだ」
「ふーむ...」
アプレイスが考え込んだ。
彼は俺と一緒に、ヒュドラに触れた瞬間もだえ苦しんで死んだホムンクルスの姿を見ているから実感がある。
逆にスライにとっては、その毒の強烈さがピンと来ないのか、ちょっと不思議そうな表情を見せてるな。
それにしても、ヒュドラの毒を扱うことが出来て・・・つまり、古代の魔導技術の流れを手にしていたのなら、凝結壁を使わないはずが無い。
俺だって広範囲に毒ガスを囲い込みたいなら、マリタンに頼んで凝結壁で壁を立てるってのは思いつく。
逆に、そう出来ない理由が『凝結壁を作れない』からだとすれば、ヒュドラの毒を扱えてることの帳尻が合わない。
だって凝結壁の材料は何処にでもある砂の類いなんだから・・・うーん、思考が堂々巡りだ。




