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オスカーの妃になり、辺境地を訪れてから数週間が経った。
エリシアは古城の一室をもらい、そこに閉じこもるようにしてずっと過ごしている。
オスカーは何をしてもいいと言っていたが、何をすればいいのかわからなかったのだ。
エインズワース伯爵家にいた時、エリシアのすべては父と母に決められていた。
何を着るも、何をするもすべて。
だから何をしてもいいと急に自由を与えられても、何だか放り出されてしまったようで途方に暮れてしまったのだ。
「失礼致します」
「どうぞ」
ふと扉が軽くノックされて応えると、侍女がしずしずと入ってきた。
その腕に携えているのは一冊の本と薔薇の花だ。
「どうぞ、こちらは第一王子殿下からの贈り物でございます」
「第一王子殿下から……」
侍女から本を受け取れば、それは少しずしりと重い冒険譚だった。
少し古びたハードカバーの表紙を眺めている間に、侍女は薔薇の花を一輪挿しへと生ける。
冷たく無骨な作りの部屋ではあるが、花が生けられるだけで少しだけ雰囲気が軽くなるような気がした。
「何か他に必要なものがあれば、何なりとご用命くださいませ」
「ええ……ありがとう」
丁寧に礼をする侍女にそう告げ、エリシアは本を携えたまま窓辺近くの椅子へと腰掛ける。
オスカーからの贈り物だという本をめくる。
「……手紙」
本の表紙を開いてすぐのところに挟まる手紙にエリシアは怪訝に眉をひそめ、手紙を開く。
『我が妃 エリシアへ』
そんな文言から始まる手紙はオスカーからのものだった。
『城の庭師が懇切丁寧に育ててきた薔薇が最近ようやく花を咲かせたんだ。もし気が向いたら見に来るといい。
こんな辺境地の花は王都の庭園にあるものに敵わないと思うかもしれないが、案外いい勝負をしていると思う。君の目を楽しませ、心の慰めになるのなら庭師も喜ぶ。
それから侍女に持たせた本は俺が気に入って読んでいた冒険活劇だ。
色気のないチョイスだと部下から叱られたが本当に面白いんだ。君の趣味に合うかわからないが、もし興味を持ってくれたなら嬉しい』
そんな文面に、エリシアは困って分厚い本へと視線を落とす。
ここに来て、オスカーは何かとエリシアのことを気にかけてくれた。
このような手紙も何枚かもらった。
けれどもどう返答していいかわからず、彼に返答すること自体が正解なのかもわからずに結局無視をする形になってしまっている。
結局エリシアは今回も返事をかけず、ただ贈られた本のページをめくることしかできなかった。
オスカーのお気に入りだという冒険活劇は、確かに少年が心を弾ませて読むような内容だった。
エリシアの母親だったら「こんな低俗なもの」と眉をひそめてしまうようなものを第一王子という立場の男が気に入って読んでいた、ということがとても不思議だった。
でも、気がつけばエリシアは冒険活劇を夢中で読み耽り、心を弾ませてしまっていた。
「………こんなに低俗なのに……」
自分に言い聞かせるように呟いた言葉は小さい。
こんなもので心を弾ませた自分を恥じながらも、それでも第一王子の推薦図書だからと読み耽るのはなんだか悪い子になった気分だった。




