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「だから! 我々はエリシアの親だぞ! どうして娘の結婚式に出られない!?」


 感情任せの怒号にエリシアは思わず首を竦めた。

 王城の入り口で門番に阻まれた顔はやはりエリシアの想像していた通りのものだった。


「招待状のないものをお通しするわけにはまいりません。どうかお引き取りを」

「ええい、お前じゃ話にならん! 責任者を呼べ! まったく、王族の身内になる我らになんて仕打ちだ、覚えていろ。お前などクビにしてやるんだからな!」


 慇懃に対応する門番へ居丈高に怒鳴るのはエリシアの父、エインズワース伯爵だった。

 彼の隣には母であるエインズワース伯爵夫人もいて、父親と同じように門番をうんざりと睨みつけている。


 二人の姿にエリシアは喉の奥がひきつれて体が強張るのを感じた。

 かつて頭の中にもいてエリシアを縛り付けていた二人はオスカーや王妃たちのあたたかい言葉で消え去っていたと思っていたのに、実際に彼らの姿を目の当たりにするとかつて彼らに唯々諾々と従うしかなかった自分を思い出して凍りつく。


 あの時の自分とは違うはずなのに。変わったはずなのに。

 なのに父親と母親の姿は呪いのように自分をまだ縛りつける。


「--エリシア!」


 見つかった。


 凍りついて動けなくなっていたエリシアを見て父親が一歩踏み出そうとして左右から交差させた門番の長槍に阻まれる。

 それでも父親は身を乗り出すようにエリシアへと怒鳴った。


「何をしている、お前からさっさとこいつらに説明しろ! 我々がお前の実の父と母なのだとな! 両親に招待状も書かないとは本当に非常識な恥知らずだがそのくらいはできるだろう!」


 父親の怒号にエリシアは凍りついた喉で声を絞り出そうと試みる。

 けれども声は何ひとつ言葉にならずにひゅうひゅうとか細い呼吸を繰り返すばかりだ。


「まったく少しでも目を離すとこうだわ。再教育が必要ね。大体何なの、その下品なドレスは。そんな軽薄な格好で出歩くなんてエインズワース伯爵家の恥よ」


 目に痛いほど毒々しい真っ赤なドレスを着た母親がため息をついた。


 エリシアが今纏うドレスは披露宴のためにあつらえた、春の訪れを知らせる柔らかな風のような輝くエメラルドグリーンのドレスだ。

 オスカーが「俺の色に染まったみたいだ」と笑んで贈ってくれたドレスだというのに、母親の言葉で彼の気持ちまで泥で汚された気持ちになった。


「エリシア、何をしている! 早く我々を中に入れないか、このグズが!」

「エリシア、聞いているの!? 返事くらいしなさい!」


 ガミガミと怒鳴る父親の声が、キンキンと甲高い声で詰める母親の声がエリシアを追い詰めようとする。

 彼らの勢いにエリシアは一歩足を退きかけ、けれども自分を望み、信じてくれたオスカーや王妃たちの姿を思い出して背筋を正して両親を真正面から見据えた。


「お引き取りください。あなた方が何故結婚の式典や夜会に呼ばれなかったか、わからないのですか」


 初めてエリシアが口答えするのを聞いて、父親が反射的に拳を振り上げてエリシアへと詰め寄ろうとして門番に止められる。

 激昂する両親は恐ろしいが、エリシアは震える体を奮い立たせて努めて冷静に彼らへと告げる。


「本来ならあなた方もお呼びするはずでした。けれどもそれができなくなったのはあなた方の行いのせいです」

「何だと……! 親に向かって何という言い草だ!」

「自身の行動を省みてください!」


 父親の怒号に負けじとエリシアは一喝する。


 オスカーが人間へと戻った後。この日の準備をする最中で父親と母親の甚だしい厚顔無恥な振る舞いを聞いていた。

 オスカーが怪物だった頃にはエリシアのことを一切心配する素振りも見せず、便りもなかった両親はオスカーが人間に戻り立太子するとお触れが出た瞬間から「うちの娘が王太子妃として嫁いだ」と声高に自慢するようになった。


 それだけならまだいい。

 だが彼らはまるで自分も王族になったかのように方々の家々に対して居丈高になり、身の丈に合わない生活をし始めてあちこちに借金を作った。

 王族の威を借りるような恫喝をし、利用した店で金銭を払わないこともあったようだ。


 そして何より極めつけはエインズワース伯爵家の寄親であり、国王の従兄弟が預かるバルトレイ公爵家へと無礼を働いた。

 いくら怪物だったとはいえ、オスカーは第一王子。身分を釣り合わせるため、エリシアはオスカーに嫁ぐ際にバルトレイ公爵家へと養子入りしていた。

 両親はそのことをやけに恩着せがましく「王太子妃となる金の卵を我々がそちらに譲り渡したのだから」と言って借金精算のための金を強請ろうとして、バルトレイ公爵を怒らせた。


 それを聞いた時、エリシアがどれだけ恥ずかしく、生きた心地がしなかったことか。

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