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 それからエリシアはオスカーと共に王都へと戻った。


 人間の姿に戻ったオスカーと対面した王妃は涙ぐみ、彼の元へと駆け寄ってオスカーのことを力いっぱいに抱きしめた。

 それ以上に喜んだのはオスカーの弟のエドガーだ。母親以上に顔をくしゃくしゃにして兄の元へと走った。

 国王もいつもはいかめしい顔を緩め、オスカーの帰還を喜んだ。

 王族だけではない。王城の全ての人がオスカーの帰還を喜び、快哉の声を上げた。


 そして、その祝いの式典はすぐに催された。


 オスカーが人間に戻ったこと。同時に立太子すること。そして彼を支えた伴侶との結婚式を祝う式典は大々的に催され、エリシアは数多の国民から祝福される幸せに胸がいっぱいになった。


 けれどもその一方で。


「嫌ね、どう取りいったのかしら」


 結婚式後、披露宴を兼ねた夜会で聞こえたひそやかな声にエリシアは思わず背を竦ませた。

 思わずとそちらに視線を流せば扇で口元を隠した令嬢がこちらを伺いながら密やかに囁き合っている。


「どこからどう見ても釣り合っていないというのに、なんていう身の程知らずなのかしら」

「前の婚約者がエーヴェルシュタインの姫君だったでしょう? 比べるとやっぱり、ねえ」


 悪意を滲ませた囁き。

 前のエリシアであったらそれを聞いただけで間違いなく傷つき、挫けていただろう。


 だが今は、


「エリシア」


 肩を抱くオスカーの手の逞しさにエリシアは彼を見上げて微笑んだ。

 彼の手のあたたかさがエリシアを支えてくれている。

 だからエリシアも彼のあたたかさに応えるように肩を抱くオスカーの手に自分の手のひらを重ねた。

 大丈夫だと気持ちを込めて。


 そして囁き合う令嬢たちへとまっすぐと目を向けた。


「ご機嫌よう、バルバンデス侯爵令嬢。ディードランド伯爵令嬢。エッシェンバッハ伯爵令嬢」


 エリシアに名前を呼ばれた令嬢たちがびくりと体を竦ませる。

 そんな彼女たちへエリシアはにこりと微笑みかけた。


「本日は殿下と私の結婚披露宴にいらしていただき、ありがとうございます。どうか心ゆくまで楽しんでいらしてね」


 エリシアの言葉に彼女たちは先ほどまで嗤って陰口を叩いていた勢いはどこへやら。

 しどろもどろに「おめでとうございます」とエリシアへ答え、互いに視線を交わし合っていた。

 エリシアはおどおどとする彼女たちに笑顔だけ置いて、オスカーと共に次の挨拶へと向かう。


「エリシア、君は本当に強くなったな」


 と、ふとオスカーにそう言われてエリシアは少し早くなっている鼓動を上から抑えるように胸元に手を置いた。


 自分でもあんな風に返すことができるとは思わなかった。


 けれども王妃が教えてくれたのだ。

 陰でこそこそと嫌味を言う輩は自分が認識されていないと思って好き放題ものを言う。だからこそ名前をしっかり呼んで笑って差し上げなさいと。


 王妃の言う通りに実践しただけだが、本当に効果てきめんだった。


「王妃様の教育のお陰です。それから……殿下がそばにいてくださったから……あなたが私を妃と認めてくださったのに縮こまるなんて恥ずかしいことをしたくなかったのです」


 そう告げるとオスカーは一度目を丸くし、それからクッと喉を鳴らして顔を綻ばせた。


「可愛いことを言うな、エリシアは」


 そうしてエリシアの額に唇を落とし、エリシアは真っ赤になってオスカーの胸を軽く叩いた。

 だがオスカーはそんなエリシアの照れ隠しの抵抗をものともせずにエリシアの体をぎゅっと抱きしめる。


「ああ、まずい。披露宴が終わるのが待ちきれないな。今すぐ君と愛し合いたい」

「殿下!」

「はは、わかってるよ。それはまた後で、な」


 オスカーの言葉にエリシアは真っ赤になったままドンとオスカーの胸を強く叩く。

 それでもオスカーは楽しそうにエリシアの耳元で甘く囁くのだからエリシアは恥ずかしさのあまりに両手で顔を覆った。


 と、その時だった。


「オスカー第一王子殿下」

 ふと警備に当たっていた兵士がオスカーの元へと来て、彼にだけ聞こえるようにそっと耳打ちをする。

 その耳打ちにオスカーは軽く眉をひそめ、それから小さくため息をついた。


「あの……何か問題でも?」

「ああ。でも大したことじゃないよ。エリシア、悪いが母上のところで待っていてもらえるか? 問題を片付けたらまたすぐに戻るから」


 オスカーはエリシアへとそう笑いかけ、そしてすぐに兵士を伴って夜会会場を後にする。

 エリシアはその背を見送り、それからオスカーに言われた通りに王妃の元へと向かおうと会場を見回した。


 王妃の姿はすぐに見つけられた。

 国王と共に煌びやかな貴族たちに囲われているというのに、彼女はやはり一等星のように一際存在感があった。


 彼女の元へと向かおうと一歩を踏み出した時だ。


「--ねえ、聞いた? 王太子妃殿下の身内を名乗る輩が城の外に詰めかけているそうよ」


 ふと聞こえた言葉にエリシアは凍りついていた。

 振り返れば侍女たちが顔をしかめ、ヒソヒソと噂を囁き合っている。


「表の騒ぎってそれ? 嫌ね、招待状もないのに夜会に出席できるわけないのに……」

「そこまで常識がないってことね。王城で騒ぎを起こすなんて恥知らずもいいところだわ」


 そこまで聞いてエリシアは行き先を迷った。

 オスカーの言う通りに王妃の元で待っているのが正しいのだろう。


 だがその話を聞いてしまった以上、エリシアは踵を返した。

 おそらく侍女の話に出てきた自分の身内はきっと自分の想像している人たちだろうから。

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