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「ありがとう、俺のお喋りに付き合ってくれるんだな」

「……オスカー第一王子殿下の居所を知りたいだけです」

「はは、それでも嬉しいよ。それにしてもオスカー第一王子殿下はどうやら随分と君に好かれているらしい」


 からかうような物言いにエリシアは自分の気持ちを侮辱されたような気持ちになってムッとした。

 思わずキッと彼を睨みつけるが、男の笑みは消えない。


「君は彼のどこがそんなに好きなんだ?」

「どこって……」


 男の問いにエリシアは言い淀んだ。

 言葉をまとめるように少しの間思い悩むと、顔を上げて男の顔を真正面から見据えた。


「すべてです」

「すべて」

「あの方の優しい眼差しが好きです。たくさん笑って、たくさんの人を笑顔にする顔が好きです。色んなことを話してくださって、どんな話でも聞いてくださるところが好きです。私に真剣に向き合って、長い道のりを共に歩もうとしてくださったあの方が好きです」


 そう告白するエリシアに男がぱちくりと瞬いた。

 言葉を重ねれば重ねるほどにエリシアはオスカーへと想いを改めて自覚して、頬が赤くなった。


「そうか」


 それでも目の前の男の美貌を見るとその想いがほんのわずかに揺れるのがとても悔しく思った。

 柔らかく微笑む男の顔が甘やかな顔で人の心を奪う悪魔のように見えてくる。


「こんなに妃に思われるオスカー第一王子殿下は果報者だ。でも君、彼は人間に戻ったって聞いてるかい?」

「はい」


 だから自分は舞い戻ってきたのだ。彼を迎えに。

 いまだ男を警戒するように固い声で答えるエリシアに男は意地悪を言うようにこう続けた。


「彼があまたの貴族淑女を狂わせるほどの美貌を持っていたってことは知っているか? 彼はそのせいで前の婚約者に呪いをかけられたって」

「……噂には聞いています」

「そう、じゃあ彼女が陰口や嫌がらせを受けていた話は?」


 まっすぐと射抜くように向けられたエメラルドグリーンの瞳にエリシアは戸惑った。

 彼の問いに首を横に振れば、彼は「そうか」と頷いた後、こう続ける。


「彼女はね、オスカー第一王子殿下の妃という立場を妬まれ、色々なことを言われたんだよ。些細な仕草や発言をあげつらわれ、隣国の作法との違いから間違ったことをして笑われたり。それだけならまだしも勘違いをさせるようなことだって吹き込まれた。“第一王子殿下は昨晩誰と一緒にいたんでしょうね”と言うような、ね」


 彼の語り口にエリシアは言葉を返せない。

 その時の彼の婚約者--クラリスの気持ちを思うとどう答えるべきかわからなかった。


「もちろんそういう人たちは一握りで、彼女に好意的なものたちも多くいたよ。でも数多の好意よりも些細な悪意の方が大きく聞こえるものだ」

「…… ……………」

「オスカー第一王子殿下はそんな悪意から婚約者を守りきれなかった不甲斐ない男だ。きっと君のことも守り切れない」


 薄く微笑む綺麗な顔はエメラルドグリーンの瞳だけ笑っていなかった。

 ただまっすぐ、真摯にエリシアを見つめている。


 だからだろうか。こちらのことを小馬鹿にするような物言いなのに不思議と敵意というよりも優しさに溢れているような気がした。

 男の美しさに惑わされていた心臓が落ち着きを取り戻す。


「そんな情けない男について、傷つく未来に突き進むなんて馬鹿らしくないか?」


 男の言葉にチリリと火花が散るような苛立ちを覚えた。

 エリシアは微笑む男の顔を睨みつけ、彼に一歩詰め寄った。


「どうしてあなたがそんなことをおっしゃるのですか。オスカー第一王子殿下はとても素晴らしい……私にとって大切な方です。そのような方を情けないだなんて貶めないでください。たとえ()()であっても許しませんよ」


 そう告げれば、男が--オスカーが眉尻を下げて苦笑をした。


「ああ、ようやく気がついたのか」

「殿下、どうして他人の振りなどなさったのですか」

「エリシアがまるで気づいていないものだから、少しからかいたくなったんだ」


 非難するエリシアへオスカーがそう笑って告げる。

 そんな彼を疑うようにジィッと睨みつけていれば、彼はやがてエリシアからそっと視線を背けるように目を伏せた。

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