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「--…………」


 そこにいた人に思わず声を失う。

 図書室の明るい窓辺でひとりの男が本を読んでいる。


 すらりとした長い足を組み、真剣に本を読み込むその男は途方もない美丈夫だった。

 まるで巨匠の描いた絵画のような光景。

 彼が指先で奏でるページをめくる音すらもため息を漏らしてしまうような音に変える圧倒的な美は、いっそ暴力的なほどにエリシアの目を囚えて離さなかった。


 エリシアは声も忘れ、自分がここに何しに来たのかも忘れて呆然と男に見惚れる。


 そうしてどれだけの時間が経ったのか。


 ふと本を読み込んでいた男のエメラルドグリーンの瞳がそっとエリシアの方へと流れた。


 思わず心臓が跳ねる。

 彼はエリシアの姿を捉えるとほんの少し驚いたように目を見開き、けれどもそれからすぐにその美しい顔にほんのりと笑みを浮かべた。


「ご機嫌よう」


 耳障りのいいテノール。涼やかに通り抜ける声にエリシアは咄嗟に答えることができなかった。


「そんなところで何をしているんだ? 散歩にしてはそこは何もない場所だろうに」

「あ……いえ、その……人を、探しにきて……」

「へえ、人を。誰を探しているんだい?」

「殿下……オスカー第一王子殿下を……」


 問われるままにエリシアはか細い声でモジモジと答える。

 その返答に男がく、と喉を鳴らして笑った。

 その笑顔があまりにも人好きのする笑顔でまた心臓が高鳴る。


「オスカー第一王子殿下か」

「あ、あの……図書室にいると伺って……見かけておりませんか?」

「俺は見かけていないな」

「そ、そうですか……」


 男の返答にエリシアは俯き、ドキマギと動揺するように鳴る心臓を押さえ込むように胸元を握りしめた。

 オスカーのことを好きだったはずなのに、ただ美しいだけの男に目を奪われてドキドキと心臓を高鳴らせている自分があまりにも不誠実のような気がした。


 これ以上、この男の美しさに動揺させられたくなくて、エリシアはこの場から去ろうと踵を返す。


「待って」


 そんなエリシアを涼やかな声が呼び止める。

 彼を振り返るのは少し勇気が必要だった。

 深呼吸をひとつし、気を強く持って彼を振り返る。


「もう少し俺とお喋りをしてくれないか」

「お喋りって……」


 図書室の窓に肘をついて軽く身を乗り出した男の言葉にエリシアは眉をひそめた。


 早くオスカーのことを見つけたいのに。

 それにこの男にこれ以上動揺させられ、心をかき乱されたくない。


 そう思うのに、


「少しでいいんだ。もし付き合ってくれたらオスカー第一王子殿下がどこにいるか教えよう」

「……でもあなた、さっき見かけていないと」

「うん。でも俺は彼がどこにいるかはわかるんだな、これが」

「ーー………………」


 男の言葉にエリシアは逡巡する。

 だが固い表情のまま彼に向き合った。


 お喋りに付き合うと向き合ったエリシアを見て男がにっこりと笑んだ。

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