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 ガラガラと馬車の車輪が回る。


 悪路を行く馬車に乗ったエリシアはぼんやりとオスカーに嫁いだ時のことを思い出した。

 あの時も自分は同じように手のひらを組み、力を込めていた。


 けれどもあの時と心持ちはまるで違う。

 あの時はまるで見通せない未来が暗闇のようで、自分が不幸になるのだろうとしか思えなくてとても不安だった。

 死地に赴く生贄のような気分で憂鬱だった。


 今はどうだろうか。


 オスカーに会える。愛おしい人に久しぶりに会えることはとても気持ちが湧き立って、とてもドキドキした。

 そればかりか、彼はついに呪いから解放されて元通りの生活が送れるようになることが我が事のように嬉しい。


 けれどもその一方でわずかな不安があるのも確かだ。


 何せエリシアは怪物であったオスカーしか知らない。

 彼が人間に戻った時、彼との距離感は怪物であった時と変わるかもしれない。その時に自分が上手く対応できるかがわからない。


 生活だって彼が人間に戻れば今まで古城で過ごしてきた日々とは一変するだろう。


 何がどう変わるかわからない未来とはやはり怖いものがあった。


 エリシアが歓びと不安で胸をいっぱいにしていると、やがて馬車が緩やかに速度を落として停まった。

 馬車の扉が開き、目の前にあの要塞のような大きな古城が聳え立っていた。


「おかえりなさいませ、エリシア様!」


 古城の兵士がエリシアの姿に明るい声を上げた。

 いつもよりもどことなく明るい雰囲気に、この古城の人々もオスカーが元の姿に戻ったことに湧き立っていることが知れた。


「ただいま戻りました。あの……オスカー第一王子殿下は……?」

 兵士のエスコートを受け、古城に踏み入れたエリシアはおずおずと尋ねる。


「今でしたら図書室におられるかと。サロンでお待ちになられますか?」

「いえ、私から赴きます。ありがとう」


 エリシアは兵士にそう告げ、勝手知ったる古城の中を進んだ。


 図書室までの道のりが遠く感じる。

 彼と会う時にどんな顔をしよう。なんて声をかけよう。


 そんなことを考えながら足を進め、やがてエリシアは古城の裏側。外から図書室を覗くことのできる庭先に辿り着いた。


 そこに大きな姿はない。

 もしや移動してしまったのだろうか、とエリシアは首を傾ぎ、それから彼が人間に戻っていたことをハッと思い出して顔を赤らめた。


 人間に戻ったのだからオスカーがわざわざ図書室を外から覗くような真似をする必要はないのだ。


 エリシアは自身の思い至らなさを恥ずかしく思いながら踵を返そうとして、ふと窓の外から図書室の中へと視線を向けた。

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