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「急にこちらに呼び寄せることになったにも関わらず、すぐに来てくれてありがとうね、エリシアさん」


 久しぶりの王都。

 辺境地とは違う華々しい都市の中でも最も高貴で美しい王城。その一室にエリシアはいた。


 窓辺から差し込む柔らかな光を浴びて微笑む目の前の王妃は相変わらず星のように美しかった。


「いえ……私こそ王妃様じきじきに教育をしていただけるなど光栄に存じます」

「いいのよ。あなたの教育を他の誰かに任せることは私が嫌だっただけなの」


 そうして王妃はあたたかな茶をエリシアへと勧める。

 王妃に勧められるがまま、エリシアが茶を一口含めば口の中いっぱいにお茶の香りが広がり、鼻の穴から抜けた。


「……本当はオスカーが元に戻って、一緒に帰ってくる頃に始めればいいと思っていたのだけれど、ちょっとそうも言っていられなくなってきてね」

「それは……どういう……?」

「あの子がかつては王太子という身分だったことは知っているでしょう? けれどあの子が呪われて辺境地に送られてからその身分は宙ぶらりんになった」


 王妃は言う。

 オスカーが呪われた今、その身分はオスカーと彼の歳の離れた弟エドガーとの間で揺れている。

 呪いは解けるかわからない状態だったため、今までは弟にその身分が譲られるのも時間の問題だった。

 しかし今、まだ王位継承者はオスカーかエドガーかと揺れる最中にオスカーの呪いが解けるという吉報がもたらされたことで分は大いにオスカーに傾いた。


 そうなると彼の妃という身分は次期王妃となる。

 そのために色めき立って彼の妃の身分を狙うものが現れ出した。


「ちょっとした騒ぎよね。あなたは王子妃となってからすぐに辺境地にそのまま送られてしまったから、オスカーの妃としてさほど名前も顔も知られていない。それなら挿げ替えても大きな騒ぎにならないだとか、無名の家の小娘よりもうちの家の方が後ろ盾として優秀だとか色々と言い出す輩も現れてね」

「そんな……」

「だからあなたを王都に呼び戻したのは教育という名目だけれど、実際は根回しのためね」

「根回し……」


 王妃の言葉に思わず顔を曇らせる。

 何かをしなくてはオスカーの妃の座を引き摺り下ろされるとわかったが、そこで何をするのか。何をさせられるのかわからず不安になったからだ。


 だが王妃はエリシアの不安を察したようにただ微笑んだ。


「そう難しく考えなくていいわ。私と一緒にいて、オスカーの妃だと堂々としていてくれればいいの。王子妃や王妃が何をするか、どう振る舞うべきかも私が教える。そのための教育係よ。それともエリシアさんは私が指南役では不安かしら?」

「そんな……! とんでもございません」


 王妃の微笑みにエリシアは慌てて首を横に振る。


「とても心強いです、王妃様」


 エリシアがそう言って頭を深く下げれば、王妃は穏やかな微笑みを返してくれた。

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