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「さあ……どうなんだろう。愛する努力はしていた、かな」

「愛する努力……」

「……俺は婚約者を選べる立場ではなかったんだ。最近は貴族にも自由恋愛の風潮も広がりつつあるけれど俺は王子だからね、やっぱりどうしても大きな権力と国益というものが絡んでしまうから」


 そう笑うオスカーを気遣うように見れば、彼はそれでもエリシアに笑みを返した。


「でもクラリスは良い子だったよ。彼女は……そうだな。お姫様らしい子だった。素直で天真爛漫で、笑うとパッと周りが華やぐようなお姫様。感情表現がストレートでね、わかりやすいのが面白くてついついからかいすぎてしまうこともあったな」


 オスカーの声は終始優しく穏やかなものだ。

 その声に慈愛が込められているのを感じて、エリシアは胸の奥がほんの少しチリリと焦げつくような感覚がした。


「彼女の良いところをひとつひとつ探して、ここが好きだなを積み重ねて、彼女のことを愛そうとはしたよ。その結果がこれなわけだけれどね」


 オスカーが自嘲するように怪物と化した姿を示す。


「悪いことをしたと思うよ。俺は結局彼女を不安にさせたまま、それを払拭することができない愛しかあげられなかったわけだ。彼女をもっと情熱的に愛せればこうはならなかったんだろうけれど」

「そんな……」

「いいんだ、エリシア。だって俺はこう言えてしまう薄情な男だからね。“今の妃は君だ、エリシア。今、俺が向き合いたいのは君だよ”」

「ーー……………」


 オスカーの言葉にエリシアは押し黙る。

 その言葉で当時クラリスに与えられていたオスカーの愛情が今、自分に向けられているのだと示したのだ。


 今、彼は自分を愛そうとしてくれているのだ、と。


「…… …………」


 その言葉がゆっくりと自分に染み入るのを待って、エリシアはゆっくりとオスカーを見上げた。

 優しい眼差しはいつもと変わらない。けれどもその奥に傷ついた彼の心が薄く透けている気がして、エリシアはそっと手を伸ばす。


「………っ?」


 オスカーの手に触れる。

 自分の両手では彼の片手だけでもまるで包めはしなかったけれども、それでもエリシアは必死に彼の手を包んだ。


 あの時、自分の手を包んでくれた王妃の手のひらを思い出しながら。


「殿下は薄情ではありません。十分にクラリス第四王女殿下を愛されています。だってそうでなければそのように後悔などなさるはずがありません。殿下はとても愛情深いお方です。その愛がとても穏やかであたたかく、当たり前のように包み込んでくださるからこそ、そうとわかりにくいだけで」


 真摯に訴えるエリシアをオスカーはただ見つめ返す。

 ぎょろぎょろとした怪物の瞳をまっすぐと見つめて、エリシアは続ける。


「……私はそのようにあたたかく、愛情深い殿下に向き合いたいというお言葉をいただけて、とても嬉しく思います。私はあなたの妃になれて……あなたに愛してもらえて、とても幸せ者です」


 そう必死に続けるエリシアをオスカーはしばらくジッと見つめていた。

 だがやがて戸惑うように瞳を揺らし、それからエリシアに握られた手とは逆の手で自分の口元を覆った。


 そっと視線を背ける仕草はどこか動揺しているようだった。

 照れているのかもしれない。そんなことをふと思えば、急に彼の照れが移されたようにエリシアもドキドキして顔を真っ赤にして俯く。


 それでも彼の手を離すことはしなかった。


「………そう、か」


 やがてオスカーが頷いた。


「…………俺も、君のような妃を迎えられるなんて果報者だ」


 ひとつひとつの言葉を選ぶようにオスカーが言う。

 その声音はいつもの低くひび割れたものだったけれど、どこか慎重で、エリシアが渡したものを壊さないように触れるような響きをしていた。


「ありがとう、エリシア。君の手はとてもあたたかいな」

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