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 王妃が王都に帰ってから数週間。


 エリシアは王妃との話が頭から離れず、オスカーを注意深く見るようになった。

 だが彼の様子はいつもと変わりない。


 よく笑い、とても朗らかに過ごしている。

 とても王妃が言うような弱さが彼の裏側に隠れているのを見つけられなくて、少し歯痒い気持ちだった。

 自分では彼の弱音を引き出すには力不足なのかもしれない。


 彼を支える妃として不足しかないことを王妃に詫びる手紙を送れば、彼女はすぐに叱咤の手紙を返してきた。


 曰く『二十三年も彼の母親をやってわかるようになったことを出会って一年も経たない娘に見破られたのなら自分の立つ背がない』とのこと。


 焦らなくていいからゆっくりと地道にあなたたちらしい関係を作り上げてくれればいいと綴られた手紙をエリシアはつい何度も読み返した。

 叱られているのに胸がポカポカすることがあるのだと初めて知った。


 王妃の手紙に綴られた言葉から王妃がエリシアのことをあたたかく見守り、真っ直ぐと言葉を届けてくれているとわかるからだろうか。


「エリシア様、そろそろ外出のお時間になります」

「ありがとう、今準備します」


 と、王妃の手紙を読み返しているとミレイユに呼ばれた。

 エリシアはその声に王妃からの手紙を文箱に大切にしまうと彼女の元へと向かった。


 少し遠出でもしないか。


 オスカーにそう誘われたのは数日前だった。


 どうやら彼はこの辺境の地でずっと古城に缶詰になっているエリシアを気にかけ、気詰まりにならないように外に連れ出そうと計画してくれたらしい。


 その気持ちが嬉しくて、エリシアは二の句もなく頷いた。


 お出かけ、というものがここまで心躍るのは初めてだった。

 エインズワース伯爵家にいた頃のお出かけはたいてい母親の知り合いの茶会や父の仕事関係の人間がいる夜会だった。

 そのために失礼がないようにといつも気を張り、体が強張るものばかりだった。

 何せ粗相でもすれば家に帰った後で父も母も鬼のように怒り狂うのだ。


 だからエリシアにとってお出かけとはいつも身を縮めて何事もなく早く時間が過ぎて欲しいと願うものだったのだ。


「エリシア様?」

「……! ごめんなさい。少しぼーっとしてしまったわ」


 エインズワース伯爵家にいた頃とは違う、心躍るお出かけをするというのにエインズワース伯爵家のことを思い出して重たい気分になるだなんて。


 エリシアはミレイユの不思議そうな声にハッと我に返ると慌てて取り繕うように微笑んだ。

 目の前の鏡を見ればあの焼き菓子を思わせる可愛らしいベージュのドレスに身を包んだ自分がいる。

 胸元にはピンクトルマリンのブローチが輝き、髪にはドレスの裏地と同じ色の桃色の可憐なリボンを結んでもらった。


 あんなに嫌いだったベージュが魔法をかけられたようにお気に入りになる日が来るなんて思わなかった。

 母親が軽薄と罵っていた流行りのアクセサリーを身につけられるようになるなんて思いもしなかった。


 お気に入りのドレス。お気に入りのアクセサリー。それらを身につけている自分を見ているだけで気分が上向いて笑顔になれるから不思議だ。


「ミレイユ、ありがとう。今日のお仕事も完璧だわ」

「恐縮でございます」


 エリシアの言葉にミレイユも微笑んで返してくれる。

 だからエリシアは弾む足取りで部屋を出る。


 これから行く先にワクワクと心を踊らせたまま。

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