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「--王妃様がいらっしゃる……のですか?」
「ああ」
食事時にオスカーの切り出した言葉を聞き返せば、彼は短く頷いた。
「状況は便りで知らせてはいるのに、半年に一度くらいの頻度で俺の様子を見に来るんだ。今回は君にも会いに来るのかな」
「わ、私にも……」
「あまり気負わなくていい。王妃としてではなく、母親としての訪問だ…………ああ、いや、君の場合だとそちらの方が余計に緊張してしまうかな」
オスカーが苦笑をこぼす。
王妃。オスカーの母親。
確かにどちらの立場でもエリシアにとっては緊張する相手だ。
失礼のないように振る舞わねばと今から背が竦んでしまう。
「エリシア、もう一度言うが緊張をするのはわかるけれどそう気負わなくていいよ。母上も別に君を取って食うわけじゃあないから」
オスカーはそう言うが、それでもエリシアの緊張は消えるものではなかった。
・ ・ ・ ・ ・
そうして王妃が来訪する当日。
辺境地の古城には見合わない王家の紋が入った馬車が門の前に停まる。
それを見てエリシアは緊張に竦む背を必死に正した。
やがて馬車からひとりの女性が降り立つ。
麗しい白磁の美貌は光り輝かんばかり。す、と背筋を伸ばして歩く姿はたおやかで存在感があった。
まるで夜空に輝く一等星がそのまま地上に舞い降りたかのような美しい人を前にエリシアは自然と膝を折る。
「母上、お久しぶりです。辺境の地までようこそおいでくださいました」
その隣でオスカーも胸に手を当て、深く頭を下げる。
「久しぶりね、オスカー。あなたも変わりないようで」
薔薇の花弁のような紅を塗った唇が凛とした声を紡いだ。
それから南海の海のような碧に煌めく瞳がエリシアに流される。
「あなたがエリシアね。会うのは初めてね、息子と結婚したというのに今まで挨拶の機会を取れなくて申し訳なかったわね」
「お……お初お目にかかります、王妃様。お会いできて光栄に存じます」
王妃に声をかけられてエリシアは声が震えないようにそう答えるのが精一杯だった。
顔も上げられずに深く膝を折ったまま動けない。
「母上、食堂にお茶を用意させております。どうぞ、中へ。カイル」
「はい」
エスコートのできない魔獣の体であるオスカーの代わりにオスカーの最も身近な側近であるカイルが王妃の前に進み出た。
王妃は二人に対して礼を言うとカイルのエスコートを受けて古城の中へと足を進める。
その背を見送り、オスカーがいまだに膝を折ったままのエリシアを振り返る。
「エリシア、俺たちも行こう」
「…………はい」
オスカーに声をかけられてようやく息を吸えるような気分になった。
けれどもカイルにエスコートをされている王妃の背中を見るとまた竦むように背筋を正してしまう。
隣のオスカーが苦笑をこぼすように小さく喉を鳴らした。




