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 その日からエリシアはずっとオスカーと食事を共にしている。


 食事だけではない。

 茶会や散歩にも自ら誘うようにもなり、彼と過ごす時間はぐっと増えた。


 そのおかげで人の顔とは違う彼の機微も少しはわかるようになってきた。


 そうしてわかったのは、彼はとてもよく笑う男だということだ。

 笑い話にはケタケタと笑い転げ、ワクワクする冒険譚には目を輝かせる。

 人を見守る眼差しは優しく笑んで、誰かが幸せを掴んだ話には顔をくしゃりとさせて自分ごとのように嬉しがった。


 エリシアは彼を通して笑顔にも種類があるのだと初めて知った。


『誰かの笑顔は、幸せは見ているだけで笑顔がこぼれるものだよ』


 おかげであの時ピンと来なかったオスカーの言葉の意味を少しだけ理解ができるようになった。

 オスカーが笑んでいるとエリシアも顔が自然と綻ぶのだ。


 彼の機嫌の良い笑い声は不思議とホッと心が和み、楽しい気持ちになる。


 それはエリシアだけではないのだろう。

 彼の周りに笑顔が溢れる理由を改めて紐解いたような気がして、エリシアはなんだか少し嬉しくなった。


「エリシア様はここのところ機嫌良くお笑いになることが増えましたね」

「えっ……ええ」


 ふとミレイユに声をかけられてエリシアはハッとして頬を染める。

 つい口元を綻ばせていたことを見られたことがなんだか少し恥ずかしかったのだ。


 ミレイユは微笑ましげに笑んでいる。

 その笑顔はエインズワース伯爵家にいた頃ならば嘲笑されていると思って身が縮まっただろう。

 けれども今は彼女の微笑みの理由が自分の笑みにつられただけだろうと思えるから、無駄に気を張ることはなくなった。


 --オスカーに与えられた影響がこんなところにも出ている。


「……オスカー第一王子殿下のおそばにいると自然と笑ってしまうの。不思議ね、笑顔が伝染するものだって初めて知ったわ」

「あのお方はよくお笑いになりますからね」

「ええ、あんなによく笑う人、初めて見たわ」


 ミレイユの言葉に頷き、エリシアはクスリと口元を綻ばせた。

 彼の笑顔を思うと自然と笑みが溢れてしまうのだ。


「エリシア様は第一王子殿下をお好きになられたのですね」

「えっ……!」

「第一王子殿下と良き関係をお築きになられたようで安心いたしました。ここに来た頃はずっと固い表情で頑なに心を閉ざすような顔をなさっておりましたから…………あら?」


 ミレイユの言葉にエリシアが途端に顔を真っ赤に染めたのを見て、ミレイユが目を丸くする。

 だがそれも僅かのこと。彼女はすぐに丸くしていた目をニヤァ〜と笑ませた。


「エリシア様、そのお顔、第一王子殿下に好感を持っただけではなく恋をなさりましたか?」

「ち、違……! まさかそんなこと……っ!」


 ミレイユの言葉にエリシアは真っ赤だった顔を茹蛸のようにより真っ赤に染めて叫んだ。

「で、殿下よ! あんなに毛むくじゃらで人間の姿をしてないし、いつも獣臭いし! 王族なのに気安いし、誰にでも優しいのはいいところではあるのでしょうけど恋をするには特別感なんて何もないし! だから恋なんてそんな……ありえない!」

「あらあら、真っ赤になるほどムキに否定なさらなくても」


 必死に否定するエリシアにミレイユはそうコロコロと笑う。


「良いことではありませんか。他の男によそ見をするより、己の伴侶となった相手に恋ができる方がとても健全で素敵なことだと思いますよ」

「そ、それ、は……」


 そう言われてしまうとエリシアは口ごもることしかできない。

 確かに言われた通り、夫となった相手に恋をしたとしても何も問題ではない。むしろ政略結婚であるのにその相手に恋ができるのは幸運なことでもあるのだろう。


 だが、


「…………お、お願い……殿下には何も言わないで……」


 エリシアは真っ赤な顔を覆い隠してか細くそう言う。

 この気持ちが恋なのだとしたら、そのことをオスカーに知られることが妙に恥ずかしく思った。


「ふふ、かしこまりました」


 微笑ましそうにミレイユが笑って頷く。

 エリシアの頬の火照りはしばらく治まりそうになかった。

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