17
「ーー俺と食事を共にしたい?」
ある日、エリシアは思い切ってオスカーにそう告げた。
自分の言葉を繰り返すオスカーにエリシアはさっと顔を赤らめ、必死に頷く。
自分から何かを提案するのは久しぶりで、父や母に否定をされてばかりだったことを思い出すとどうしても胸元で握りしめた指先に力がこもって手が震えた。
「で……殿下が、妃とは長く共に歩くパートナーだと……だから互いを知らねばとおっしゃったので、私も殿下のことを、知りたく……」
言葉を必死に募らせるうちに自身の提案が良くないものだったのだろうと不安が込み上げ、言葉尻が弱くなる。
「あー……そうか。その気持ちは嬉しい。嬉しいのは本当なんだが……」
エリシアの言葉にオスカーがそう告げるも、その言葉は歯切れが悪い。
やはり迷惑だったのか、と視線を落とせば、オスカーが慌てたようにこう言う。
「あ、いや、気持ちが嬉しいのは本当だ! 君からも歩み寄ろうとしてくれるのは本当に嬉しい! だが、その……ちょっと説明のために言葉をまとめる時間をくれ。えっとな……えー……」
そう言って、オスカーはぎゅ、とまぶたを閉じて何事かを思いあぐねる。
そんな彼をエリシアはおずおずと見上げる。
「ーー……その、だな。俺はこの体になってからいくらか不便をしていてな。ペンや本もまともに持てない体だというのは見てわかるだろう?」
そうしてオスカーは自分の手のひらを示すように軽く広げる。
その手はゾッとするほど大きく、指は太ましく鋭い鉤爪もある。
彼の手のひらに並ぶとエリシアの手などまるで赤子のようだ。
「当然のようにカトラリーも握れない。それにこの体になってから人間では信じられないくらいに食べないと保たなくてな……だから俺の食事はすごく野蛮なんだ」
「野蛮……」
「獣性剥き出し。そのせいでな……母上を卒倒させた」
「お、王妃様が卒倒なされた……!?」
「俺がここに来てすぐの頃、俺の様子を見に来られたその時に。さすがに俺も反省したよ。今の俺は人間的に食事ができない体なんだなあと」
鼻の頭にシワを寄せ、まぶたを固く閉じるオスカーの顔はその時のことを思い返しているようだった。
「だから君の気持ちは嬉しいけれど、きっと俺と食事を共にすることは君を不快な気持ちにさせ、食事を不味くさせるだろう。悍ましさから母上のように卒倒をするかもしれない。だからあまりお勧めしたくはない。俺だってやっと少しは慣れてくれた君にまた怖がられたくはないしな」
そう言われてエリシアは視線を落とす。
彼の母親でさえも悍ましさに卒倒した野蛮な光景はそれはとても恐ろしいのだろうと想像することしかできない。
だが、
「…………それでも……私は殿下と食事を共にしたい、です」
彼が自分を慮って勧めないと言ってくれているのがわかったから、エリシアは震える声でオスカーにそう告げた。
言ってしまってからこれは自分の我儘なのだと、彼を困らせるだろうと思ったがそれでも引けなかった。引きたくなかった。
「一緒のものを食べて、同じ食卓を囲んでお喋りをして……そうすることでもっと殿下のことを知れると……だから、その……ダメ、でしょうか……?」
懇願するように手を組み、エリシアはオスカーを見上げる。
オスカーが怯んだように首を軽く引いた。
そして葛藤するように顔を歪め、思い悩み、やがてこう言った。
「--……わかった。我が妃の願いだ。俺も見栄を捨てよう」
「見栄……ですか?」
「可愛い妃に少しでも良く思ってもらいたいと思う男の見栄だよ」
不思議に問い返すエリシアにオスカーがそう答える。
その声音は苦笑をしているようだった。




